第13話『元旦の帰省to葛葉家』

 冬休みが始まってクリスマスイブから28日まで、とっかえひっかえで最低なデートの日程を全部消化した後、元旦が近付いた。


 俺たちは実家から呼ばれた事もあって、帰省する事にした。


 リナは長岡家の家族と話し合い、養子縁組して間もないから交流を増やすという事で今年は葛葉家で新年を過ごす事に。


「じゃあ私はここで一旦お別れだけど、また後でね」


「ああ、またな」


 イチゴとは実家が近いので途中まで一緒に帰って、多分いつもの様に三が日の間はお互いの家に行き来してのんびりするだろう。


「ただいま」


「ただいま……です」


「あら、お帰りなさい!二人とも久しぶりね」


 実家に帰ると、両親に歓迎された。


 俺が実家を出て暮らしたのも始めてだからだろうか。


「リナちゃん、リナちゃん用に色んな服を買ってたんだけど、ちょっとこっちで着てみてくれる?」


「あの、えっと、はい」


 一緒に来たリナも、義理とはいえ始めての娘なので母さんに猫可愛がられた。


「……娘が出来たのは嬉しいが、あの歳だとどうすればいいのか戸惑うな」


 父さんは……まあ、この歳でリナとじゃれ合ったらまずいからな。


「こっち、ここが葛葉家のリナちゃんの部屋よ。気に入った?」


「うわあ……。はい!ありがとうございます!」


 実家にはリナの部屋も出来ていて、揃えられた家具や日用品などに感激してた。




 そして元旦の日。


 イチゴとリナ、さらにはアリアさんやユカとも呼んで一緒に初詣に行く事に。


 行き先は都内で俺たちが合流しやすい地点にある適当な神社だ。


 先に待ち合わせ場所のカフェに着いて、注文した飲み物を飲みながらくつろいでいると、催して来たので少しトイレで外した。


 そして戻ると、イチゴたちのいるテーブル席に知らない女の子がいた。


 カールをかけた艶のあるセミロングヘアの子だった。

 何かしらの変装のつもりなのか、サングラスに厚手のコートを着ているが。


「って事があったんだけどどう思う?」


「えっと、良かったんじゃないんでしょうか」


「だよね!イチゴはどう思う?」


「…………」


「あれ?どうして黙っているの?今イチゴに聞いてるんだよ?」


 イチゴたちと話しているように見えるが、イチゴが萎縮していて、主に受け答えするリナもぎこちなくて雰囲気が穏やかじゃない。


「どちら様ですか?」


 見てられないと思い、すぐ戻って三人の間に割り込んだ。


「あっ、葛葉くん!久しぶり、私リンゴだよ。覚えてない?」


 鼻立ちが細いその子は、リンゴと名乗った。


 ただ、その名前は……。


「リンゴ?花村はなむらリンゴか?」


「そう!覚えててくれたんだ!嬉しい!」


 花村リンゴは呑気に喜んだが、俺の心境は穏やかじゃなくなった。


「何しに来た」


 心なしかか低い声音が出た。


「何って、昔の友達を見かけたから、話してただけだけど?」


 花村リンゴは当然だと言うみたいに答える。


 そう、この花村リンゴは俺やイチゴと同じ小学校出身で、何度かクラスも一緒だった事がある。


 ただ、友達ではない。


「友達?よくもそんな事が言えるな」


「ごめんて!昔の事は反省してるからさ。許して、ね?」


 調子のいい事に、花村リンゴは両手を合わせて上目遣いという、如何にも可愛い子ぶったポーズで謝る。


 確かに花村リンゴの見た目は可愛いが、俺には響かない。


 そもそも謝罪に気持ちが一切感じられない。


「悪いと思ってるなら今すぐ失せろ。お前と話す事なんて無い」


「……ふーん。まだ嫌われてるんだ。分かった、今日は帰るね。そうそう、知らないみたいだけど、私アイドルになったんだ」


 リンゴは思い出したという感じで手持ちバックからCDケースを取り出してテーブルの上に置いた。

 ケースの箱にはリンゴの憎たらしい顔がプリントされてる。


「それなりに人気だよ?これはプレゼントするから、テレビとかで見たら応援してね。じゃあ、また」


 花村リンゴは手を振ってカフェを出て行った。


「あの……兄さん、あの人って兄さんたちと同じ小学校だった人ですよね?」


 席に三人だけ残り、俺が席につくと成り行きを見守っていたリナが聞いて来た。


「そうだよ」


「でもその……姉さんの様子が……」


 リナが遠慮がちにイチゴの様子を窺う。


 俺の隣に座っているイチゴは、俯いたまま何かに怯えているみたいに震えていた。


「昔、イチゴがあいつに嫌な事されたんだ」


「そうなんですか……」


 落ち着かせる為にイチゴの肩を抱き寄せて、頭を撫でた。


 あれは小学校六年生だった俺とイチゴが付き合って間もない頃。


 どうも花村リンゴも俺に気があった様で、俺と付き合ったイチゴに嫉妬し、同じくイチゴに嫉妬する仲間を集めてイチゴをイジメたのだ。


 俺は遅れながら気付いて動き出し、何とかイジメは止めさせたが、今でもイチゴにとって花村リンゴはトラウマの相手なのだろう。


 だから俺はあれから四年近く経った今でも、あいつがやった事は許せない。


 あいつに比べれば、まだアリアさんがずっと可愛く見えるくらいだ。


 アイドルになったらしいがそれが何だ。あいつは俺の敵だ。


「恭一さんと皆さん、明けましておめでとうございます」


「あけおめよ」


 もうしばらく待っていると、アリアさんとユカが到着した。


「アリアちゃん、ユカちゃん、明けましておめでとう!」


「明けましておめでとう」


「明けましておめでとうございます」


 その頃にはイチゴも調子を取り戻したので一緒に初詣に向かった。


 花村リンゴのCDはテーブルに放置した。


「リナさん。こちら、未来の義理の姉からのお年玉です」


 移動中、アリアさんがリナに封筒を渡した。


「えっと、ありがとうございます?」


 リナは首を傾げながら封筒を受け取り、こっそり袋の中身を覗いて。


「ひっ!」


 悲鳴を上げて、真っ青な顔で封筒をアリアさんに突き返した。


「こ、こんなに頂けません!」


 さっきちょっと覗けたけど、封筒の中には文字通りの札束が入ってた。しかも色合いからして一万円札が結構な数で。


 中三にはちょっと大きい額かも知れない。


 それをそのまま貰わなかった所、リナの情緒教育がよく出来ていると窺えるが。


「いいんですよ、将来に義理の姉妹になるのですから」


 アリアさんは笑顔で返却を断った。


「でも、失くしたり無駄遣いしてしまいそうで……」


「それこそ、私の義妹になるのなら、今の内からお金を持ってる時の余裕とかお金の使い方を覚えておいた方がいいでしょう」


「ええ……」


 結局、屁理屈のゴリ押しでお年玉の返却は叶わず。


「兄さん、預かってください!」


 リナは俺に封筒を差し出したけど、手を振って断った。


「いや、アリアさんが言う通り、無駄遣いしたり最悪失くすのも経験だからリナが持っている方がいいと思う」


「じゃあ姉さん!」


 リナは俺の次にイチゴに頼ろうとしたが。


「ん?三倍に増やして欲しいの?」


「あっ、いえ。いいです……」


 イチゴの言葉に封筒を引っ込めた。


 お陰で人生最大級の大金を持ったリナは今不審者みたいになっている。


 ちなみに同居してる姉分と幼馴染では違うからか、ユカに頼ろうとはしなかった。


「アリア、あんたせこい事するわね……」


「何の事ですか?」


 横で見ていたユカが呆れた顔で言うのを、アリアさんは何でもなさそうに流した。


 神社に着いた後はお参りをして、それぞれおみくじも引いた。


 イチゴが吉、ユカが中吉、リナが大吉と来て、俺の運勢は凶だった。


 しかも恋愛が「押し潰されない様に気をしっかり持て」って不吉過ぎるんだが。


「だ、大凶……。恋愛、報われないので諦めるべき……」


 その後、アリアさんが大凶を引いて、みんなそっちを慰めたが。


 そういう光景を見て、ふと思う。


 去年まではイチゴと二人きりか、二人の家族と一緒だった元旦の面子が、今年はアリアさんにユカにリナまでいる。


 さらにアリアさんやユカとも付き合っているとか、今までとは違う事が多くて先が不安になる新年だった。


―――――――――――――――

 花村リンゴ、実は三章の新キャラで、この話は三章のプロローグ的な感じでしたが、本格的に話が動く二年生の新学期開始までに時系列の間が開き過ぎて取りあえず間章に載せました


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