番外『IF・ユカ〇〇〇〇ED』
大学を卒業し、社会人になってもう五年目になる。
事務所からは俺自身が芸能人にならないかと何度も誘われたが、妻があまりいい顔をしないから辞退させて貰った。
その代わり、いざという時に顔出しOKなスタッフとして扱われているが。
「おーい、葛葉。今日仕事が終わってから飲み会があるんだけど、お前も来るよな?」
金曜日の午後。
会社で仕事をしてたら同僚がさらっと俺を飲み会の面子に組み込もうとした。
「いや、悪い。今日は家族に急かされてるから仕事上がったらすぐ家に帰る」
「何だよ、お前が来るならってOK出した子が多いってのに、少しは助けろよ」
「何勝手に俺をエサにしてんだよ、ギャラ取るぞ。そもそも俺は妻子持ちだが何故俺目当ての子がいるんだ?」
「お前の場合は色々特殊だから、まだ狙えると見えてるんじゃないのか?」
「狙えねえよ。とにかく俺はパスだからな」
同僚の誘いを蹴った俺は、そのまま定時で仕事を上がりすぐに愛しの家族が待つ家に帰宅した。
「ただいま」
「「パパー、おかえりなさいー」」
一戸建ての家の玄関に入ってすぐ、息子と娘が俺を出迎えてくれた。
娘の方が姉で、俺や妻に似て愛らしい子たちだ。
「お帰りあなた。ちゃんとすぐ帰って来たわね」
そしてその後ろから、妻のユカがエプロン姿で俺を迎える。流石に歳もあってツインテールは辞め、長い髪を下ろしている。
「ああ、今日から家族サービスすると約束したからな」
そう。俺は大学を卒業してすぐユカと結婚したのだ。経緯は後で話す。
「パパ!イチゴママがあたらしいゲームつくってくれたの!」
「おもしろいんだ!いっしょにしよ!」
ユカと歓談する暇も無いまま、俺は子供たちに手を引かれて居間に連れて行かれた。
居間では電動車椅子に座っているもう一人の妻のイチゴが、車椅子と一体化してるテーブルに乗せたノートPCを弄っていた。
こっちも学生だった時と感じが代わり、丸眼鏡はシャープな物に変え、長かった髪は管理が面倒だからと短く切り揃えている。
ついでに言えば、イチゴが電動車椅子を使っているのは別に足が不自由になった訳じゃなくて、家の中でも楽して移動したい本人の怠惰による物だ。
「お帰りパパさん。飲み会、蹴っても良かったの?」
イチゴがノートPCから目を外して俺に挨拶した。
きょーくんだった呼び方は結婚を期にパパさんに変わっている。
それに今でもまだ俺のスマホには盗聴アプリが入ってるからイチゴたちに俺の動向は筒抜けだ。
妻たちからとしては俺への浮気対策になり、俺も疑われて時に身の潔白を示す証拠になるから、お互いちょうど良かったのでそのままにしているのだ。
「いいさ。約束破ったら子供たちが拗ねるからな」
そう、俺はイチゴとも結婚したのだ。
別に法律が変わって二人と重婚した訳ではない。
あれは大学卒業前に就活してた頃。
俺はユカに本気の逆プロポーズをされた。
当時の俺は大分ユカに心が頷いていたけど、イチゴを捨てる事は出来なかったのでプロポーズを断った。
そうしたらユカにイチゴが一緒でも構わないと言われ、そのまま流されてイチゴも入れて三人で協議した。
話し合いの結果、ユカは、イチゴも俺のパートナーとして受け入れる事を。
イチゴは、今までイチゴが作った俺のハーレムを崩してユカだけ残す事を。
俺は、ユカとイチゴの二人をパートナーとする事を。
それぞれ譲歩し納得する事で家族になった。
アリアさん、いや花京院さんとか他の女子たちとの関係を整理するのに大分骨を折ったがな……
ユカやイチゴと一緒に暮らしているカラクリは、協議の後に本格的な子作りを始め、先に妊娠したユカと婚姻届を出して子供(娘)を産み、
その一年後にイチゴが妊娠し、ユカと離婚してイチゴとの婚姻届を出して、イチゴとの子供(息子)を産んだという、言わば順番に結婚する力技だ。
対外的には先にユカと結婚して子供が生まれたのは良かったが、その後ユカが産後鬱になって神経質になった時に俺と喧嘩した勢いで離婚。
そして俺がイチゴと再婚して子供が生まれた後、シングルマザーになったユカは一人で子育てしてる途中に頭が冷え。
ユカが俺の所に来て謝り、三人で話し合い仲直りして子育ての為に五人で暮らす事になった。
……というシナリオで周囲に説明した。
ちなみにこれら全部イチゴのアイデアだ。
これが三人以上の相手と入れ替わるように結婚してたら白い目で見られただろうが、ユカとイチゴの二人までならまだ理解の余地がある事情だから周囲には概ね受け入れられた。
それでも一部の人からは少し白い目で見られたが。
離婚の際にユカが苗字を戻したりもしなかったから、ユカもイチゴも、子供たちも全員苗字は葛葉だ。
つまり今の妻と子供がいる家庭に、前の妻と子供も同居している実態だが、違法では無い……はずだ。
世間に後ろ指さされたりはするだろうが。
実際、イチゴの両親はともかくユカの両親にこの関係を反対されてた。
そこにイチゴが自分の収入をユカの両親に見せ、いざとなったらイチゴ一人で家族全員を養えると伝えた。
ユカの両親もそのままイチゴに説得されて、ユカや孫を金で苦労させる事はないだろうと渋々納得してくれた。
その後、家庭での役割はユカが主婦、イチゴが在宅ワークで稼ぎながら子供たちの遊び相手を。
俺はイチゴの仕事を手伝っても良かったが、ただでさえ母親が二人という特殊な家庭だから、父親は会社に行って働く人というイメージを守りたくて今の芸能事務所に就職した。
「あれー、これどうするんだー?」
「パパへた!これはこうするんだよー」
「おお、賢いな」
家族皆でユカが作ってくれた夕飯を食べた後、子供たちと一緒にイチゴが作った知育ゲームで家族でのコミュニケーションの時間を持った。
……この知育ゲーム、子供向けにしては本気で難しいんだが、イチゴの英才教育がもう始まってるのか?
子供たちの将来が少し不安になりつつも、一時間くらいして遊び疲れた子供たちを寝かしつけて、居間に戻りユカ、イチゴとのんびりとした時間を過ごした。
「ん?パパさん、明日アリアちゃんが遊びに来るって」
イチゴが通知が届いたスマホをチェックしてそう言って来た。
「またか、そろそろ諦めて欲しいんだがな」
「私たちがこんな関係だから、まだチャンスがあるって思ってるんじゃないの?」
俺がげんなりしてると、ユカが会社の同僚と似たような意見を言う。
「……そうかもな」
昔交際していた女子の内、花京院さんは一番諦めが悪くて今でも独身のままで俺に迫っているのだ。
例えとしては、俺が働く事務所の株主になって俺に
おかげで本当に子供たちが花京院さんもママと認識してた時期がある分、質が悪い。
どうにかして欲しいと花京院さんの家族にも直接相談したが、「すまないが、もう手遅れだから相手してやってくれ」と言われてしまったくらいだ。
今では俺が花京院さんを避けてユカとイチゴが友人として花京院さんの間にワンクッション挟まれているが、最終的には俺が接待する事になっている。
「……明日は、花京院さんが来る前に皆で動物園にでも行こうか」
そんな花京院さんから逃げるため、俺は二人に遠出を提案した。
「いいんじゃないの?アリアの事はともかく、最近動物園の数も減って来てるから、子供たちを連れて行ける内に行くのも」
「それじゃ、アリアちゃんには昼に来るように言っておいて、朝の内に出発しよっか」
イチゴが花京院さんに酷い事をすると思うが、諦めない向こうも悪いからな。
これに愛想を尽かしてくれればいいんだが。
そうして予定が決まり、翌朝ぐずる子供たちを急かして車に乗せ、動物園に向かった。
運転するのは勿論俺だ。
家で遊ぶつもりだった子供たちは最初は色々ぶーたれてたが、いざ動物園に着くと珍しい動物たちに目を輝かせてあちこち連れ回された。
「パパ!ママ!ボクたちもどうぶるかおう!」
「かわいいよ!」
それに影響されたのか、子供たちに動物を飼いたいとねだられた。
「そうか。ここでは動物を連れ帰れないから、家に帰った後にまた考えよう」
確かに情緒教育のためにも犬や猫を飼うのもいいかも知れないと思ったので反対はしなかった。
家計には余裕があるし、子供と動物を世話する人も他の家庭より多いからな。
そして日が沈むよりも早い時間になると子供たちが遊び疲れたので、早めに家に帰る事にした。
「……なあ、ユカ」
行きと同じく車で帰る途中、ふと思う事があって助手席に座っているユカに尋ねる。
「?なに?」
「今更だけど、こんな形になってしまって、今幸せか?」
俺は、形はどうあれ一番大事なイチゴと結婚出来たから文句はない。
ただそれはあくまで俺の都合で、ユカは今更になって後悔してるんじゃないかと不安になったのだ。
「そういうあなたは幸せ?」
ユカに聞き返され、俺は少し考えた。
「俺は……、お前や子供たちが幸せなら、それで幸せだ」
今となってはユカも子供たちもイチゴと同じくらい大事だ。
だから、ユカには本人が満足出来る形で幸せになって欲しくて、今の関係に苦痛や不満があるのなら、俺が身を引く事になっても幸せになって欲しい。
俺はイチゴを捨てる事は出来ないからな。
「私も、あなたや子供たちが幸せならそれで幸せよ」
「何だそれは」
少しおかしくて笑ってしまった。
「なら、俺は幸せだって言わないとな」
「私もね」
ユカも俺につられたのか笑顔になる。
「まあ、確かに最初はイチゴもアリアも蹴落としてあなたを一人占めするって意気込んでたけど、結局イチゴには勝てなくて、それでもあなたが幸せなら仕方なくて、なのに私が諦められなかっただけよ。色々割り切ったらイチゴも家族としてはいい相手だし、結構今の生活を楽しめてるわ」
「……そうか」
「私も!二人や子供たちに囲まれて幸せだよ!」
後ろ座席で子供たちに膝枕していたイチゴが割り込んで来た。
「ああ、ありがとな」
胸の内が暖かくなるのを感じて、俺は家に向かって運転を続けた。
家に帰ると、玄関前で立ち尽くしているカジュアルな装いの金髪の美人、花京院さんが居てギョッとした。
「……なあ、どうするんだ?あれ」
「あなたが相手してあげなさいよ。今までずっと待ってたのなら流石に可哀想だから」
「私とユカママは子供たち連れて裏から家に入るねー」
ユカとイチゴに相談したが、その甲斐もなく花京院さんの相手を押し付けられ、車を車庫に停めた後にユカとイチゴは子供たちを連れて先に裏口で家に入って行った。
「……花京院さん?何故ここに?」
一人になった俺は仕方なく花京院さんに近寄って恐る恐る聞いてみる。
俯いていた花京院さんは死んだ魚みたいな目をして顔を上げた。
「……昼に来て良いという事で来ましたが、皆さんお留守で、ちょっとした急用でいないのかと思って待っていました……」
「そ、そうか。悪い。急に動物園に行くと決めて今までそっちに行ってたんだ。途中で帰ってくれても良かったのに……」
「私も、少しおかしいと思ってイチゴさんに連絡したんです。……そうしたら、こんな物が送られて来て……」
花京院さんはスマホを操作して俺に画面を見せた。
その画面には、俺、イチゴ、ユカの三人がベッドの上で夫婦の営みを致しているの動画が再生されていた。
「なっ」
イチゴォ!!!何て物を送ったんだ!!!
「恭一さん!これを見るとどうしてもあの頃を思い出してしまうんです!もう私が愛人でもいいので、また私をアリアと呼んで抱いてください!そして子供を!」
「勘弁してくれ!」
そのまま縋り付いて来る花京院さんを引き剝がしたり、それを見て何か誤解しかける子供たちに説明したり、有耶無耶の内に家に居座ろうとする花京院さんを追い出したりと、忙しい週末になった。
―――――――――――――――
ちょっと思いついたので書いてみたIFのED、ユカ&イチゴEDでした
……アリアは……IFですが負けヒロイン代表兼オチ担当になっていただきました
長岡修二についても、この時期ではそんな奴いたなーって感じです
需要があるのか、まだ早いんじゃないのか、そもそも受け入れられる内容なのかも分かりませんが、試しに載せました
現在の連載状況からでは、恭一がイチゴと別れるのが想像出来ないキャラなので、イチゴだけはセットにくっついて来る事になりました
余程の事がないと、他のヒロインとのEDでも似たような状況になると思います
これはあくまでも現在の連載状況から書いたIFですので、本当にこのような終わりにするつもりはなく、本編の進み具合でこういうEDに到達する前提が崩れる可能性もありますので、ちょっとしたロールプレイみたいな物としてご理解ください
入れ替わり結婚した事については、呆然と考えていた大団円の形を前倒しで引っ張ってみました
法律的にはともかく世間体は当然悪いでしょうが……
反応や作者も予想してない先の展開次第で真のエンディングでも採用したり、没になったりするかも知れません
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