第16話【裏・感染する邪悪・前】
【Side.イチゴ】
そろそろ本格的に森さんを落とす手段を考えよう。
もう長岡何某と付き合っちゃったけど、方法はいくらでもある。
というか、付き合った後だからこそ、あいつにより多くの傷を与えられるからね。
長岡何某は今、補習に追われている森さんをほっといてきょーくんの粗探しをしてる。
私たちのクラスメイトを何人も捕まえてはきょーくんについて聞いてるのだ。
だが、女子はもうきょーくんを『奢って貰えて安心して遊べるいいイケメン』と評価を上げさせて掌握済みだし、男子からは根も葉もない噂ばかりでまともな情報なんて得られないだろう。
その粗探しが自分の彼女を奪われる隙になると気付かないのかな?
ほんと、バカで嗤っちゃう。
私は仕込みの為、吉田さんを適当な空き教室に呼び出した。
「来たよ依藤さん。それで……今回のお願いって何?」
吉田さんが不安半分、期待半分の顔で聞いて来た。
不安なのは前回のお願いがイジメまで発展した事で、期待してるのは私からのご褒美の事だろう。
安心していいよ?今回はイジメにはならないし、ご褒美もちゃんと用意してるから。
「その前に吉田さん。これを受け取ってくれる?」
私は先に用意していたご褒美を差し出す。
それはハーフパンツに上半身裸のきょーくんが色んなポーズを取ってる写真だった。
「ほわっ!?」
吉田さんは写真を見た瞬間に奇声を上げて分かりやすく興奮した。
「実は、葛葉くんに疑われ始めてもうデートをセッティングするのは難しそうなの。だからこの写真で埋め合わせしたいんだけど……」
「あ、うん。それなら仕方ないね!……所で、こんな写真をどうやって?」
吉田さんはきょーくんの写真をいそいそと懐にしまってから、疑問を持ち出した。
「葛葉くんがたまに読モの仕事してるのは知ってる?」
「うん、その時の雑誌も持ってる」
アリアちゃんがきょーくんと付き合ってすぐの頃、きょーくんを自慢したくなって、伝手のある雑誌社にきょーくんを読モとして紹介してたのだ。
で、今でもたまにきょーくんに指名が来て読モの仕事をしている。
きょーくんとしてもいつも私に貢がれてるばかりだったから、自分で収入を得られる事が嫌じゃなかったみたい。
ちなみにきょーくんが表紙を飾った雑誌は後でちょっとしたプレミアがついてたりして、きょーくんを育てた私も鼻が高い。
「その時にスタッフの人たちと悪ふざけで撮った写真なんだけどね。生徒会長のアリアちゃんがその雑誌社にコネがあったから死蔵される前に確保してたの。それはアリアちゃんから貰ったコピーよ」
うん、こっちは嘘。
これは少し前に趣味と称してきょーくんにお願いし、ちょっとスタジオを借りてアリアちゃんやリナちゃんと一緒に直接色々撮った写真だ。
その後、アリアちゃんもリナちゃんも自分の分の写真を使って色々お楽しみしてるみたいだけどね。
「へ、へぇー。依藤さんも恭一くんも花京院さんと仲いいんだ」
吉田さんが羨ましさを隠しながら感想を言う。
「同じ生徒会役員になったからね」
「そっか……。それで、私にお願いする事って何?」
「うん。吉田さんは長岡何某って知ってる?」
あっ、ついそのまま何某って言ってしまった。……まいっか。
「それって長岡修二の事?もちろん知ってるよ。何度も恭一くんに絡んだから」
「うん。それでね、長岡何某が葛葉くんの周りを嗅ぎまわってるらしくて、遠くない内に私たちにも声を掛けると思うの」
まあ、私の方は無視するけどね。
きょーくんにも長岡何某にも勘違いされたくないし。
でも仕込みは必要だから吉田さんにお願いするんだ。
「その時にね?あいつと嵌めるために、証拠と言ってこれを渡して欲しいの。出来ればあいつに親切な振りをしてね」
スマホを出して、ある画面を吉田さんに見せた。
「これって……」
それを見た吉田さんの顔が引きつる。
まあ、褒められた事じゃないからね。
「ダメ?ダメなら、さっきの写真、返して欲しいけど……」
「分かった!やる!任せて!」
かるーく脅したら、吉田さんはすぐ乗り気になってくれた。
後もう一手欲しいな。
いっそアリアちゃんを言い包めて斎藤さんも巻き込んでしまおうか。
あれ程のおっぱいはそうそう無いだろうし、使い捨てるのは勿体無いからきょーくんのハーレムにキープさせちゃお。
きょーくんたちが交番まで行って長岡何某と大喧嘩した翌朝。
私はアリアちゃんと示し合わせて斎藤さんを生徒会室に呼び出した。
生徒会室に入ってアリアちゃんの向かいに座った斎藤さんは、居心地悪そうにしてる。
「何よ、用があるならさっさと言いなさいよ」
「そうですか。では聞きますね。斎藤さん、長岡の事はまだ好きですか?」
「は?あんな奴の事、もうどうだっていいわよ!」
アリアちゃんの揺さぶりに、斎藤さんが激しく反発した。
照れ隠しとかそういうのではなさそう。
「では恭一さんの事は?」
「そ、それは……うん?」
今度はきょーくんの名前が出た途端に照れたけど、すぐ違和感に気付いた。
「あんた、何で恭一の事名前で呼んでるの?普段は苗字で呼んでたでしょ?」
お互い様だと思うけどね。
斎藤さんの質問に、アリアちゃんはニイッといやらしく笑う。
「それはですね。私たちが恭一さんとお付き合いしてるからです。もちろん男女として」
「はあ!?恭一と付き合ってるって……たち?まさか……」
斎藤さんは何かを思い付いたみたいに私の方を見る。そして何故私もこの場にいるのか理解したのだろう。
実は斎藤さんが既にリナちゃんと仲直りして、私がきょーくんと幼馴染という情報が漏れたのだ。
きょーくんと付き合ってる事までは言わなかったけど、流石に今ので察したか。
私は斎藤さんの予想を否定せずに笑みで答えた。
「何よ。彼氏の浮気相手を糾弾しに呼んだ訳?そっちは複数で付き合ってるくせに?」
斎藤さんは私とアリアちゃんを同時に睨みながら言う。
「確かにあなたが恭一さんと体の関係を持ったのは憤慨ものですが……あなたの対応によっては許しますし、今後の関係も条件付きで認めましょう」
「あんたたち、自分の彼氏を切り売りするの?正気?」
斎藤さんから軽蔑の眼差しで睨まれた。
まあ、気持ちは分かるけど。
渋々なアリアちゃんはともかく、喜々とやる私はきっと狂ってるんだろうねー
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