第3話『テニス大会で誰かのBSS・前』
中間テストが終わって間もない時期にて。
「もうすぐ団体戦の大会があるんだが、エントリー前に選手の枠が一つ空いてしまった!すまないが、助けてくれ!」
テニス部の部長、
「まあ、都合が合えば助っ人に出るって約束しましたからいいですけど、何故急に枠が空いたんですか?」
質問すると、武田先輩は同室しているアリアさんをチラっと見て答えた。
「……実は予定していた生徒が花京院会長を裏で脅したっていう大やらかしをしてな……。代わりを勤められる実力者が葛葉くんしかいないんだ」
あ、穴開けたの
あいつの割食ってスケジュール抑えられるのはちょっと気に入らないが、まあいいか。
断って困るのはあいつじゃなくてテニス部だからな。
「恭一さん、大会に出るおつもりで?」
同室で話を聞いていたアリアさんが聞いて来た。
「まあな」
「そうですか。では応援とか色々準備する必要がありますね」
アリアさんの言葉に、武田先輩の顔が青くなった。
学園のお姫様に応援して貰うのに、もし無様を晒すかもとなると気が重いのだろう。
「い、いや。花京院会長にそこまでされる訳には……」
「あら、生徒会副会長が出るのに、何もしない訳無いじゃないですか。私に薄情者になれと?」
「それは……すみません。何でもありませんでした」
武田先輩はアリアさんの圧に屈し、言葉を撤回した。
それから武田先輩から詳しい大会の日程、こっちで準備すべき物、テニス部で準備して貰える物を教えて貰って、その場は解散となった。
生徒会の仕事を終えて部屋に帰った後、着替えてイチゴの部屋に入ると、イチゴが俺に箱を差し出した。
「きょーくん、これ、貰って?」
「ん?ああ」
大人しく箱を貰って開けて見ると、テニスシューズが入ってた。当然サイズを俺に合わせた物で。
「きょーくんがテニス部の助っ人になった時から、出番があると思って用意してたの」
「そうか。ありがとな。大事に使う」
お礼を言いながら、イチゴの頭を撫でた。
「うん。ラケットも……と思ってたけど、それは多分アリアちゃんが買ってあげると思うから」
「そうか……」
ラケットはテニス部から借りるつもりだったから、アリアさんに買って貰うのもな……。
多分って話だし、自意識過剰かも知れないが、今の内に要らないと釘を刺しておくべきか?
「きょーくん。アリアちゃんの気持ちを袖にしたらダメだよ?」
「……分かった」
しかし俺の方がイチゴに釘を刺されてしまった。
「兄さん、テニスの大会に出るんですか?」
イチゴの後ろからリナが顔を出して聞いて来る。
「ああ、テニス部に欠員が出てな」
「そうですか……」
リナが少し複雑そうな顔をした。
「どうした?」
「いえ、あのバカ兄貴もよくテニス大会に出てたので、少し思う所が……。あっ、でも応援には行きますので!」
「ああ、ありがとう」
大会の日になり、俺とイチゴはアリアさんの車に乗せられ、途中でリナも拾って大会会場まで送って貰った。
ユカはリナと同じくテニス大会に長岡絡みで思う所があり、リナとは違って応援に来るのは辞退して見送られる時に応援の言葉だけ貰った。
大会会場であるテニスコートに着いて、すぐ先に到着していた悠翔高校テニス部と合流して準備を進めた。
「恭一さん。恭一さんの為にテニスラケットを用意したのですが、どれがいいのかよく分からなくて……取りあえず20種類ほど用意しましたので、気に入ったのを選んでいただけますか?」
準備する途中、アリアさんがそう言い、運転手さんが20個のテニスラケットを俺の前に並べた。
テニスラケットもそれなりに値段がするはずのにそれが20個とか……
正直に言って重い。
20個もするテニスラケットじゃなくてアリアさんの気持ちが。
ただイチゴの言葉もあったので、俺はいくつかのラケットを手に持ってから、どのラケットを使うか決めた。
「これにする。ありがとな」
「いいえ、これくらい」
「あの……」
やり取りの途中、二年先輩のテニス部員一人が声を掛けて来た。
「どうしました?」
「そこのラケット、いい物に見えて。使わないなら借りてもいいかなーって」
そう言われた瞬間、アリアさんの目付きがきつくなった。
「何を勘違いしているのですか?これはテニス部の備品ではなくて私が個人的に恭一さんのために用意した物ですよ?それに一度でも恭一さんより先に使ったら中古になってしまうじゃないですか。そうなったらあなたが買い取るのですか?それとも来期のテニス部の予算から天引きさせましょうか。これの値段はですね……」
「す、すみません、何でもありませんでした!」
アリアさんの怒涛の言葉責めに、テニス部の先輩は顔を青くして逃げ出した。
こういう事されると益々俺とアリアさんが裏で付き合ってるって噂されてしまうのだが……いや、そもそもそういう目的か?
「葛葉っち!応援に来たよ!頑張ってね!」
準備が終わると、鈴木さんやクラスメイトの女子数人が応援に来てたので、手を振って返事した。
「葛葉?あれってモデルやってる葛葉じゃない?」
「ほんとだ。テニスもやるの?欲張り過ぎでしょ」
「でもかっこいいじゃん。後でサイン貰えるかな」
他の学校を応援に来てた女子が、鈴木さんの応援を聞いて俺に気付きああだこうだ言い始めたが、聞こえない振りでスルーした。
大会は順調に勝ち進み、三回戦目にして今日最後の試合が回って来た。
ちなみに俺は今まで全勝だ。
「
試合の準備をしてたら、知らない男子が鈴木さん声を掛けた。
あのジャージ、次の対戦校だな。確か前の大会で優勝したという強豪校だとか。
「
どうやら鈴木さんはあの男子と知り合いみたいだ。
下の名前で呼び合ってるみたいだが、彼氏か?
いや、彼氏はいないと聞いたから、それが嘘じゃないなら親しい男友達かもな。
「そうだったのか。でも俺も次に試合があるから、俺も応援してくれよな」
「ん?それは無理じゃない?だってウチの学校の次の相手が優太の学校だから」
「え?……そういえば優里は悠翔高校に進学してたな……」
「そそ。で、あっちにいる葛葉っちがウチの友達なの」
「葛葉?」
鈴木さんに指さされ、ユウタ?の目がこっちを向いた。
そして物々しい顔つきでこっちの近寄って来る。
「俺は優里の従兄妹の鈴木優太、二年だ。お前は?」
この人、鈴木さんの従兄妹で二年だったのか。
先輩……はちょっと違うから、呼び方は鈴木"くん"でいいか。
「一年の葛葉恭一です」
「そうか、優里とはどういう関係だ?」
「友達ですけど」
「そうなんよ。いつも奢ってくれるからもうちょー好きって感じ」
鈴木さんが話に割り込んで、俺の腕に抱き付いた。
「なっ、お前!優里から離れろ!」
それを見た途端に鈴木くんが顔を真っ赤にして叫んだ。
鈴木さんからくっついて来たけど……とか面倒くさい事は言わない。
「はい」
俺はすぐに鈴木さんを引き剝がそうとしたけど、鈴木さんはさらに腕に力を込めて俺から離れなかった。
「……鈴木さん?離れてくれないか?」
「え~?いつもこうしてたじゃん。優太の前だからって気にする事ないのに~」
いつもってのは違うだろ。
いや、一緒に遊んで回る時たまにではあるけど。
「なっ、いつも?お前、本当に優里のただの友達か!?」
ほら、鈴木くんが勘違いした。
「そうですが」
「そう言う優太だって、ウチとはただの従兄妹じゃん。人の友達付き合いに口挟まないでくれる?」
鈴木さんが言い返したけど、割と声音が低い。
これってもしかして鈴木くんの気持ちだけ一方通行してるのか?
―――――――――――――――
作者は高校テニス大会についてよく分かっておらず、リサーチも足りてません
曖昧な所は最大限ぼかしましたが実際のテニス大会とズレた描写がある可能性がございます
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