第7話『文化祭編①・ライブステージ!』

 中間テストと期末テストの間に時期にて、悠翔高校の文化祭が近付いて来た。


 それでHR時間にて俺の所属するAクラスの出し物を相談し始めたが。


「はいはい!恭一くんと花京院さんのアイドルみたいなライブステージがいいと思います!」


 真っ先に吉田さんがそんな事を提案した。


「俺と花京院さんのライブステージって……。他のクラスメイトの出番が無いし、花京院さんの同意もないけど?」


 クラス委員としてHRを仕切っていた俺は難色を示した。


「私は構いませんよ」


 しかしアリアさんが吉田さんの案に同意した瞬間、鶴の一声の如くクラスメイト全員がライブステージに賛成した。


 主に男子がアリアさんの、女子が俺のステージを見たがったらしい。


 俺の意思は露と消えた。


 ライブステージをやるとなれば講堂を借りる必要があり、他のクラスや部活との兼ね合いも出る。


 だが残念?な事にライブに出る俺とアリアさんが生徒会役員で、何よりアリアさんはこの学校で生徒の中では一番にして、下手すると教職員までも顎で使える権力者なので、手続きに何の障害も無い。


 そうして一年Aクラスの出し物は俺とアリアさんのライブステージに決まった。


 ライブの準備はアリアさんが仕切る……と見せかけて実は裏でイチゴがアリアさんに指示を出していた。


「はい、これがライブの衣装デザインだから、衣装担当の子たちに渡して。あとこっちがライブに使う曲だから覚えてね」


 と言った感じでアリアさんを通してクラスメイトたちに指示を出してた。


 それだけじゃなくて衣装とか曲とか振り付けとか全部イチゴが選んでて、しかも曲の内にイチゴオリジナルの曲まである。


 ここまで積極的とか、もしかして吉田さんがライブを提案してたのも裏でイチゴがそそのかしたんじゃないかって疑えて来た。


 ライブの練習は、クラスには俺とアリアさんは個人で歌や振り付けの練習をすると言って準備から抜けて、その際に生徒会グループという事でイチゴも手伝いとして連れ出した。


 そしてドラマとかでよくある壁一面に鏡が張られたダンススタジオを借り、イチゴの指導の元に練習が始まった。


 そのイチゴだが、プロ顔負けに厳しく指導しながら、文字通り手取り足取りで姿勢を矯正しながら指導してくれるのだ。


「アリアちゃん!足腰の捻りが甘い!腕の振り方が違う!これは、こうするのよ!あときょーくんの方にチラチラしない!」


「はい、すみません!」


 アリアさんは最初、素人だと思うイチゴのスパルタ式に反発したが、毎日撮ってた動画を見返すと日に日に上手くなってるのが分かってからは文句を言わなくなった。


「このイチゴ、甘くないんだから!やるからには徹底的にやるよ!」


 自分で自分の名前を否定するな……。


 そんな感じで裏方はクラスメイトに任せて、歌や振り付けの練習に集中し、生徒会役員としても色んな仕事をしてたら、あっという間に文化祭本番の日が来た。


 今回は、ライブに関わる事に集中して話そう。


 文化祭の日程は三日。一日目は生徒のみで文化祭を楽しみ、後半二日は一般開放して外部のお客さんも招く事になっている。

 そして俺たちのライブステージは一日目と三日目に一回ずつ開く。


 一日目の本番前。

 俺とアリアさんはステージ衣装に着替えた後に舞台裏で出番と待っていた。


「ごくっ……いよいよ本番ですか。緊張しますね……」


 アリアさんが緊張していた。


「……まあ、金貰ってやるステージでも無いし、気軽にやればいいさ」


 と言う俺も実は結構緊張している。


 自分で言った通り、金取った訳でもないから失敗上等の気持ちでやるつもりだが。


 ライブステージは、俺が先に出てから3曲を歌い、その後休憩時間を持ってからアリアさんが3曲を歌う手順だ。

 一部過激な反発を避けるために俺とアリアさんの混合ステージは無い。


「じゃあ、先に行ってくる」


「ええ、頑張ってください」


 そしてライブステージが始まり……大成功した。


 アンコールまで要求され、イチゴがそれを予想してたおかげもあってアンコール曲まで消化した。


 それで一日目のステージが終わった後、俺は主に女子、アリアさんは男女問わずファンになった生徒たちに囲まれ、生徒会役員として見回りするとかが出来なくなった。


 というか、俺たち目当てで生徒会室にまで押し寄せる生徒たちも多く、生徒会は臨時で生徒会室をこっそり移すハメになった。


「君たち……ちょっとやり過ぎじゃないか?」


「すんません。俺たちもこれほどになるとは思わなくて……」


 おかげで生徒会の加藤先輩たちに小言も言われてしまった。


 三日目には、一日目のライブステージが噂になってたのか、人が人を呼び、一回で講堂にすべての客を収容しきれなくなって整理券とか、同日二回目のライブなど、緊急対応に追われた。


 さらには暴力を辞さない整理券の争奪戦とか、整理券の転売を阻止するのにも骨が折れた。


 そうして何とかライブステージ及び文化祭を大盛況の内に終わらせた結果……




「二年になっても私と恭一さんの交際を隠せって、どういう事ですかおじい様!!!」


 時間を飛ばして冬休みの途中。


 俺とアリアさんは理事長に呼び出され、アリアさんが言った通りの事を言い渡された。


 夏休みの途中、二年生になれば交際を明かせと言われた事を理事長自ら翻した形になる。


「本当にすまない。ただ、学校としての都合があるんだ……」


 理事長は本当に申し訳なさそうに謝った。


「何ですか、その事情とは」


「簡潔に言うと、君たち目当てで入学や転校、編入の問い合わせが引っ切り無しに来ている」


 あー、なるほど。


 それだけで大体察して納得した。


「頑張り過ぎてしまいましたか……」


 文化祭が終わった後、どうせ隠れて撮影した人がいるだろうし、そこに再生数を取られるのが癪だというイチゴの主張で、ライブステージを撮影した動画を学校の公式ホームページに公開してた。


 結果、あのライブステージが結構な話題になって芸能事務所から俺やアリアさんへの名指しスカウトがあったり、学校に凸って来る不審者も増えて面倒になってた。


 ただ、学校側には面倒ではなくいい方の効果が出たのだろう。


「これが例年の入学希望者の数で、こっちが来年、再来年の入学、転校、編入希望者の数。そしてこっちが学校の最大収容可能生徒数の計算で、これは例年の学校の受益を来年、再来年に限界まで生徒を受け入れた場合の受益と比べた表だ」


 理事長が次々とデータが書き込まれた書類を見せて、それを見たアリアさんの表情が固まった。


 俺も見せて貰ったけど、例年の三倍近い受益が予想されてるみたいだ。


 アリアさんはいずれ学校の経営に関わるかも知れない理事長の孫娘として、割と無視出来ないのだろう。


「本当は少子化の煽りを受けて経営も悪化して来てたので、アリアが卒業した数年後には経営が赤字になる前に閉校するつもりだったが……、こうなると後十年はさらに保てると思う」


「でも自分とアリアさんが付き合うと知られたら、都合が悪いという事ですね」


「ああ、君たちは本職のアイドルではないから交際に文句を言われる筋合いは無いが……、入学希望者の多数がフリーの君たち目当てなのは一目瞭然だ。なのに君たちが交際してると明かしたら……この数字は間違いなく一定数は減るだろう」


「……おじい様。私たちに、学校経営の為に学校生活での青春を犠牲にしろと言うのですか?」


 アリアさんが生気の無い目で理事長を睨み、理事長も俺もびびった。


「!……本当にすまないと思っている。しかしこの学校はもうアリアだけの為にある訳では無いんだ。代わりに出来る限りの望みを叶えるので、それで納得してくれ」


「出来る限りの望みを……ですか」


 アリアさんの目が妖しい光を灯した。


 それからアリアさんが望みとして提示した条件は……受け入れられたとだけ言っておこう。

 今はまだ詳細を話したくない。


 ただ、俺たちを取り囲む歪みはまだまだ続く……とだけ言っておく。


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