第4話『踊る道化③・ざまぁかと思えばまたピンチ!?』
【Side.斎藤ユカ】
放課後。
いつもなら恭一や伊藤さんたちと遊びに行くか、生徒会の仕事を終わらせてイチゴかアリアと一緒に帰るんだけど。
今日はどっちとも都合が合わなかったので珍しく一人で帰る事になった。
まあ、たまにはこういう日があってもいいでしょ。
ついでに夕飯の食材も買って行こうかしら。
スマホでイチゴとのチャット履歴を見ると、イチゴから指定された献立表が出る。
その献立表はイチゴが食べたい物を並べた我が儘な表じゃなくて、ほどほどにみんなの栄養バランスを考えた上で、私たち料理当番が作りやすい料理で練り込まれた表だった。
栄養学でも学んだのかとイチゴに直接聞いてみたら、「それらしき本や論文を読んでそれっぽく考えただけ」らしい。
アリアはあの子を見た目で侮ってるけど、イチゴの知能ってヤバくないかって思う。
まあ、受け取り方によっては、毎回献立に悩まなくていいから楽なんだけどね。
あの舌の肥えたアリアも味への文句はともかく、「飽きた」とかは言わないからね。
そんな事を考えながら校門を出た時、嫌な奴と鉢合わせた。
「あっ、ユカ」
「バカ修二……」
不意を突かれたバカ修二との鉢合わせに、お互い睨み合ったまま足を止める。
こいつ、よく見ると前髪を短く切り揃えるんだけど、もしかしてイメチェンのつもり?
このバカが好んで読むラブコメの主人公みたいに?
キモいんだけど。
あんた元から前髪そんなに長くなかったじゃない。
おデコ丸見えで横や後ろ髪とバランス取れてなくてむしろダサいんだけど。
ほどほどに良かった顔が台無しになるくらいに。
全く、このバカをまだ好きだった頃にこいつの趣味を理解したくて、私もラブコメを読んでた事とかもう黒歴史だわ。
おかげで何考えてるのかは丸分かりだけど。
今更こいつと話す事なんて無いか。
言いたい事はイチゴの提案で送り付けたビデオレターで全部言ったし。
昔の婚姻届を破った時は本当にすっきりしたのよね。
「ふん」
そのままバカ修二の横を通り過ぎようとしたら。
「何だ、俺がカッコ良くなって後悔してるのか?」
「は?」
バカにバカな事を言われてつい足を止めてしまった。
「どうせ、葛葉に浮気されて一人で帰る所に俺を見て後悔したんだろ。でももう遅いぜ。俺はお前なんかよりずっと可愛いアイドルたちと仲良くなってるからな!お前の席はもうないんだよ!」
「………」
足を止めて損したわ。
ここまでどうでもいいバカな言葉を聞かされるなんてね。
「そう。じゃあお幸せにね」
それだけ言い残して、バカを無視して家路についた。
イチゴやアリアはあれのメンタルを潰したかったみたいだけど、割と頑丈だったわね。
私としてはあのバカが立ち直ろうが、誰と仲良くなろうが、関わって来なければどうでもいいけど。
そんな事よりも夕飯よ。
今日こそは一人だけ味にケチをつけるアリアに私のご飯を美味しいって言わせてやるからね。
【Side.長岡修二】
ふふふ。昨日の放課後、ユカのやつにざまぁしてやった。
あいつ、悔しがってたな。
後はあいつの土下座待ちだ。
趣味で読んでたラブコメを見習って前髪を切った甲斐があった。
これなら花園さんにも好印象を得られるだろう。
昨日は来なかったけど、今日辺りに来るはず。
そして昼休み時間になり、待っていた花園さんが教室に入って来た。
「お邪魔しまーす」
「ああ、いらっしゃい」
俺は自習していた手を止めて花園さんを迎えた。
「あれ?髪切ったの?」
花園さんは驚いたみたいに手で口元を隠した。
「うん、ちょっと気分転換に。どうかな」
「いいんじゃない?ぷふっ、似合ってると思うよ」
花園さんは笑いながら褒めてくれた。
「ありがとう、花園さん」
「呼び方も変わってるけど、どうして?」
俺の花園さん呼びに本人が首を傾げた。
「ああ、うん。実はあれから花園さんの動画を見たんだ。それで感動して、アイドルとしての花園さんを尊敬する事になったから」
「そう?……まあ、呼び方くらいはいいか。それよりも、せっかくだからお話しない?」
ユカたちもそうだったけど、女の子って本当にお話が好きだな。
学校の様子を聞きたい俺からしたら好都合か。
「いいよ、何から話す?」
「それじゃあね……」
花園さんはクラスであった事や、アイドル仕事の間であった事など他愛のない事を話した。
俺も程々に相槌を打って話が盛り上がり、それなりに花園さんと打ち解けた。
また数日後の昼休み。
俺とアカリちゃんが知り合いだと聞いた花園さんがアカリちゃんを連れて来てくれた。
「久しぶりです、長岡さん。同じ学校の先輩だったんですね!」
アカリちゃんが明るい笑顔で挨拶した。可愛い声が脳の奥まで響く。
やっぱりアカリちゃんは凄く可愛い。悠翔高校の制服姿も似合っている。
記憶にあるリナとは比べ物にもならないくらい可愛い。
「久しぶり、アカリちゃん。確かに奇遇だね」
「嬉しい偶然です。これからよろしくお願いしますね、先輩!」
アカリちゃんの声で先輩呼びとかやばい、耳がとろける。
それから、花園さんも入れて三人で色んな事を話し合った。
ユカたちに裏切られた事なんて全部吹っ飛ぶように癒される時間だった。
「そういえば、この教室。どの部活の部室なんですか?こうして使ってるんですから、私も入ろうかと思うんですけど」
話の途中、アカリちゃんがふとそんな事を聞いた。
「えっと……実はここ、部室じゃなくて俺専用の教室なんだ」
濡れ衣とはいえ、アリアを脅した罰で隔離されてるとは言えなかったので、虚実を混ぜて説明した。
「俺、成績で優遇されてる特待生だからさ。普通の授業なんか意味ないから、この教室で自習させて貰っているんだ」
「へえ、かっこいいですね!」
アカリちゃんが屈託ない笑顔で褒めてくれて、ほんの少しだけ良心が痛んだけど、成績を期待されて隔離されてるのは間違ってないからいいよな?
「所でアカリちゃん、クラスに友達とか出来た?」
俺は話題を変えるべく、世間話の一つとして質問した。
それでどういう答えが返って来るのかも分からないまま。
「はい!葛葉リナちゃんって子と友達になりました!」
えっ、葛葉……リナ……?
「リナちゃん、凄いんですよ。入試の首席で頭良くて、可愛くて、素敵なお兄様だっているんですから!」
素敵な……お兄様……?
「知ってますか?葛葉恭一という先輩ですけど、顔もかっこよくて、背も高くて、体に筋肉も付いてて、優しくて、モデルもしてて、前の文化祭では本職のアイドルにも引けを取らないライブステージまでしてたんですよ!?私、感動しちゃってファンになったんです!そしたらリナちゃんが紹介してくれて……」
「トモリん、はしゃぎすぎ」
アカリちゃんの話が絶え間なく続く続き、それを花園さんが止めた。
「あっ、すみません。つい夢中になっちゃって……」
アカリちゃんはてへっっと舌を出した。
ちなみにトモリというのはアカリちゃんの本名らしい。
俺はアイドルとしてのアカリちゃんをリスペクトしてるからアカリちゃんと呼び続けるけど。
「友達……出来て良かったね……」
口ではそう言ったけど、俺の声は震えてた。
それに気付かないのか、アカリちゃんは嬉しそうに頷く。
「はい!それでですね。次の週末、リナちゃんと、葛葉先輩と一緒に遊びに行く事にしたんです!」
アカリちゃんが、葛葉と?
まさか、このままアカリちゃんも恭一に取られてしまうのか?
それだけは避けなければ!
「アカリちゃん、それだけど。俺も一緒に行っていいかな!?」
「えっ、長岡先輩もですか?」
「ああ、実はリナは俺の義理の妹でもあるけど、この前喧嘩しちゃってね。仲直りもしたいんだ」
なんて言い訳だ。あいつと仲直りするつもりなんてさらさらない。
学校で葛葉と揉めたら今度こそ退学されかねない。
だから学校の外で葛葉の素顔を暴いてアカリちゃんから引き離すんだ。
「えっと………、分かりました。じゃあもう一人呼ぶって伝えますね」
「ありがとう!あっ、俺の名前は当日まで隠しててくれ。リナと喧嘩してたから、キャンセルされるかも知れないから」
「はい、気を付けますね」
よし、後は週末に葛葉を倒すだけだ!
【Side.トモリ】
そろそろクラスの教室に戻る、と言って私とリンゴ先輩は教室を出ました。
長岡は誤魔化しているみたいですけど、この教室が優遇ではなく、問題を起こした長岡を隔離する為の教室だというのはとっくに調べ済みです。
あまり露骨に意図して長岡に近付いていると思われたくなかったので惚けているんですけどね。
褒めたら調子に乗る長岡の様は滑稽で笑うのを我慢するのに大変でした。
まあ、アレの相手をするのも後少しの辛抱です。
週末になればきょー様と……。うふふふ……!
「トモリん、楽しみなのは分かるけど、あんたの次は私だからね?」
「ええ、覚えていますよ」
リンゴ先輩に楽しい気持ちに水を差されてイラっとしましたけど、我慢しました。
まだリンゴ先輩とは協力関係ですからね。
きょー様が長岡の回りの女を全部奪ったという情報とか、わざと長岡と仲のいい振りをしてきょー様に奪われる作戦とか、リンゴ先輩から貰ったものですから。
今後予想外の展開になった時にまた知恵を引き出す為にも、まだ出し抜くには早いです。
二人揃ってきょー様と近しい関係になるまでは協力を続けましょう。
その後は、他の女共々蹴落としますけどね。
うふふふ……、
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