第15話『ラブホから出たチャラ男と幼馴染と修羅場』

 突然現れた長岡に、皆(何こいつ?)って顔になった。


 特に斎藤さんの顔はさらに数段冷たい。


「テストの点数?なんで?」


「いいから言え!」


 はあ。

 大方点数で勝負とか言うつもりだろうな。


 こっちの点数を先に聞き出そうとしてる所、後出しするつもりが丸見えだけど。


 とっちの点数が上にしろ勝負すると言われる前に教えてやるか。


「777点だけど」


「うわ、ゾロ目!」「しかも点数高いし、葛葉くんすごい!」


 横で聞いてたクラスメイトの女子たちが黄色い声を上げる。


 一応言っておくと中間テストの科目は八科目で、それぞれ100点満点。つまり全科目満点なら800点満点なので、俺の777点はかなり高い。


 長岡はゾロ目の点数に一瞬びっくりしたけど、すぐ自信満々な顔になった。


「そうか俺は782点だ!俺の勝ちだな!」


 まあ、長岡は特待生だからそれくらいはあってもおかしく無いな。


「確かにそっちの点数が高いけど、それがどうした?」


「へっ?いや、俺が勝ったからアリアさんたちを解放しろ!」


 またそれか。


 今あんたの幼馴染の斎藤さんも一緒にいるけど、代表で出す名前がアリアさんでいいのか?


 斎藤さんの目が冷たくなってるけど。


 それに何故テストの勝負でそういう話になるのか、こいつ勉強出来るくせにバカなのか?


「そもそもそんな約束してないだろうが」


「いや、前の勝負の時、アリアさんがテストまでは時間があるからってテニスにしたじゃないか」


「で?」


「なら本来ならテストで勝負する予定だったという事だろ」


 いや何故そういう解釈になる。


「その前に何故テニスの勝負が無かった事みたいになってるんだ?俺と勝負したければ、まずその時の負け分の特待生辞退からするんだな」


「それは……」


 都合の悪い所を突かれた風に長岡がたじろぐ。


 まあバカの相手する必要もないか。


「出来ないなら、負けた時だけ手の平返す信用ならない奴と勝負する理由もない。通行の邪魔だからどけ」


「あっ……」


 俺は長岡を廊下の端に押し出してから廊下を通り、鈴木さんたちが長岡を一瞥してから俺の後をついて来た。


 流石に先に勝負の約束を取り付け無かったのが失敗だという自覚は持ったのか、長岡はこちらを睨むばかりて追って来て食い下がったりはしなかった。


「長岡って、スペックはいいけど結構イタイ人だったんだね」


「ちょっといいかもと思ったけど、中身があれじゃあねー」


 クラスメイトの女子たちが長岡の陰口を叩く。


 長岡と同じ男性として少しいたたまれないけど、まあ長岡の自業自得だし、面と向かって言ってる訳でもないし、俺の悪口でも無かったのでスルーした。


 そもそもイチゴに色目使う奴に遠慮する事など一つもない。




 その後、皆で遊んでから解散しようとした時。


 斎藤さんだけが俺に用事があるみたいに残った。


「話って何だ?」


「葛葉あんた、まさかとは思ったけどやっぱり忘れてる訳?」


 斎藤さんから睨まれた。


 忘れてるって、まさか……あれか?


「……何の事だ?」


「とぼけないで!私がいい成績取ったら、その……(ごにょごにょ)……してくれるって約束したじゃない!」


「ん?何だって?」


 すまん。わざと難聴の振りした。これで有耶無耶になるといいが。


「とぼけるつもりなら、あんたにヤリ捨てられたって学校である事ない事言いふらすから」


「すまん、それは勘弁してくれ」


 今それをやられると俺の評判に致命傷になるので、斎藤さんの脅し文句に屈してしまった。


 この人、目が据わってるんだよ。


「今日私の家は親いるから無理だけど、あんたの部屋はどう?」


「あー、こっちも家族がいるからダメだな」


 隣の部屋にイチゴとかリナとか。


「その家族ってもしかしてリナちゃんとか?」


「そうだけど、そういえば斎藤さんもリナと知り合いだったか。会ってみるか?」


 それで有耶無耶に流れてくれ。


「別に、それはまた今度でいいわよ。それじゃ、年齢確認が緩いラブホを調べておいたから、家に帰って着替えてから集合ね」


「……どんだけやる気なんだ」


 そこでもう、俺も色々諦めがついた。


 斎藤さんと別れて一回アパートの部屋に戻り、私服に着替えてまた部屋を出る。


「あれ?兄さん、どこか行くんですか?」


 俺が部屋を出た直後、隣の部屋の玄関ドアが開いてリナが顔を出した。


「ん?あーちょっとな」


「邪魔しちゃダメよ、リナちゃん」


 適当に誤魔化そうとしたら、リナの後ろからイチゴが現れた。


「きょーくんはこれから斎藤さんとデートに行くんだからね」


「ええっ、ユカちゃんと!?でも兄さんには彼女が……、いいんですか姉さん?」


 リナが目を開いて驚く。そうなるよな。


「いいよ。きょーくんくらいかっこいいと独占出来ないし、許してあげないと」


 イチゴ。あまりリナに歪んだ知識を吹き込まないでくれ。


「でもアリアさんだって……」


「大丈夫。これはアリアちゃんも知ってるから」


「えええ……」


 これはリナだけじゃなくて俺も驚いた。


 アリアさんも知ってて受け入れてるのか。


 嘘の可能性もあるが。


 もしかして裏でイチゴとアリアさんが手を組んでたりするのか?だったら怖いんだけど。


「それにユカちゃんが相手って……、バカ兄貴の事が好きだったんじゃ……」


「それはね、あの長岡何某が森さんって人と付き合う事になったから諦めたらしいの」


「へえ、バカ兄貴もついに決めたんですか。なら仕方ないですね」


 仕方ない……のか?


 ダメだ、リナにイチゴの歪んだ教育が進んでいる。その内手を打たないと。


「きょーくん。いつまでもここで話していていいの?斎藤さんが待ってるよ」


 他の女と会いに出掛ける彼氏に言う言葉じゃないよな、これ。今更だけど。


 まだ言い足りない事があったのか、イチゴが俺に近付いて小声で呟いた。


「出来るなら、写真とか動画をとって欲しいの。あの長岡何某に見せつけてメンタルをぶっ壊したいから」


「……善処する」


 釈然としない気持ちのまま、俺はアパートを発った。




 大幅割愛させて貰う。


 あらましだけ言うと斎藤さんと合流し、ラブホテルで……せっ……色々した。


 イチゴのお願いであった撮影とかも申し出て見た。


 断られる前提で、むしろこれで白けて解散になる事も期待したが、


「帰ってからでも私の体を見たいって事?し、仕方ないわね。でも他の男に見せたら承知しないんだから」


 と、何故か顔を真っ赤にして了承してくれた。


 すまん、男ではないがイチゴに見られるんだこれ。もしかしたら長岡にも。


 色々終わってから、ご満悦な斎藤さんに腕を組まされたままラブホテルを出た。


 その直後。


「ユカ?何でそいつとそこから……」


 聞き覚えのある声に振り向くと、驚いた顔の長岡がいた。


「修二じゃない。あんたには関係ないでしょ」


 斎藤さんは幼馴染相手とは思えないほどびっくりするくらい冷たい声で答えた。


「関係ないって、幼馴染だろ!」


「それってつまり、付き合いが長い友達って事でしょ?やっぱり関係ないわ」


「そんな……」


 幼馴染が付き合いが長い友達?


 それにはちょっと俺も言いたい事があるが……いや、ややこしくなるからこの場は黙っていよう。


「でも特別に教えてあげる。女と男がホテルでやる事なんて決まってるでしょ。イイ事してたのよ」


 斎藤さんが見せつけるように俺の腕に抱き付いて見せる。


「なっ……、葛葉ぁ!お前、よくもユカを!」


 長岡が親の仇の如く俺を睨む。


 俺としては流石に見せつけるのは悪い事したと思うが、長岡に同情はしない。


 何よりも、イチゴに色目使ったからな。


「何よ。あんたはマイと付き合ってるでしょ。相手が欲しければそっちにお願いしなさいよ」


 何だあいつ、彼女が出来たのか。なら別に奪った訳でも無いから尚更文句言われる筋合いは無いな。


「それは……ぐっ。でも!そもそも葛葉だって体目当てでユカを口説いたんだろ!そして飽きたら捨てるに決まっている。幼馴染がそんな悪い男に引っ掛からない様に心配して何が悪いんだ!」


 額面だけだと一理ある言葉だな。


「葛葉……ううん、恭一は私をイジメから助けてくれたし、あんたの言ってる事と違って紳士だから私の方から誘ったのよ。見て見ぬふりしてたあんたよりずっといい男だって、何度も言わせないで」


 さりげなく下の名前呼びになったな。


 どうしよう、訂正する空気じゃない。


「だから、それは全部そいつがユカを狙って仕組んだマッチポンプだって!」


「うるさいわね。そこまで言うなら証拠でも持って来なさいよ。私たちは帰るけど、修二あんたこれ以上付き纏ったら警察呼ぶから」


 斎藤さんが俺の腕を引っ張りながら歩き出そうとする。


「ぐっ……このぉ!!!」


 色んな感情が爆発したのか、長岡が突然俺に向かって殴り掛かって来た。


 斎藤さんを後ろに回して庇いながら、長岡の拳を受け止めようとした時。


 ピ――――――ッ


 ホイッスルの声が響いて、長岡の足が止まり、俺たちの視線は音が聞こえた方に集まった。


「君たち!ここで何してるんだ!話を聞くから付いて来なさい!」


 来たのは、お巡りさんだった。


 流石に往来で騒ぎ過ぎたか。


 そのまま俺と斎藤さん、長岡は交番に連れて行かれて軽い取り調べを受けた。


 その際に長岡が俺についてある事ない事言いまくって俺が白い目で見られたり、それに斎藤さんが反発してまた口喧嘩に発展しかけたりして色々修羅場った。


 それでもラブホテルから出た辺りはボカしたし、長岡も斎藤さんの風評を気にしたのか黙ってたけど。


 ただまあ、お巡りさんに介入された場所が場所だったから、多分お巡りさんたちも察したけど証拠とか無いから流してるだけだろう。


 結局、身元引受人として三人の親まで呼び出された。


 俺の親は、俺がイチゴと付き合ってるのを知ってるはずなのに俺が斎藤さんと逢い引きしたのは追及せずにただ呆れるだけだった。


 多分だが、来る前にイチゴから何か言い含められたのかも知れない。


 長岡の親は、俺たち葛葉家にリナを預かってもらった恩があるので、俺と長岡が争う事に顔を青くしてひたすらこっちに腰が低かった。


 リナの養育費が浮いただけじゃなくて、リナがたまに長岡家に帰省する時に生活消耗品とか食材とかを色々手土産に持たせたりしたおかげもあってやっと生活に余裕が出たのに、これが原因でリナを長岡家に戻したりしたらまた生活が大変になるだろうからな。


 斎藤さんの親は、最初は俺に対する長岡のヘイトスピーチを聞いて、娘がそんなに悪い奴に引っかかってたのかと驚いた。


 けど長岡が森さんと付き合った事とか、俺に逆恨みしそうないくつかの事件を斎藤さんから聞いて考えを変えたようだ。


 長岡がまだフリーだったり斎藤さんと付き合ったのならともかく、他の女子と付き合ったのなら斎藤さんの男性関係に口出しするいわれは無いのに、斎藤さんをキープ扱いして俺に嫉妬して牽制してるのだと思ったみたいだ。


 まとめると、長岡が一人で勝手に騒いで問題を大きくしたのだと決着が着き、俺たちは厳重注意だけ受けた。


 そして長岡の親から謝罪されて、その場は解散となった。


「あのバカ修二……邪魔しかしないんだから……」


 解散する時、斎藤さんが幼馴染に向けるとは信じられないくらい恨めしい目で長岡を睨みつけてたのがちょっと怖かった。



―――――――――――――

 最初はもっとマイルドな展開で書いたんですが、やっぱラブホから出た所を見せつけるのが定番だと思い、センシティブさが上がる覚悟をして書き直したりしました


 今話のサブタイは長岡視点でつけられました。

 幼馴染と言っても彼女じゃないし、そもそも長岡には他に彼女いるんですけどね(笑)


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