第11話『踊る道化④・長岡修二はくじけない』

 また時間が戻って、5話の途中の時間から始まります

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【Side.長岡修二】


 出掛けると約束した週末になったというのに……


 寝坊してしまった!


 まずい!このままだと俺のいない間にアカリちゃんが葛葉に食われる!


 俺はアカリちゃんにレインを送り、身支度して家を出た。


 待ち合わせ場所近くの繁華街を走り回ると、すぐアカリちゃんを見つけられた。


「アカリちゃん!」


 そしてその隣にいる葛葉とリナも目に入った。


「葛葉!今すぐアカリちゃんから離れろ!」


 あえて注目を集める為に大声で叫んだ。


「ん?なあ、あれアイドルの夢川アカリじゃないのか?」


 おかげて通行人にもアカリちゃんが分かる人が出た。


 よし、これで周りが味方になった!


「長岡、話があるならちょっと場所変えようか」


 案の定、葛葉は逃げようとしたけどそうはいかない。


「逃げるのか?!」


「いや、だから場所を変えようって…」


「そう言い訳してはぐらかすつもりなんだろ!」


 葛葉がここにいる内に、楔を打ち込む!


「その顔で女の子をとっかえひっかえして次はアカリちゃんを狙ってるんだろうが、そうはいかないぞ!」


 俺の言葉に、野次馬たちがざわめき、多くの人が葛葉を白い目で見た。


「はあ………。リナ、帰ろうか」


「えっ、あ、はい」


 葛葉はアカリちゃんと二、三言交わし、リナだけ連れて背を向けた。


「そうだ!そのまま消えろ!二度とアカリちゃんに近付くな!」


 葛葉の背中に向けて追い打ちの言葉を放つ。


 これで葛葉は周りの目が怖くてでも、もうアカリちゃんに近付けないはずだ!


 俺の……勝ちだ!


「アカリちゃん!、何もされなかった!?」


 葛葉が去った後、俺がアカリちゃんに近付いて聞いてみた。


「………」


 なのにアカリちゃんは俺を無視したまま去って行く。


「アカリちゃん?」


 俺はアカリちゃんの後を追おうとしたが、見知らぬ人たちに止められた。


「待て!お前だった何者だ!アイドルのアカリちゃんとはどういう関係なんだ!」


「お……おれは!」


 アカリちゃんの主人公……とは言えない、恋人……はまだだ。なら。


「アカリちゃんの大切な人です!」


「は?……ストーカーだな!誰か、警察を呼んでくれ!」


 知らない人に押さえられた俺は、後から来た警察に引き渡された。


 そのまま交番に連れて行かれた後、俺は自分がアカリちゃんと元々知り合いだと言ってレインのチャット履歴を見せると警察の人は俺のストーカー疑惑を取りあえず収めた。


 厳重注意を受けた後に交番から解放されたが、俺の引き取りに両親に連絡が行き、また両親に怒られてしまった。




 それから突然、俺は悠翔高校を退学されてしまった。


 あの週末にアカリちゃんを葛葉から守ろうとして、往来で色々言ってしまった事がネットで炎上し、その発起人である俺に責任を問われたのだ。


 葛葉の評判に被害が出たのはざまぁ見ろって気持ちだが、アカリちゃんの評判にまで傷が入ったらしい。


 俺もそうなるとは予想出来なかったので、その点はアカリちゃんに悪いと思った。


 それで幾度も問題を起こした俺はとうとう退学処分を受けた。


「退学なんて横暴です!俺は悪い事なんてしてません!」


 俺はもちろん抗議した。


 この学校を退学させられたら、俺のいない学校で葛葉が益々好き勝手してしまう。


 この悠翔高校はいずれアリアと結婚する俺の庭なのに!


「反省すらしていないのか。この学校はお前みないな救いようのない奴を受け入れる余裕なんてない」


 けど結局は受け入れられず、退学処分も変わらなかった。


 バカ教職員共が!俺がアリアと結婚したら全員クビにしてやるからな!


 悠翔高校を退学された俺は編入先の高校を探す事になったけど……。


「父さんと母さんが離婚!?」


 その前、家の居間で父さんと母さんが離婚すると聞かされた。


「どうして!?」


「……あまりこういう風に言いたくないが、修二お前の所為だ」


 父さんが厳しい目付きで俺を睨んで言う。


「俺の所為?」


「ここ最近、お前が周りに迷惑ばかり掛けるから、その慰謝料で家計がもっと苦しくなった。この家だって売らなければならない」


「そんな……」


 長年暮らしたこの家を売る……?


「俺は、迷惑なんて掛けてない!全部葛葉の野郎が悪いんだ!」


「黙れ!それが問題だって分からないのか!」


 父さんが拳でテーブルを叩く。


「っ!」


 すぐにでも俺を殴りそうな勢いに、俺は怯んでしまった。


「葛葉家が俺たちを助けるためにリナを引き取ってくれたから、恭一くんはお前に迷惑を掛けられても俺たちの負担にならないよう見逃して貰ってたというのに。足元を見るように何度も迷惑を掛けて、恥ずかしいとも思わないのか!」


「それはあいつらが金の物を言わせてリナを奪っていったからだろ!それで足元見られても自業自得じゃないか!」


 そう言い返した瞬間、父さんに頬を殴られた。


「?!」


 予想も出来なかった不意打ちに俺は殴られた頬を手で押さえて父さんを見返した。


「もう本当に黙れ。お前の言う事など一言も聞きたくない」


 そして父さんは自分の部屋に入って行った。


「母さん?」


 俺は話を聞いていた母さんに目を向けたが、母さんも冷たい目で俺を見ていた。


「……ごめんなさいね修二。親としてあなたがそうなる前に正すべきだったでしょうけど、私ももうお手上げなの」


「だからって離婚する必要は……」


「父さんと離婚したら私とリナはあなたとは他人になるから、今後あなたが恭一くんに迷惑を掛けても遠慮する事はなくなるわ」


「なっ、じゃあ葛葉の所為で離婚するっていうのか!?」


「聞いてなかったの?あなたの所為で離婚するのよ。……こんな事言ってしまってごめんなさい」


 そして母さんも居間を去り、俺は一人取り残された。


 結局二人はそのまま離婚し、俺は父さんの方に引き取られた。


 母さんとは血が繋がってないから当然と言えば当然か。


 その後、俺は隣街の高校に編入試験を受けて合格し、高校の近所のアパートを借りて俺と父さんの二人で暮らす事になった。


 父さんとは別々に暮らす事になるかもと思ったが、俺が問題を起こさぬように監視する為にも一緒に暮らすんだそうだ。


 さらに、面倒を見るのは高校を卒業するまでで、その後は知らないと言われてしまった。


 葛葉さえ居なかったらこうはならなかったのに……クソっ!


 俺は諦めない。


 必ず葛葉に正義の裁きを下して、アリアさんを取り戻し、両親も再婚させてあの家に戻ってみせる!




 俺の編入後の初登校日になった。


 朝のHRが始まる前に職員室に行き、担任の先生に挨拶した後クラスに案内された。


「長岡修二です。家庭の事情でこちらに編入する事になりました。これから一年、よろしくお願いします」


 俺は教壇に立って新しいクラスメイトたちに向けて挨拶した。


 そんな俺の感触は、概ね好評だった。


 まあ、葛葉さえ倒したらこんなクラスとはすぐにでもおさらばするんだけどな。


「長岡の席は、吉田の隣が空いてるな。転校生と編入生同士、仲良くするように」


 ん?吉田?


 担任先生の言葉を聞いて、空いた席の隣を見ると。


「アミさん?」


「長岡くん?」


 同じ悠翔高校を通っていた吉田よしだ亜美あみさんがいた。


 吉田さんとはまとまった時間の昼休みに話し合う事にして、昼休み時間になると二人で校庭に出た。


「アミさんもこっちにいて驚いたよ」


「えっと、まあ。親の事情でね。それよりも…」


「でも良かったじゃないか。これで葛葉とも距離を置けて!アミさんだけでもあいつから解放されて嬉しいよ!」


 あっ、ついアミさんの言葉に被せてしまった!


「ごめん!言葉を遮っちゃって。なんて言おうとしたの?」


「…………えっと」


 やっぱり怒らせてしまったのか、アミさんが小刻みに震えている。


「……長岡くんって、私の事を下の名前で呼んでるけど、どうして?」


「あっ、ごめん!葛葉を倒そうとした同士だから親しみを覚えてて」


 俺はすぐ頭を下げて謝った。


 でもおかしいな。


 アミさんと名前を呼び合うイベントをクリアしたと思ってたのに。


 葛葉を倒すのに失敗して好感度がリセットされてしまったのか?


「これからは気をつけるよ、吉田さん」


「……うん、気を付けてね?」


 取りあえずアミさんを苗字で呼ぶ事にした。


 でもここでアミさんと再会したのは、彼女が葛葉に復讐するキーになるヒロインだからかも知れない。

 だからすぐまた名前で呼べるようになるはずさ。


「とにかく、同じく悠翔高校から来た人同士仲良くしよう!」


「……分かった。友達としてね」


 話し合いを終えた俺たちはそのまま教室に戻った。


 そして午後の授業も全部終わった後、クラス委員の男子に校舎を案内された。


 俺はアミさんにお願いしようとしてたけど、アミさんもまだこっちに来て日が浅く、用事もあるとの事で断られた。


「あっ、長岡くん!遅いよ!」


 校舎の案内された後、一人で下校しようとしてたら、校門で誰かに捕まった。


 覚えのある声に振り向くと、帽子とサングラスを掛けた花園さんがいた。


「花園さん……?」


「久しぶり、長岡くん!」


 ここで花園さんが会いに来てくれるとか、やっぱり俺の物語はまだ終わってないんだ!


 待ってろよ、葛葉。ここから反撃だ!



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 話のテンポ的に、一話後にした方がいいかもと悩みましたが、色々考えてこの話が11話になりました

 次はリンゴ視点になります

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