第2話『二年新学期開始』
俺の義理の妹のリナは無事、私立悠翔高校の入学試験に合格した。
しかも首席で。
「凄いですね、リナさん!流石は私と恭一さんの妹です!新入生代表挨拶もよろしくお願いしますね!」
それに俺の恋人にして悠翔高校理事長の孫娘でもあるアリアさんはまるで自分の事みたいに喜び、長い金髪を揺らし緑色の目を輝かせながらリナの合格を祝ってくれた。
さりげなくリナを妹扱いし出したが、まあいいか。
「ええっと……、頑張ります」
思う所があってか、自信が無いからか、リナは遠い目で肩の下まで伸びた天然パーマの髪の毛をいじりながら、アリアさんに答えた。
そして来たる入学式。
普通の生徒ならともかく、俺たちは生徒会役員だったので準備に駆け回った。
そうして頑張った甲斐もあり、入学式は問題なく進んだ。
「し、新入生代表の葛葉リニャです……あっ」
リナが新入生代表挨拶で噛んだりはしたが、あれくらいは愛嬌だろう。
「葛葉?もしかして葛葉恭一の妹か親戚?」
「そう言えば雑誌のインタビューで葛葉恭一さんに妹がいるって見たかも」
「じゃあ本当に妹?仲良くしたら葛葉恭一とも仲良くなれる?」
チラッと、新入生の女子たちがそんな噂するのも聞こえた。
俺をフルネームの呼び捨てとか、芸能人じゃないんだぞ。別に怒らないが。
まあ、リナが悪意で孤立するような事にはなり難そうだからいいか。
「あ、あの!葛葉恭一様ですね。ファンです!サインしてください!」
せっかくだからリナを教室まで迎えに行ったら、リナのクラスメイトの女の子に俺が表紙に出てる雑誌を差し出されてお願いされた。
まあ、リナへのイジメ予防にもなるだろうし、これくらいはしてもいいか。
「分かった、妹と仲良く頼むよ」
「はい!お任せてください!」
「あっ、私にもサインください!」
「私も!」
それからしばらくは俺のファンらしき後輩たちにせがまれてプチサイン会をする事になった。
「兄さん、ああいうのは相手しなくても良かったんですよ?」
それで帰り際、リナは少し不機嫌そうだった。
まあ、自分を迎えに来たのにほったらかしにされてサイン会となってはそうもなるか。
「ごめんな。でもリナが変に嫉妬されて悪い悪戯されない様に、牽制する目的もあったんだ」
言いながら、リナの頭を撫でた。
最初はこういうスキンシップにもかなり気を使ったが、今ではもうお互いに慣れた。
「ふん、過保護ですよ。……でも、ありがとうございます」
義理の兄妹になってまだ一年も経ってないが、大分仲良くなったとしみじみ思った。
入学式の次の日は、二年生と三年生の始業式だ。
「恭っち!今年も同じくらすだね!」
「今年も色々奢ってくれるのよろしく」
「あはは、よろしくね、恭一くん」
「ああ、よろしく」
二年目の新しいクラスは一年のクラスメイトを半分以上引き継ぎ、一年の時の友達だった金髪のユウリ、赤髪のカヨ、緑髪のケイコとは今年も同じAクラスだった。
ちなみに春休みまでに色々あったので、この三人とは下の名前で呼び合う事にしている。
……本当、色々してしまったな……。
ケイコやユウリだけでなく結局はカヨとまで……。
「花京院さん、今年も同じクラスなんだ!今年もよろしく!」
「ええ、よろしくお願いします」
当然と言えば当然だが、アリアさんも同じクラスだ。
クラスメイトの選別に、彼女の意向も反映されてるのだろうからな。
他のクラスメイトに囲まれていて、去年と同じく堂々と声を掛けられる空気では無いが。
「えっと、依藤さん?何の本を呼んでるの?」
「失せろ」
「すみません……」
そして俺の真の恋人のイチゴも同じクラスだ。
三つ編みに丸眼鏡を掛けた地味な見た目だから、狙いやすそうだと思ったのか今年も陰キャ男子が声を掛けたが、すぐ撃退された。
ん?陰キャ呼びとか辛辣じゃないのかって?
イチゴに色目使う奴に気を使う事なんて無い。
そして去年との違いを言うならば。
「今年は私も同じクラスね。よろしく」
「おう、よろしくな、ユカっち!」
ユカとも同じクラスになった。
いつもと変わらぬ制服姿だが、ツインテールの髪と大きい胸が目立つ。
「これでアミさんもいたらよかったんだけど……」
「アミの事は残念だった」
が、吉田アミさんとは同じクラスになれなかった。
というか、吉田さんはもう同じ高校の生徒ですらない。
三学期が終わる頃、突如家族の都合で吉田さんは他の高校に転校する事になったのだ。
転校を止める為に吉田さんの両親と直談判……なんて事が出来るはずもなく、俺たちはささやかなお別れ会を開いて吉田さんを送り出した。
とにかく友達や恋人(たち)が一つのクラスに揃ったのは喜……べる事なのか確信が持てないが、イチゴたち恋人組は一緒に暮らしていて修羅場になる事もないから、クラスでも楽しく過ごせるかも知れない。
ツッコミ所だらけだがな!
色々思いながらも、これからの学校生活に期待していた時。
「おい!隣のクラスにアイドルの
「Cクラスには現役モデルの
一部のクラスメイトがホットニュースだと言わんばかりに騒いだ。
Cクラスのモデルさんはともかく、隣のBクラスにあの花村リンゴが転校して来た事に、俺の心が大きくざわついた。
アリアさんによって引っ越して同居しているシェアハウスの居間にて。
「
あいつの転校について知っていそうな人。つまりアリアさんに聞いてみたら、すぐ答えを貰った。
ちなみに花園リンゴというのはあいつの芸名らしい。
「アリアさんがお願いして?どうしてだ」
「新入生たちの目当てを、私や恭一さんから他の人に逸らしたら、私たちの交際も公表出来ると思ったのです」
俺はアリアさんの説明に、同調するかはともかく納得した。
それで女子に花村リンゴ、男子に宗方三明を転入させたのか。
「なるほど。しかしよくも向こうが引き受けてくれたな。学生芸能人を引き受けたい学校はそれこそ沢山あっただろうに」
「それは……、言えば皮肉ですが、向こうも私たちに興味があったらしくて引き受けられました」
「なるほど、それは皮肉だ」
目暗ましの囮すら俺たち目当てだとかな。
「それにしても、恭一あんた、やたらあの花園リンゴを気にするじゃない。ああいうのが好みなの?」
厨房で夕食の準備をしていたユカが居間に来て、やや不機嫌そうなに聞いて来た。
ちなみにこのシェアハウスでの食事は、俺、ユカ、リナの三人が当番回りで食事を用意して、各自都合で手が回らなくなった時はイチゴやアリアの金で出前を取る事になっている。
「違う」
ユカの問いに、俺は反射的に低い声を出してしまった。
「えっ?」
俺の意外な反応にユカとアリアさんがびっくりした。
「悪い。ただ、本気で嫌だったからな」
「そう、珍しいわね。知らない相手でしょうに」
「……あいつとは小学校が一緒でな。その時色々あったんだ」
イチゴがイジメられてた事は……、この場にアリアさんもいるので伏せた。
俺とイチゴが幼馴染だとアリアさんが知ったら、どこまで気付いてどう出るか全く予想出来なくて怖いからな。
「そうなのね。……そう言えば知ってる?新入生にもアイドルの子がいるんだって」
ユカが花園リンゴから話題を逸らそうとしたのか、別の話を持ち出した。
「新入生にもアイドル?そういう子がいたか?」
「
続くアリアさんの説明によると、彼女の芸名は
島川さんは女優の母から優れた容姿や声を引き継ぎ、芸能事務所の社長でもある父のサポートを受け勢い良く売り出し中で、日に日に人気が上がっているとか。
そして悠翔高校は設備が新しくていい方だから、ついでに島川さんもねじ込まれたそうだ。
さらに、意図的にリナと同じクラスに配置したとアリアさんが言った。
ってやっぱりクラスの配置いじれるのか。
「そうか」
説明を聞き終えて、俺は生返事に近い感想を返した。
島川か……、そういえばリナのクラスメイトにサインしてた時、そんな名前も書いたかも知れない。
「あまり興味なさそうね」
「興味ないからな」
ユカの言葉に少し素っ気なく返事した。
花村リンゴはこっちから避けるが、まあその島川さんも、Cクラスに転入したという宗方も、俺と絡む事は無いだろうからな。
………。
……と、思ってたのに。
「あの、覚えてますか?この前サインしていただいた島川トモリです!妹のリナさんとお友達付き合いをさせていただいてます!よろしくお願いします!」
翌日の昼休み。
新しく出来た友達を紹介すると、リナが連れて来た女の子にそう自己紹介された。
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