第17話【裏・感染する邪悪・後】
【Side.イチゴ】
「取りあえず話を聞いていただけますか?」
アリアちゃんの言葉で、お互いに深呼吸して気持ちを整えた。
「ふう……。で、私に何を求めてる訳?」
「はっきり言いますと、私たちはあの生……長岡に言い寄られて迷惑してるのです。何が一番迷惑かと言うと、恭一さんに誤解され、振られて長岡に押し付けられるかも知れない状況になってるのです」
「なるほど。で?」
「その長岡を排除したいのですが、ただ退学に追い詰めるだけでは腹の虫が収まりません。そこで長岡を完膚なきまでに絶望させる為、斎藤さんには協力していただきたいのです」
「修二をね……。!……あんたたち、まさか……」
斎藤さんはまたも何か気付いて目と口を開く。
「まさか、わざと恭一を私に近付けたの?修二を嵌める為に?」
「だったら、どうします?」
堂々としたアリアちゃんの態度に、斎藤さんは何か理解出来ない化け物でも見る目でアリアちゃんを見た。
「信じられない……、いくら修二が嫌だからってそこまでするの?」
そこまでするくらいに長岡何某が嫌いだったのよ。
私はもちろん、最初はきょーくんを使うのを渋ってたアリアちゃんすら、きょーくんへの独占欲よりも長岡何某へのヘイトが上回るくらいにね。
「では信じていただかなくて結構です。ただ、協力していただけないのなら長岡を処分する時、あなたも何かしらの形で巻き込ませますので悪しからず」
「私に幼馴染の修二を売れと?」
「そうです。どうしますか?」
斎藤さんは俯いて色々悩み、10分くらい経ってまた顔を上げた。
「さっき言ってた、条件付きで恭一を貸してくれるって話は本気?」
釣れた!
ついガッツポーズを取りたくなった手動を、グッと抑え込む。
「ええ、本当ですよ。何なら契約書でも書きますか?」
「そうね。後で書いてもらおうかしら」
「その言い方、協力していただけるんですね」
「いいわよ。どうせあのバカとは縁を切るつもりだったし、高く売れる内に売ってやるわ!でもあんたたちは地獄に落ちればいいと思う!」
「その時はあなたも一緒ですよ。ではよろしくお願いしますね?ユカさん」
「私もよろしくね?ユカちゃん」
私とアリアちゃんが斎藤さん、もといユカちゃんに手を差し出し、
「……ふん!」
ユカちゃんは不機嫌そうに私たちの手を叩いて返した。
長岡何某、幼馴染に売られてどんな気分になるんだろう?
ワクワクするね!
【Side.ユカ】
まさか修二を嵌める為にこの二人が意図的に恭一を私に近付けさせたのは予想外だった。
つまり、修二に愛想を尽かして恭一が好きになった今の私の気持ちもこの二人の思惑通りだったという事になってしまう。
でも恭一に裏切られたって気持ちはあまり無い。
振り返れば、口説きに来たのかと思えば何度も予防線を張ったり、彼女が居そうな事を匂わせたりもしたからね。
結果はともかく、出来るだけ私に誠実に接してくれたのが分かるの。
そもそも私の方から迫ったんだし。
それに……私って性欲強い方だったのか、恭一とまたしたいと思ってるし。
でもこれは仕方なくって態度してるくせに、無我夢中になるくらい私を気持ち良くさせる恭一も悪いと思うのよ。
そんな事されたら、嵌ってしまうじゃない。
そのテクをこの二人としてて磨いたのだと思うと癪だけど。
色々考えて私は花京院さん……いや、アリアたちと話し合い、私はスケジュールを調整し、ホウレンソウを徹底する条件の元、定期的に恭一とデートして貰える三人目の恋人になる事にした。
第三の恋人って所は、正式にそう扱われるんじゃなくて「この関係をどう思おうがどうぞご自由に」ってアリアに言われて、それならばと言ってるだけ。
正式な恋人になるのはアリアだけで、二年生になると恭一とアリアの交際を公表するって事だけ気をつけて周りに私との関係をちゃんと隠せば良いらしい。
でも私はこの関係がどれだけ欺瞞に満ちてるのか知っている。
実は修二を諦めて恭一を狙うと決めてから、こっそりリナちゃんと仲直りして連絡を取ってた。
リナちゃんから聞いた話によると、恭一とイチゴは幼馴染らしい。
恭一がアリアやイチゴと付き合ってるのは、多分知ってた上で私に隠してたみたいけど。
まあ隠すわよね、そんな身内の爛れた関係。
でも、恭一がイチゴと幼馴染だと聞いた私は気付いた。
アリアから聞いた話ではアリアが先に恭一と付き合って、イチゴがある事情で割り込んでる状況だけど、本当は幼馴染のイチゴが先に恭一と付き合ってたんだと。
予想するに、イチゴが嫉妬からのイジメを恐れて恭一との交際を隠していたら、アリアが恭一に惚れて搔っ攫い、本当はイチゴと付き合ってたと言うに言えなかったって所じゃないかしら。
私が三人の関係に入る時に、恭一のいない所で決めて大丈夫なのかと聞いたら、アリアとイチゴの名前を出せば恭一も拒否しないと言われたのもそう。
それってつまり恭一の意思よりもアリアの意思が上にあるという事で、恭一がアリアに何かしらの理由で脅されているとも見える。
分かりやすい所、金とかこの学校からの退学とかで。
修二は恭一がアリアを脅してると言ってたけど、本当は逆なのよ。
短い付き合いだけど、恭一が真面目な性格なのは分かってるつもり。
あの性格では浮気も二股もしないでしょうに、強引に二股してしまってる状況に苦しんでいるに違いない。
だから私は決めた。
ハーレムを容認するのなら何故修二を諦めたのか、結局イケメンがいいのかと後ろ指さされる事になっても。
今はこの二人に頭を下げてでも。
すぐには無理でも。
いつかは必ず恭一をこの歪んだ関係から解放すると。
そして私だけが恭一の恋人になる!
恭一を脅してる悪女のアリアはともかく、最初に付き合ってた幼馴染のイチゴには悪いと思うけど、最終的にはイチゴにも恭一から身を引いて貰おう。
幼馴染なんて所詮は踏み台よ。
私と修二だってそうだったんだもの。
何にしろ、まずは恭一たち三人の関係に入るのが大事。
だから修二を売る。
ごめんね?修二。
でもあんたがアリアたちにちょっかい掛けなければこうなる事も無かったから、自業自得だわ。
アリアの思惑とは言え、あんたの事はもうどうでもいいけど、それでも私たちは幼馴染よね?
なら私の恋路のための生贄になってよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます