第4話『テニス大会で誰かのBSS・後』

 鈴木さんに冷たくあしらわれた鈴木くんは、顔を真っ赤にして俺の方を向いた。


「くっ!葛葉と言ったな!次の試合何処に出るんだ!」


「……シングルス1ですけど」


「丁度いい、俺もそっちに出る!俺が勝ったら二度と優里に近付くな!」


 それだけ言って、鈴木くんは俺の返事も聞かないまま自分の学校の所へ戻って行く。


「あーあー。男って何で勝負好きなんだろうね。しかも自分の負けにノーリスクな奴を」


 つい文句が出てしまった。俺も男だけど。


「ごめんね葛葉っち。ウチの事情に巻き込んでしまって」


 鈴木さんが申し訳なさそうに謝る。


「別にいいよ。試合するのには変わりないんだし。……もしかしてあの鈴木くんの事が苦手なのか?」


「苦手っていうか嫌い。従兄妹で家も近いって事で昔から付き合わされたんだけど、優太って自分の自慢ばかりでねー。ウチのちょっとオタな趣味もバカにするし、髪染めた時はうるさく説教するし。距離置きたくてあいつとは別の高校選んで悠翔に来たんだけど、その時だってなんで自分と同じ高校じゃないのかってもー面倒臭くて」


 鈴木さんからマシンガンの如く鈴木くんへの不満が垂れ流される。


 それを聞いて、俺は(鈴木くんの片思いは実らなさそうだな)とか呑気な事を思った。


「でも勝てそう?優太は前の大会も優勝してたくらいテニス上手なんだけど」


 優勝経歴者って、前も聞いた事あるな。


「まあ、やるだけやるさ」


 どうせ負けて失う物も無い。


「そう。別に負けてもウチと距離置かなくてもいいからね?てか置くな。勝負は優太が勝手に言った事だし、葛葉っちが勝った時の条件とか聞いてない視点で不公平だから」


「分かってる」


 俺だって負けたとしても鈴木くんの身勝手な要求を飲むつもりはない。同意した覚えもないからな。


「鈴木さん?いつまで恭一さんにくっついているつもりですか?」


 そろそろ試合が始まる時、後ろからアリアさんが低い声で話し掛けて来た。


「応援ならこっちですよ。あと少し話しましょうか」


「あっ、ちょっ、花京院さん!?……葛葉っち、頑張ってね!」


 そのまま鈴木さんを俺から引き剝がしてどこかへの連行して行った。


 俺は鈴木さんとアリアさんに手を振り、試合の為にコートへ入った。


 予告通り、対戦相手は鈴木くんだった。


「ここでお前を潰して優里を振り向かせてみせる!」


 鈴木くんは好戦的に叫んだが。


「そこ、試合前の私語は慎むように」


「あっ、すみません」


 スタッフの人に注意されてすぐ尻尾を巻いた。


 まあ、すぐにまた俺を睨み出したが。


 間もなく試合が始まり。


 ………。


 俺が勝った。


 前回の長岡よりは拮抗した勝負になったが、それでも俺が勝った。


 俺ってここまでハイスペックだったのか。


「まさか、俺があの素人みたいな一年に負けるなんて……!」


 負けた鈴木くんはショックを受けている。


 うーん、ごめんな?素人がプライドを潰してしまって。


 ただ、驚いてるのは鈴木くんだけじゃなかった。


「嘘だろ、鈴木が負けるとか、あの一年何者なんだ?」


 鈴木くんの強さはちょっと有名なのか、相手学校を中心にどよめき声が上がっていた。


「きゃー!すてきー!サインしてー!」


 あと、知らない他校の女子たちは黄色い声を出している。


 俺は芸能人じゃないからサインはしないがな。




 コートから出ると、すぐ鈴木さんたちが迎えてくれた。


「葛葉っち!優太に勝つとかすごいじゃん!」


「まあ、ちょっと苦戦したけどな」


「それでもすごいよ!練習とかしてないのに」


「俺も驚いている」


 テニスじゃないが、基本的な筋トレとかは毎日していて、体そのものは鍛えていたがな。


 無駄な自慢だから言ったりはしないが。


「それじゃ、勝ったご褒美よ♪」


 突然鈴木さんが俺の頬に軽くキスした。


「なっ、鈴木さん!?」


「シーッ」


 鈴木さんは俺の抗議を止めて目配せする。


 目線の先には絶望した顔の鈴木くんがいた。


「く、うわあああああん!!!ゆうりが!俺の……僕のゆうりがあ!!僕が先に好きだったのに!!!ゆうりに振り向いて欲しくてテニス頑張ったのに!あんな素人に負けてゆうりのキスがああ!!もう嫌だ!!!テニスやめるうう!!!」


 そして鈴木くんは泣き出してどっかに走って行った。


 えええーこれでテニス辞めるって。俺の所為になるじゃないか。


「ふふん。恵子っちには悪いと思うけど、これでもう私にちょっかい掛けないでしょ」


 鈴木さんはそんな鈴木くんを見て鼻で笑った。


 わざと見せつける為にやったのか?


 性格悪っ。


 あと何故伊藤さんの名前が出たのか、分からないなー


 そんな事を思っていたら、怒った顔のアリアさんが俺を引っ張って鈴木さんから引き離した。


「恭一さん、ちょっとこっちに来て下さい。上書きしますので」


 そのまま鈴木さんがキスした頬の上にキスして来る。跡の残すつもりなのか吸われたりもして、わずかに赤い跡が残った。


「おいあいつ、美人二人にキスされたぞ……!」


「羨ましいぃ……!」


 それを周りに見られて、ウチのテニス部の男子を含めた色んな学校の男子が嫉妬と殺意の籠った目に晒されてしまったが……


 鈴木さんの見た目は可愛い方で、アリアさんは他とは格が違うくらいに綺麗だ。

 そんな金髪の女子二人(片方は染髪)にキスされては注目されるのも仕方ないか……


「きょーくん、鈴木さんともやっちゃう?」


 一部始終を見たイチゴからそんな事を言われてしまった。


 やらねえよ。


 イチゴ、お前は俺の彼女だよな……?


「あの、兄さん。兄さんってどれだけの女性とお付き合いするつもりですか……?」


 もじもじするリナからはそんな事を聞かれた。


 俺としてはイチゴとだけ付き合いたいんだけどなー。


 何かリナの中で俺が複数の女性と付き合ってもおかしくない風に思われてるみたいだが、機をみて矯正しなければ……。


「おい、次のダブルスは俺たちの番だ。勝てば会長たちのキスを貰えるかも知れないから頑張ろうぜ!」


「おう!」


 それからも試合が続き、何故かウチのテニス部で試合に勝てばアリアさんにキスして貰えるって誤解も広まっていた。


「バカな事を言わないで下さい。何故私がそんな事をしなければいけないのですか?」


「えっ」


 が、すぐアリアさん本人によって誤解が解かれた。


 しかしそれで部員たちの士気がだだ下がりして試合に負け続け、俺の勝ちも虚しく悠翔高校は敗退する事になった。


「助っ人で参加した恭一さんが全勝したのに、あなたたちのその体たらくは何ですか?これは少々おしお……テコ入れが必要そうですね」


 それでアリアさんはテニス部に対して怒り、後で外部から有名な講師を招いたり、厳しいトレーニングメニューを強制したりしてテニス部をしご……集中強化した。


「これだから会長の応援は遠慮したかったんだ……」


 トレーニングの途中、武田先輩がそう愚痴をこぼした。




 あと鈴木さんの事だが、あれ以来微妙に距離感が近くなった。


「葛葉っち、またキスしてあげよっか?次はお口に、なんちゃって」


 なんて言葉で煽られて、イチゴからは喜んで背中を押され、ユカからは呆れた目で見られ、色々と非常に肩身が狭くなった。


 鈴木さんがただの悪戯で言ったのか、それとも本気で俺を狙い始めたのか分からない。


 それに、何故か鈴木さんはアリアさんと仲良くなってみたいで、二人だけで話してる所をたまに見かけて、俺は色々と不安になった。


―――――――――――――――

【出すタイミングがなかった小設定】

 鈴木優太がテニスを始めた理由は、鈴木優里が中学生の頃テニ〇リに嵌ってた時期があり、それを知った鈴木優太は鈴木優里の気を引きたくてテニスを始めたのですが……



 次は赤信号赤髪の小林の小話になります<(_ _)>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る