第18話『三人目の彼女!?』

 交番まで行って修羅場った翌日。


 登校して下駄箱を開けると、一通の手紙があった。


 今まで下駄箱に手紙を入れられたのは何度もあった。


 大体が俺の女性関係の噂を知らないでか、知った上でも構わない女子からの告白で、稀に男子の果たし状とかもあり、どっちにしろ全部お断りしたけど。


 そして俺に嫉妬した男子とか、後から手紙を入れようとした女子とかが、下駄箱に入ってた手紙を捨てる事態も多々あった。


 で『葛葉の下駄箱に手紙を入れても、第三者に捨てられる事がある』って話が広まり、下駄箱に手紙を入れられるのはなくなってたから、こういうのは割と久しぶりだ。


 取りあえず手紙を開いて読んでみる。


『大事な話があります。今日の放課後屋上に来てください。告白ではありません』


 中身はいかにも簡潔な物だった。


 告白ではない大事な話か。


 字面は女子の字だけど、この頃の悪戯は進んでて男子が女子の字を真似るのも珍しくはない。


 どうしようか。


 ……行くか。評判回復の事もあるし、ブッチしたら逆に下がるかも知れないから。




 放課後になって、俺は一人で屋上に来た。


 今日から遊ぶのを自重する、って言った初日だし、鈴木さんたちは大人しく家に帰ってた。


 ここ悠翔高校の屋上は元々閉鎖されてたけど、アリアさんの入学を期に彼女が在学中の三年間だけ開放する事になってるらしい。


 どんだけ贔屓しているんだって思うが、他の生徒も問題起こさない限りは恩恵に与れるんだから文句言う生徒はいない。

 強いて文句を挙げるなら、三年間とは言わずアリアさんが卒業してからも、という要望くらいか。


 それで期間限定のプレミア感もあって昼休みも放課後も屋上は人気スポットで、今も屋上のベンチでじゃれてるカップルとかがいる。


 そういうのを横目に空いてるベンチに座って適当に待ってみるも、屋上に俺目当ての人が来る気配が無い。


「葛葉くん、今一人?ちょっとお話する?」


「いや、すみません。人を待ってるんで」


 待ってる間に女子の声を掛けられたりもしたが、穏便に断って呼び出した人を待ち続けた。


 しかし一時間くらい経ってもそれっぽい人が来ないので、悪戯だと思い帰ろうとした所、茶色いショートヘアの女子生徒一人が屋上に駆け込んで来た。


「はあ、はあ、………あの、あなたが葛葉恭一さん、ですか?」


「そうだけど、君は?」


「私はもり舞衣まいです。その、長岡修二くんの彼女の」


 ああ、言われて見れば見覚えがあるな。

 確か斎藤さんの部屋の窓から見えた、長岡の部屋で長岡と一緒にいた子だ。


「呼び出したのに遅れてすみません。補習に捕まっていて」


「まあ、こっちが帰る前に来たからいいさ。それで、俺に何の話だ?」


「その、修二くんの事をもう困らせないでください!」


 森さんは頭を下げてそう叫んだ。


「は?俺があいつを困らせてる?どういう事?」


 むしろこっちが困ってるんだけど。


「最近の修二くん、いつもあなたの事ばかり言って機嫌が悪いんです。昨日だって交番に連れて行かれたって聞きました。もうあまり修二くんに構わないでください」


「そう言われても、突っかかって来るのはあいつの方からだけどな」


「それは……そうかも知れませんが、あしらうにももっとやり方があるじゃないですか」


「それって例えば、この前のテニス勝負でわざと負けるとか?」


「………」


 森さんは沈黙している。ただ、これは堂々と頷けなかっただけで肯定の意と取っていいだろう。

 こっちとしては随分と身勝手な話だが。


「こっちだってプライドはあるから、あいつに遜るのは嫌だね。そもそもあいつが俺に突っかかって来る理由は、花京院さんに色目を使う為だぞ。彼女ならあんたが手綱をちゃんと握れ」


「それは……」


 森さんがはっきり答えないまま答えを濁す。


「マイ、あんた鬱陶しい事やってるわね」


 待っていると、屋上に現れた斎藤さんが言い放った。


「何よ。乗り換えたユカには関係ないでしょ」


 森さんは明確な敵意を持って斎藤さんを睨みつけたが、斎藤さんは涼しい顔で流した。


「私は忠告しに来たのよ。こんな所で油売っていいのかって。ちょっとアレを見なさい」


 斎藤さんが屋上を取り囲むフェンスの外を指す。


 森さんは訳の分からない顔でフェンスの外を覗き、そのまま固まった。


 俺も気になって見てみると、フェンス越しで見える校庭で長岡が吉田さんと笑顔で何かを話しながら一緒に下校していた。


 これ、見ようによっては浮気にならないか?


「修二は今あんたと付き合ってるんじゃなかったの?あんたが補習してたり恭一に文句言ってる時に修二は他の女子と仲良く下校してるんだけど」


 斎藤さんは呆然としてる森さんを責め立てる。


「それは……」


「あのバカが目移りしやすいのはあんただって知ってたでしょうに。搔っ攫たのなら、ちゃんと捕まえておきなさいよ」


「……!私、帰るから!」


 森さんはそのまま屋上を飛び出して行った。


「何だったんだ?」


 俺を呼び出して文句言うだけ言って、結局何もならなかったんだが。


「気にしなくていいわよ。バカたちがバカな事やっただけだから。それより恭一」


「ん?」


「あんた、アリアやイチゴと付き合ってたみたいじゃない」


「……二人から聞いたのか」


 驚いた。

 長岡を嵌める事が終わるまでは隠すと思ったのだが。


 しかも名前呼びになってるし。


「ええ。驚いたわ。まさか彼女がいる事を黙って私を抱いてたなんてね」


「それは……」


 色々言い返したい事はあるが、やってしまった事は変わらないので何とも言えなかった。


「まあ、いいわ。隠してたのは分かるし、好きな子がいるからと彼女たちの事を匂わせてたし、迫ったのも私の方だから」


「……そうか」


 取りあえず、斎藤さんは俺を責めるつもりはなさそうだ。


「その代わり、アリアたちと色々話し合って、私もあんたと付き合う事にしたから。今日から私があんたの三人目の彼女ね」


「は?」


 何故それが、俺のいない所で決まるんだ?


「文句あるの?私と最後までしておいて」


「いや、その……無い」


 こうなったからには、もう俺に決定権は無いのだろう。


 裏で女子同士、何かしらの話し合いがあったのだろうし、イチゴとアリアさんに徒党を組まれたら、俺では敵わない。


 一言や二言、文句は言うけど。


「それじゃ、これからよろしくね、恭一」


 斎藤さんは楽しそうに俺の腕に抱きついた。


「ああ。……こっちはよろしく無いが」


 まさか恋人が増えてしまうとは。


 イチゴはともかくアリアさんまで何考えているんだ。


「むっ、私は名前で呼んだのに、あんたは呼んでくれないの?」


「……ユカさん。これでいいか?」


「さんは要らないわ。ユカよ」


「……ユカ」


「うん!」


 斎藤さん、いやユカは名前を呼ばれて嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。


 俺は…………吐きたくなったのでトイレに寄った。




 そのままプチデートな感じでユカと一緒に繫華街を通って帰宅してる途中、不意にユカが足を止めた。


「ごめん恭一。ちょっと来て」


 そう言ってユカが俺を連れて行った先には、道端に座り込んで途方に暮れている森さんがいた。


 長岡を追った後に何かあったのか?


「マイ、あんたここで何してるの?」


「あっ、ユカ……と葛葉さん」


 俺たちを認識した森さんは何か考える様に少し間をおいて、また口を開いた。


「ちょっと、聞いて欲しい話があるの」


「いいわよ。どうせバカ修二の事でしょうけど」


 そのまま俺たちは近くのカフェに入り、俺とユカが隣同士で、その向こうに森さんといった感じで席についた。


「えっと、二人は付き合ってるの?」


 俺たちの距離感を見た森さんが恐る恐る聞いて来た。


「あんたには関係無いでしょ。それよりもあんたの話を聞きに来たのだから、それを言いなさいよ」


「ごめん、えっと……」


 ユカの勢いに押されるまま、森さんはボツボツと事情を話し始めた。


 屋上で別れた後、森さんは長岡を呼び出して吉田さんと下校してたのを浮気なのかと問い詰めたらしい。

 そして長岡はあくまで俺に対する聞き込みをしただけだったと答えた。


「やっぱそういう事か」


「バカねぇ」


 俺とユカがそれぞれ感想を漏らした。


 そしてなんと、長岡は吉田さんから俺を糾弾できるある証拠を得たと言った。


 その証拠を使えばアリアさんを俺から解放して、アリアさんとお近づきになれそうだと自信満々に言われたらしい。


「は?あいつ、もう森さんと付き合ってるんだろ?何でまだアリアさんにアプローチする気でいるんだ?」


 つい思った事をそのまま言ってしまった。


「それは……」


「マイと修二が付き合ってるのは練習みたいなものだから、あのバカはいつ別れてもいいと思ったのでしょ」


 返事に迷う森さんの代わりにユカが推測を言い、森さんは頭を振った。


「……そうじゃないの」


「うん?」


「修二くんは、自分が花京院さんの婿になれば金持ちになるから……、それで私やユカの事も養えるって……」


「はあ?女の金で他の女囲うとか、何考えてるんだあいつ」


 言いながら、ちょっとブーメラン帰って来る気がしたけど、俺は自分の意思でやってないという免罪符があると言いたい。


「なるほどね。それで二番目、三番目扱いされて悔しがってた訳ね」


「………」


 ユカの指摘に森さんは黙ったまま俯いた。


 それを言うユカだって自称俺の三人目の恋人なんだが。


「ねえ、マイ。悔しいなら、ちょっとだけあのバカに仕返ししない?」


「え?仕返し……?」


 ユカが悪そうな笑顔で森さんをそそのかす。


 その姿から、俺は何故がイチゴの影を感じた。


―――――――――――――――

 今後二章より先の展開の参考にするためにプチアンケート書いてみます

 例えば今回ならユカとマイ、言い換えると攻略済みヒロインと攻略対象ヒロインの百合展開とかアリですかね?深夜に思い付いたんですけど大分グレーゾーンだと思えてですね

 ちなみに今回は受け止め方次第ですけど直接的な百合にならないです

【追記】プチアンケートは終了しました。こういうアンケートがあったという感じで残して置きます<(_ _)>

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