第23話『この歪みから離れられない』
騒ぎを起こした長岡だが、仮処分として停学を受けた。
その後、どういう考えなのか学校に来てから警備の人に捕まって追い返されたらしい。
そこまでやらかしたらもう、穏便な処分は下されないだろう。
よりにもよって理事長の孫娘の花京院さんを脅し、それで受けた仮処分を破ったんだからな。
……花京院さんを脅したスクショって、状況からしてイチゴの捏造品で、アリアさんも噛んでるかもと疑ってたりするが。
森さんを騙しにかかるユカに協力して動画や写真を撮った俺に言えた事じゃないか。
でもアリアさんはともかくイチゴにまで色目使う奴なんて、地獄に落ちればいい。
例の動画や写真だって、俺が森さんに直接お触りする事まで提案されたのを断ったのに感謝して欲しいくらいだ。
で、長岡について片付いた後、俺は吉田さんとデートに出掛けてて今水族館にいる。
「見て恭一くん!あのペンギンこっち見てる!」
「そうだな」
「かわいいー、エサとかあげられないのかな」
「ペンギンの健康管理の都合で無理みたいだな」
「そっかー、残念」
このデートは他ならぬイチゴとアリアさんのお願いで、今回長岡の件で協力してくれたお礼らしい。
あの二人、吉田さんに一体何やらせたんだ……。
前々から何故かイチゴとのプチデートがドタキャンされて吉田さんが代わりに来てたけど、あれってそういう事だったのかと理解した。
それであの二人に使われる吉田さんが可哀想に思えて、今回の様なハッキリとしたデートに出掛けたのだ。
目玉のペンギンを見た後は、色んな水槽を見て回りながら感想を言い合い、館内ショップでお揃いのぬいぐるみを買い、館内カフェで軽食を取った。
支払いはいつもの如く全部俺だ。
アリアさんに紹介して貰った読モの報酬とかで俺も収入は出来たが、高が知れてるのでデートに度に使ったらあっという間に溶けるから、イチゴと何かしらの記念デートの為に貯めている。
なので今回もイチゴ……ではなく今回はアリアさんから貰った金を使った。
アリアさんは俺がイチゴから貰った金を使ってるとは知らないので、他の女子とのデートに俺の金を使わせるよりはアリアさん自身の金を使わせた方が、自分が上だという実感があるとの事だ。
あの人、段々とイチゴから悪い事ばかり教えれられてるんだよな……
「ねえ恭一くん」
「ん?」
デートの予定がすべて終了した帰り道。
途中まで吉田さんを送ってると、ふと吉田さんが声を掛けて来た。
「恭一くんって、好きな子とかいる?」
あー、これは探られてるな。
好きな子どころか彼女みたいな相手が三人もいるんだが、流石に言えない。
……好きな子は一人だけだが。
「……実は彼女がいる」
「え?」
俺の返事が予想外過ぎたのか、吉田さんはびっくりして足を止めた。
「……彼女がいるのに、私と水族館なんて行って良かったの?浮気じゃない?」
「彼女も知ってて送り出したさ。どうしてかは俺もちょっと分からないが」
「そうなんだ……彼女って依藤さん?それとも花京院さん?」
俺の彼女候補となるとやはりその二人が思い付くだろうな。
吉田さんとのデートをセッティングしたのはイチゴだから、このデートを知ってる俺と近い女子って条件に符合するし、アリアさんとは最近よく噂になってるからな。
どっちもです……とは言えないが。
「秘密だ」
「そう……」
吉田さんの顔がみるみる暗くなって行く。
悪いとは思うが、こっちも一途でいたいんでな。予防線を張らせて貰った。
お互い無言のまま歩き、予定してた解散場所に着いた。
「恭一くん。これってデート……だよね?」
別れる前に、吉田さんが未練を残した目で聞いて来た。
「……一応そうだな」
「それじゃ」
突然吉田さんが俺の両肩を掴み、俺が避ける間もなくほっぺにキスした。
「なっ、吉田さん!?」
彼女いるって言ったよな!?
「だってこれ、デートだから!じゃ、また学校でね!」
俺が文句を言うよりも前に、吉田さんは逃げる様に走り去った。
はぁ………
それを見送って俺もため息ついた後、家路につく。
キスされたのは驚いたけど、唇同士でもないからまだ穏便に終わった方か。
いやこれも良くないけど。俺も感覚が麻痺して来たな。
たまにだが悪い噂がある俺に告白する子はいる。
告白を断る時に彼女がいると言ったら、その彼女と別れて自分と付き合って欲しいとまで言われて迫られた事もあったからな。
そういうのよりはまだマシだ。
それに別れろと言われても、誰とも別れるのは無理だ。
アリアさんを振るのは理事長に止められてるし、別れようとしたらその腹いせにアリアさんが家の資金力や権力を使ってイチゴに何をしようとするか分からないから、別れるなら俺への好感度が下がるまで待つしかない。
ユカについても、ちょっと歪んでしまったイチゴはともかく、普通に独占欲があるアリアさんまでも認めてるって事は、何か理由や必要があると思って認めているのだろう。
俺が勝手にユカを切ろうとしたら、イチゴとアリアさんがどう出るかちょっと予想がつかない。
それにユカには色々同情してる所があるので、失恋した心の傷が癒えて、俺に愛想尽かすまでは誠実……に接してあげたいと思ってる。
いや、三人目の彼女とか言わせて誠実とか笑われるかも知れないが。
イチゴと別れるのは絶対論外だ。
色々理由はあるが、語るとイチゴへの想いが安っぽくなってしまうので言わない。
とにかく俺にとってはイチゴが一番だ。
だからイチゴから他の女子と遊んで欲しいと言われたら、惚れた弱みを握られたこっちも強く拒否出来ない。
その延長でユカとも付き合う事も受け入れてしまって、現状この歪んだ関係から離れられない。
俺はイチゴに一途でいたいのにな。
いつでもイチゴだけを選ぶ心の準備も出来ているんだがな。
ふぅ………
長くても高校を卒業まで後二年の辛抱だ。
卒業して大学でバラバラになれば、イチゴ以外は自然消滅するはず。
そう信じたい。
そしてイチゴも俺を他の女子と遊ばせるのに飽きて欲しい。
祈るように、そう思いながら家路をたどり続けた。
―――――――――――――――――
これにて二章の本編は終了です
次は章あとがき……の予定でしたが、少し予定変更して遊び心で書いたIFの小話になります
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