第12話『歌う道化②・他人の念仏で極楽参り』
【Side.リンゴ】
アイドル仕事の収録を終わらせた夕方。
私は楽しみな気持ちでトモリんの家に入った。
「こんばんは、トモリんー。葛葉くんいる?」
「いらっしゃいませリンゴ先輩。待ってましたよ。こちらに来て下さい」
出迎えてくれたトモリんが、そのまま私を家の中に案内してくれた。
ちなみにトモリんの両親の事務所の社長とかはいない。
トモリんの家族も色々あるから、トモリんは実質この家で一人暮らししてるような状況なのよね。
だからここで色々と出来るんだけど。
トモリんに案内されるまま奥の部屋に入ると、お目当ての葛葉くんがベッドに座っていた。
「やっほー葛葉くん。久しぶりだね」
「花村リンゴ……、てめぇもグルだったのか」
おお、睨まれてしまった。怖い怖い。
「まあね。トモリんとは仲良しの先輩後輩だから。それじゃトモリん、葛葉くん……ううん、恭一を分けて貰うね」
「ええどうぞ、約束ですから」
トモリんに確認すると、トモリんは頷いて返事した。
ワンチャン手の平を返されるのを警戒したけど、そういう事は無かった。
先に色々した余裕かな?
「じゃあ遠慮なく」
「何をする気だ」
あはっ、恭一めっちゃ警戒してる!
どうせ逃げられないのに。
「そうだね……。取りあえずデートにでも行こうか?映画とか、ゲーセンとか」
「断ったら?」
「その時はね……」
悩む振りをして恭一を油断させてから、不意打ちで彼にキスした。
「!?」
「ぷはっ、アイドルのファーストキスを貰ってどんな気分?」
驚く恭一が私を突き放すより前に、私から顔を離した。
「最悪だ」
ふ~ん、まだ強がるんだ。
「あっそ。ねえ、トモリん。ちゃんと撮れた?」
「ええ、見てみますか?」
レインを通して、私のスマホにさっきのキスの場面の写真が送られて来た。
こうして第三者の目線で見ると、また色々興奮するのね。
「うん、ちゃんと撮れてるね、ありがと。……さて、恭一」
私はベッドの上で涙目になっている恭一に向き直り、スマホの画面を見せる。
「これからは私の言う事も色々聞いてね?でないとこの写真をネットにバラ撒くから」
「……それをすると、てめぇもただでは済まないぞ」
恭一が私を睨むけど、どうしよう。全然怖くない。
「逆に恭一だってたたでは済まないね。私、恭一を物に出来ないなら他はどうでもいいから」
「っ………」
恭一が涙目で歯食いしばってる!かわいい!
「そうだ!これをイチゴに送って見せつけるのはどうかな?」
いい事を思い付いて、恭一をさらに脅した。
「ん?イチゴって誰ですか?」
それを聞いたトモリんが横で聞いて来た。
「知らないの?依藤イチゴ、恭一の幼馴染で、多分彼女だけど」
「えっ、きょー様の彼女って花京院アリアさんでは?」
「えっ?」
トモリんが意外そうに聞き返して来たけど、むしろこっちが意外なんですけど?
もう四か月も前の事だけど、元旦の日に恭一とイチゴが一緒だったのに?
「恭一がトモリんに嘘ついたんじゃない?」
「いえ、スマホのレイン履歴を見せていただきましたけど、本当に付き合ってるみたいでしたよ」
「そう……」
あの四か月の間に恭一がイチゴと別れたとは考え難い。
「じゃあ、もしかして……二股?」
もしかしてとは言ったけど、口にすると腑に落ちた。
恭一は何とも言えない顔のまま黙っている。
「なるほど。これは弱みが増えたかな?この動画、イチゴや花京院さんに送ったり、二股……いや、私とトモリんを入れた四股をバラしたらどうなると思う?」
イチゴはともかく、花京院さんは私たちが通っている私立悠翔高校の理事長の孫娘さんだから、裏切られた恨みで退学させられる事もあり得るんじゃないかな?
「……勝手にしろ」
「あら、強がってる?私に出来ないとでも?」
ちょっと腹が立ったので、恭一のスマホのロックを解除させ、それでイチゴのレインIDを調べて、私のスマホのレインでイチゴのレインIDにさっきの動画を送りつけてやった。
『ごめんねイチゴ。あなたの彼氏私がいただいちゃった。凄く良かったよ♥』
というメッセージち一緒に。
「ごめーん。手が滑って写真をイチゴに送っちゃったよ」
わざとらしく、でへっ、と自分の頭を叩いた。
「これでイチゴとは終わりだね。ご愁傷様。花京院さんにまで送られたくなかったら、これから気を付けてね?」
「………」
恭一は絶望したみたいに天井を見上げて、それを見た私の胸が少しスッとした。
それから私は恭一を連れ出して楽しいデートに出掛けた。
勿論、私は変装して。
三つ編みのウイッグと眼鏡でイチゴに似た感じにしたら、恭一が凄い微妙そうな顔したけどね。
デートの内容は街中を歩き回りながら、服や小物など、気に入った物があれば買う感じ。
私が誘って連れ回すばかりで、恭一からは何もないのがちょーっと不満だけど、まあ最初はこんなもんでしょ。
「はい恭一。あーん」
「………」
休憩を兼ねてカフェに入り、カップル限定のパフェを注文して食べさせ合いっこしようとしたけど、恭一の反応がよろしくない。
「ねえ、恭一。これデートなんだけど」
「で?」
「あんまり冷たくばかりすると、怒るよ?」
スマホを取り出して振って見せる。
そうすると、恭一も私の意図に気付いたのか大人しく私のスプーンでパフェを食べた。
「……ちっ」
露骨に舌打ちされたけど。
「恭一。私、小五の頃からあんたの事好きだったんだ」
「だろうな。でないとあんな事しない」
「イチゴをイジメた事?あれは反省してるって。もう過ぎた事だし、子供の嫉妬だったという事で流してよ」
両手を合わせて媚びるポーズを取ってみたけど、恭一の目は冷たいままだ。
「俺に謝ってどうする」
「イチゴにも謝ったって。それにさ……イチゴと花京院さんで二股掛けたのって、結局あんたも見た目が良いって事でしょ?」
すると恭一の目付きがさっきよりも厳しくなる。
私は構わず言い続ける。
「私はさ。あれからあんたに見て貰いたくて頑張ってアイドルになったの。そしたらあんたもモデルしたりライブしたりしたじゃない。だから釣り合いの取れる間柄同士、くっつくチャンスだと思ったのよ」
さりげなく、恭一の手を取った。
「イチゴとは終わりだし、花京院さんとも別れて私とだけ付き合おうよ。トモリんの持ってる写真とかは私がなんとかするからさ。幼馴染で人気アイドルの美少女、あの二人のいい所取りみたいなものよ?」
アイドルとお嬢様って、同列かちょっと微妙だけれど。
「断る。見た目や肩書だけで付き合ってる訳じゃない」
でも恭一は私の手を振り払った。
「じゃあなんでよ」
「てめぇには関係ない」
「そう。でもその内、気が変わったら遠慮なく言ってね。……じゃあ次は私の番よ。あ~ん」
「……ちっ」
私が口を開けてアピールすると、恭一は舌打ちした後にスプーンで私にパフェを食べさせてくれた。
形はどうあれ、恭一とデート出来るようになった所までは大方計画通り。
いや、あの目付きがいやらしい
まっ、結果オーライか!
トモリんと協力すると約束したのはここまでで、ここから先はトモリんとも蹴落とし合い。
何とかトモリんが持ってる恭一の弱みを無効化させればいいけど……。
そうだ、またあのサルを使おう。
トモリんが恭一に弱みを握られてるって本当の事と逆な嘘をつけば、コロッと騙されるでしょ。
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