第8話『歌う道化①』

【Side.トモリ】


 まったく、あの長岡……いいえ、無能は想定以上に役に立ちませんでした。


 待ち合わせ時間に一時間も遅れたのは目を瞑りましょう。おかげできょー様と楽しく遊べましたから。


 問題はその後。


 いきなり現れては公衆の往来できょー様を貶すとか、非常識にも程があります。


 おかげでアレの知り合いという事で、私まできょー様に白い目で見られてしまったじゃないですか。


 本来ならきょー様がもう少し食い下がって、そしたら無能は前例や性格からして自分が勝てば私と距離を置くようにきょー様に勝負を仕掛けるはずでした。


 そこに私が割り込んで逆にきょー様が勝てば私がきょー様と二人きりでデートする事にした後、勝負もさりげなく私とリナちゃんを入れた2:2で行うように話の流れを持って行って、わざと負けてきょー様とデートして距離を詰める計画でしたのに。


 なのにアレの行動が非常識過ぎて、私の好感度まで下がってしまって食い下がってすら貰えず、下手したらきょー様に絶交される所でした。


 それだけじゃなくて、SNSでの炎上はきょー様だけでなく私の評判にも多大な被害がありました。


 男二人に二股を掛けようとして、痴情のもつれを起こした将来有望なビッチ系アイドルだと。


 どうやら私はきょー様と無能に二股を掛けたと見られた模様です。


 確かに無能を勘違いさせる動きはしましたけど、私はきょー様一筋なのに!


 その所為で事務所の社長でもあるパパに怒られてしまいました。


 私がきょー様にアプローチする目的でアイドルになったのはパパも知ってたので、

「もう少し大人しくやれ」

 をきつく言われたくらいでしたが。


 しかも今回の事で雑誌社はきょー様を起用するのをしばらく見送るみたいです。


 きょー様が出る号を毎回楽しみにしましたのに!


 本当に、最悪の中でもっとも最悪の外れクジを引いてしまいました。


「ねえ、夢川さんが来たよ」


「葛葉先輩を狙っておいて、裏では他の男に媚びを売るとか、流石アイドルはやる事が違うね」


「しかもそれがあの長岡修二でしょ?顔さえ良ければ誰でもいいのかしら」


 週末明けに登校すると、私は好奇の目に晒されました。


 学校やクラスでも例の炎上の件が知られているようです。


 ちなみに、あの無能は立て続けに問題を起こした事で退学になったみたいです。


 いい気味ですね。


「あの、トモリちゃん、週末の事だけど……」


 まだHRが始まる前。

 リナちゃんが遠慮がちに声を掛けて来ました。


「リナちゃん、あの時は知り合いが迷惑を掛けてごめんなさい」


 私は機先を制するように、まず謝罪から入りました。


 こういうのは謝ったかどうかで心証がグッと変わりますからね。


「いや、それはいいよ。トモリちゃんもあの馬鹿の被害者なんだから」


 謝った甲斐があってか、リナちゃんは私に同情的に接してくれました。


 距離を置かれるのも覚悟しましたが、いい子ですね。


 この子が私の未来の義理の妹ですか。


 ああ、もちろん、あの無能ではなく、きょー様繋がりでですよ?


「リナちゃん、私、葛葉先輩にも謝りたいのだけど……」


「うん、分かった。昼休みに一緒に行こ?」


 それで私は昼休みの時間にリナちゃんと一緒にきょー様の教室に向かいました。


「この間は知り合いが迷惑を掛けてすみませんでした!」


 そして早速頭を下げてきょー様に謝罪したのですが。


「……島川さん。関わって来ないでくれと言ったけど」


 と、冷たい言葉を返されてしまいました。


 本当なら今頃、トモリと呼ばれる筋書きでしたのに……!


「あのむの……長岡が葛葉先輩にあんな迷惑を掛けるとは思いませんでした。なんて言い訳ですけど、あれから長岡とは絶交しました。今後あのような事がないように気を付けますので、これからも仲良くしてください」


 本当はまだあの無能とハッキリと絶交してはいないのですけど、こっちがその気ならもう絶交したのも当然ですよね?


 付き纏われたら、その時こそストーカーだときょー様に泣き付けばいいんです。


「分かった。これからもリナをよろしくな」


「はい!」


 アレの被害者になった私の事情を理解してくれたのか、きょー様は快く私を許してくれました。


 ここから挽回です!


 ………


 ……と意気込みましたのに。


 あれから私はきょー様にあくまでも妹の友達として扱われ、露骨に距離を置かれました。


 やはり、どうしても無能の一件が尾を引いているみたいです。


「ねえートモリん。先手を譲ったのにまだ進展が無いの?そろそろ私が動いてもいい?」


 アイドルレッスンの休憩中、リンゴ先輩が煽る様に言って来ました。


 ぐぬぬっ……。


 確かに私が後輩という事で先にきょー様にアピールするチャンスを譲って貰いましたが、このままではリンゴ先輩に出し抜かれて、本番の蹴落とし合いで不利になってしまいます。


「もう少し待って下さい。もう少しで進展出来ますので」


「そう?じゃあもう少しだけ待ってあげるね」


 リンゴ先輩、余裕ですね。


 幼馴染のアドバンテージから来るのですか?


 でもねリンゴ先輩。


 幼馴染なんて、ただの過去の人なんですよ。


 私とは違うんです。


 ちょっと一緒に遊んだ事があるだけのリンゴ先輩はもちろん、他の女たちとは違うんです。


 それを教えてあげますからね。




 予定が空いた週末。


 私は前回の埋め合わせと称して、リナちゃんと二人で遊びに出掛けました。


 きょー様には未だ距離を置かれてるので、形だけでも誘いましたけどやはり来てくれませんでした。


 これも全部あの無能が出しゃばらなかったら……。


「ねえトモリちゃん。顔が暗いけど、大丈夫?」


 無能への恨みを募らせていたら、リナちゃんに心配されました。


「うん、大丈夫。ちょっと考え事してただけだから」


「兄さんが冷たくしてごめんね?兄さんはあの長岡修二さんとか女の子相手に色々思う所があるから……」


 リナちゃんは、私がきょー様が来てくれなかった事を嘆いていると思っているみたいです。


 私がきょー様目当てでリナちゃんに近付いたのを気付いているでしょうに慰めてくれるとか、本当にいい子ですね。


 これからする事を思うと少し気後れしてしまいます。


「リナちゃん、これからウチに来て遊ばない?」


「えっ、トモリちゃんのおウチ?」


「うん。どうかな?親は仕事で帰り遅いし、お菓子とか色々用意してるんだけど」


「……分かった、行こう!」


 私の突然の誘いに、リナちゃんは戸惑いましたけど、ちょっと押したらすぐ頷いてくれました。



 そして夜が更けた時間。

 リナちゃんは私の部屋のベッドで寝ています。


 ええ、飲み物に一服盛りましたよ。


 私のパパ、こういう薬を沢山持ってて、人に言えない使い方をしますからね。


 秘密にする代わりにちょっとだけ拝借しました。


 寝てるリナちゃんの服を脱がしてあんな写真やこんな写真を撮った後、手足をタオルで縛り付け、口も塞いで置きます。


 このままきょー様を呼び出して……ってきょー様の連絡先を知らなかったです。


 これも本当ならとっくに交換してる予定でしたのに、あの無能がぁ(以下略)


 仕方ないので、リナちゃんのスマホを借りましょう。


 認証は……指紋ロックですか。パスワードなら向こうから電話が来るまでお手上げでしたから良かったです。


 リナちゃん、指も借りますね?


『葛葉先輩、トモリです。突然リナちゃんのスマホでメッセージを送ってごめんなさい。実は私の家でリナちゃんと遊んでいたんですけど、リナちゃんが疲れて寝てしまいました。お呼び立てしてすみませんが、リナちゃんを連れ帰りに来ていただけませんか?』


 リナちゃんのスマホのレインアプリを使って、きょー様にメッセージを送りました。


 ついでに、きょー様のレインIDも写して置きましょう。


『分かった、すぐ行くから住所を教えてくれ』


 早速きょー様から返事がありましたので、私の家の住所を送りました。


 うふふふ、後少しできょー様が手に入ります……!


 楽しみ♪

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