第14話『冬休みのあれこれ』

 帰省と初詣、三が日が過ぎた後は、俺はすぐモデルの仕事を増やす事にした。


 アリアさんとも付き合う事になってから彼女が俺を自慢する為に伝手のある雑誌社に紹介した仕事で、今まではたまにやるくらいだったがそろそろ本腰を入れるつもりだ。


 俺はもう高校生。イチゴに貢がれた金は将来結婚して返すとは言っても、それまでずっと世話になる訳にも行かないからな。


「きょーくん、自分で稼ぎたいの?」


 部屋でその考えをイチゴに打ち明けると、すぐイチゴが提案して来た。


「じゃあ私がお仕事あげようか。他の女子を口説き落として、ハメ撮りして私に渡してくれれば、その度にお金を出すよ?」


 何言ってくれるんだ、俺の彼女は。


「それはもう犯罪だろ。今までだって既にグレーなラインにいるんだから勘弁してくれ。あとアリアさんやユカにはどう説明するんだ」


「冗談よ」


 イチゴはあっさり引き下がってくれたが、長年付き合って来た俺には分かる。


 これ、冗談ではない。


 俺が万が一にも受け入れてたら、冗談と言って取り下げたりしなかっただろう。


「じゃあ私の集金システムの管理の手伝いとか、それともきょーくんのスペック使ってネット配信するとか、オリジナル曲やASMRボイスを収録して売り出すとかはどう?」


 しれっとこういう仕事の提案も出て実際に出来そうな辺り、イチゴも俺もかなりハイスペックなんだよな……。


「……どっちも気になるけど、今は一度足を踏み入れたモデルに集中してみたい」


「そうなんだ。でもそれに時間取られ過ぎて私たちと遊べなくなるのは嫌だから、本職にはならないでね」


「分かった」


 イチゴと話した後は、アリアさんに電話を掛けた。


 一応、俺が雑誌者にモデルの仕事を希望するにも、雑誌社の方で俺にオファーを入れるにも、紹介してくれたアリアさんの仲介と許可が要るのだ。


 言わばアリアさんがモデルとしての俺のマネージャーと言った所か。


『モデルの仕事を増やす……ですか?お金が必要でしたら、私が出しますので、仕事するよりも私とデートしませんか?』


 アリアさんに相談したら、そう返されてしまった。


「いや、それは勘弁してくれ。お金の事まで世話になりたくないんだ」


 俺は本気で血の気が引いて必死に遠慮させて貰った。


 イチゴだけでなくアリアさんにまでハッキリ貢がれ始めたらマジで洒落にならない。


 本気でクズになってしまう。


 俺がイチゴに金を貰い続けるのは、いずれ責任を持って結婚してイチゴを幸せにする覚悟があるからだ。

 そういう覚悟もないアリアさん相手に、好意を搾取する訳にはいかない。俺の良心的に。


『そうですか……、では向こうと予定を合わせますので少し待ってくださいね』


 アリアさんは俺の言い分を受け入れ仕事を探してくれて、仕事はすぐ入れられた。




 雑誌社に入ると担当の長谷川さんが俺を歓迎してくれた。


 紺色のスーツを着た、よく見かけそうなサラリーマンの人だ。


「助かるよ葛葉くん。この前に君の参加してくれたクリスマス&新年特集号も大人気でさ。次も君に入って貰えると売り上げも安心できるよ」


 自分で言うのもあれだが、俺は人気があるみたいだ。


 この前に学園祭でやったライブステージの動画を公開した事でさらに人気に拍車が掛かったらしい。


 とは言っても上には上があり、本職には負けるが。


 俺と同じ読モに見える女の子からサインをせがまれる事はあったが、撮影そのものは滞りなく進んだ。


「葛葉くん、バイトみたいな立場じゃなくて、本気でウチの専属モデルしない?」


 撮影が終わった後、長谷川さんに専属モデルに誘われた。


「いえ、すみません。彼女が許してくれないので」


 でも俺は事前にイチゴに言われた事もあって断った。


「あー、彼女か。……確かにウチでモデルするよりも、花京院さんのヒ……こほん、貢いで貰う方がだろうね」


 何て事言うんだこの人は。


 彼女と聞いてアリアさんと思うのは仕方ないとして、アリアさんのヒモになる気は全然無いんだが。


「それ、言い直しても風評被害になるんですが?」


「ごめんごめん、じゃ今日はお疲れ様!」


 誤魔化される感じで、俺は長谷川さんに送り返された。


 あの人については勝手な風評を流されないように注意しておこうと決めた。


 後日、俺の写真が入った雑誌の見本が届けられた。


「わー!兄さんが表紙に出てます!」


 見本を見たリナがはしゃぐ。


 クリスマス&新年特集の時は他の人が表紙だったが、今回は俺が表紙だった。


 どういう基準で選ばれたのかは聞いていない。


「兄さん、これ友達に見せて自慢してもいいですか?」


 リナが雑誌を手に上目遣いで聞いて来た。


「ああ、いいよ」


 別に渋る理由もないから、快く許可した。


 その後に口座も確認したが、入って来た金額は普段イチゴの脛をかじる金額に比べたら焼け石に水な金額だった。


 いや、これでも学生の小遣いとしては十分多い額だから、俺の支出の多かったのだろう。


 これならいっそイチゴの仕事を手伝った方がいいんじゃないか……?


 一瞬そんな考えが過ったが、今更モデルのバイトを辞めるとも言えないので、頭を振ってその考えも振り切った。




「皆さん、お引っ越しして一緒に暮らしませんか?」


 ある日。アリアさんの誘いで彼女の家に集まると、そんな事を提案された。


「その皆って、もしかして私も入ってるの?」


 ユカが疑わしげに聞いた。


「ええ、勿論です。一応あなたも恭一さんとお付き合いしているのですから」


「へえ」


 アリアさんの肯定の言葉に、ユカは意外そうに目を見開いた。


 正直俺も意外だ。


 独占欲のあるアリアさんの性格からして、俺だけか、俺の義妹のリナまで誘って、イチゴとユカは弾くと思ったのに。


「で、引っ越しってどこによ?」


「この下のフロアですが、前の住人さんが引っ越す予定でして、次の入居者の募集が出ているのです」


「じゃあ高いんでしょ?金とかはどうする訳?ウチはあまり出せないわよ」


「費用については全額おじい様がご負担していただくので、心配しなくても大丈夫です。いかがですか?」


 そう。


 あのライブステージの反動で俺とアリアさんの交際を明かさない代わりに、アリアさんが理事長にお願いしたのはこの引っ越しの話だった。


 少しつり合いが取れなさそうでもあるが、アリアさんが理事長を責め立てて納得させてた。

 俺も反対してたが、その場で一緒に納得というか説得されてしまった。


「なるほどね。……まあ、私はいいけど。リナたちはどう?」


「あ、あたしは大丈夫」


「私もー」


 リナもイチゴも反対せず、引っ越しする方に話が進んだ。


 解散した後日、皆それぞれの保護者に引っ越しついて報告して了承を取り、アリアさんが住むの下のフロアの住人が出た後に、俺たちの引っ越し作業を終わらせてそこを一種のシェアハウスにした。


「今日からここがきょーくんのハーレムハウスだね!」


「えっ、それって……私もですか?」


「違うからな。ただのシェアハウスだからな」


 イチゴがおかしな事を言ってて、リナが何か誤解して顔を赤くしてたので、ハーレムの辺りを必死に訂正した。


 その傍ら、アリアさんとユカも何やら盛り上がった。


「今日からここが私と恭一さんの愛の巣ですね。……愛人もいますが」


「愛人言うな。あんただって恭一と結婚した訳じゃないでしょ」


「同棲したからにはもう時間の問題でしょう。それよりも今日からは毎晩が楽しみですね。あ、イチゴさんとユカさんは当番回りで私の手伝いですからね?」


「ダメだわこいつ、恥じらいとか失くして来ている……」


 それで俺はアリアさんがユカもシェアハウスに誘った理由に気付いた。


「それに朝なら話に聞くあの生理現象で私一人でもいけるかも知れないですね。ふふふ、楽しみです」


 そして毎晩が、何なら朝も色々大変な事になったが……こっちは本気で割愛する。


―――――――――――――――

 回収までに間が開きましたが、文化祭①でのアリアの条件とはつまりこのシェアハウスの事です

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