第22話【裏・ここは歪みと邪悪で出来ている】
【Side.ユカ】
「ふっふっふ。これは完璧にメンブレしたね。停学が解けても不登校になるんじゃない?」
「殺してくれとか、いっそ自殺してくれてばもっと気が晴れるのですが」
修二が停学になって数日後の放課後。
私、アリア、イチゴはアリアの家に集まった。
最初はアリアの家に色々びびったけど、今はそれ所じゃない。
私たち三人は修二のメンタルが破壊される動画を大型テレビで見た。
何でも、いつの間にかイチゴが修二のスマホにウイルスを仕掛けていて、そのスマホのカメラやマイクを使って修二の状況が筒抜けになってたの。
修二のスマホで写真データが何度も変わったのも、修二を監視してたイチゴがタイミングを狙って写真を差し替えた事。
さらに言えば修二がスマホに入れたフリーのワクチンすらイチゴが作って配布してた物だったので、イチゴのウイルスは当然の如くすり抜けた。
アリアとイチゴは楽しそうに感想を述べてるけど、どうしてここまでの事が出来てそれを茶菓子の感想でも言ってるみたいに話しながら笑っていられるのか、私はこの二人が空恐ろしい。
イチゴってただの幼馴染枠かと思えば、エンジニア兼ブレイン役だったし、アリアは学校で文字通りお姫様みたいな権力持ってるし。
この二人の組み合わせって危険過ぎない?
こいつらから恭一を助けられるのかちょっと不安になって来た。
それにこのハーレム?は一見アリアが頂点に君臨してるように見えるけど、実際に全てを動かしているのはもしかして……
「ん?ユカちゃん、自分は違う、みたいな顔してるけど、もう同じ穴の狢だからね?男の為に幼馴染と友達を売ってどんな気持ち?」
私と目が合ったイチゴが、私の心を見透かした様に言う。
「……修二の方はどうでもいいけど、マイには悪い事したと思ってるわ」
目を逸らして答えた。
そう、私もあまり人の事を言えない。
だって、私は修二を売っただけじゃなくてマイまでも騙したのだから。
マイに修二の事を相談されたあの時。
私がマイに提案した仕返しは、マイが恭一と浮気したと勘違いしそうな写真を修二に見せて煽るという事だった。
どうしてそんな提案を思い付けたのかと言うと、そもそも私のアイデアじゃない。
もしこんな事があったらこうして欲しい、と先を見通したようにイチゴに言われてたの。
本気で浮気したと思われたら破局するかもだけど、浮気じゃない証拠も用意すると言ったら、マイも迷った末に頷いた。
本来なら誰も頷かないバカみたいな提案だけど、マイは心細くなってたみたいで流されたかも。
そして私、恭一、マイの三人であの写真を作った。
恭一はこの話の乗らないかもと思ったけど、修二に思う所があったのかあっさり協力してくれたわ。
まず動画として恭一とマイが並んでラブホテル……の前を通り過ぎる動画を撮ったの。
そして動画から通り過ぎる直前の場面だけを切り抜いて、いかにも二人でラブホテルに入りそうな写真を作ったって訳。
その後は私とマイだけでラブホテルに入り、マイが服を脱ぎ出す動画を撮って、最後には撮影者は私で部屋に他に誰もいない所を撮る。そして入り口の時と同じ様に写真として切り取った。
でもマイは一つ見落としていたの。
動画も写真も全部私の手の中にあって、修二が動画を見ないで写真だけ見ればどうしても浮気を疑う事になるのを。
私が写真だけを修二に送りつけた後、修二がマイに電話を掛けるのが予想出来たので、私は動画を削除すると脅してマイからスマホを奪い、修二の番号を着信拒否に設定したわ。
「ユカ!私を騙したの!?」
流石にここまでされるとマイも色々気付いて私は問い詰められたわ。
「騙されたあんたが……いえ、あんたたちが悪いのよ」
そう。
私をほったらかしにしてアリアだけ追ってた修二も、抜け駆けして修二を搔っ攫ったマイも悪い。
マイと付き合ってもまだアリアを狙って、さらに私までも愛人扱いしようとした修二は猶更悪いのよ。
「そんなぁ、このままじゃ私、修二に捨てられる……。こんなの酷いよ……」
泣き出すマイに、私は宥める様に言う。
「大丈夫。私の言う事を聞いてくれれば、動画も送ってあげるわ」
「……えっ?」
「簡単よ。冬休みが終わるまでに、修二との接触を一切断ってくれればいいの。そうすれば三学期が始まる前に動画を送るわ。あ、それまでに修二に待っててとかも言っちゃダメだからね」
「そんな。冬休みにはクリスマスも元日もあるのに!」
どっちもデートするには絶好のイベントだものね。特にクリスマスは。
まあ、だから私に入れ知恵したイチゴも期間をそう指定したんだろう。
それまでに修二が学校に残っていられるか怪しいけど。
「いやならいいけど、動画は消すよ?」
「……分かった。約束、守ってね?」
マイは私を恨めしく睨んで来たけど、結局は私の脅しを受け入れた。
その後修二が学校に凸って来て警備に捕まりちょっとした騒ぎになり、修二の所のおじさん、おばさんがマイに連絡したみたいだけど、マイは私の脅しもあって「修二とは会えない」としか返せなかった。
さらにはどうやってかイチゴがマイのレインアカウントを乗っ取り、それをを使ってリナちゃんの写真を修二に送りつけた。
リナちゃんの写真は、単にイチゴがリナちゃんをそそのかして寝てる恭一を上半身裸にして悪戯しただけと言われた。
修二を嵌めた時の写真は、恭一に見せて誘惑させると言い包めてリナが長岡家に帰省した時に用意させた物だとも。
恐ろしい事は、ここまでで犯罪に突っ込んでる行為に、イチゴも恭一もアリアも直接矢面に出てないという事。
人が直接動くべき場面では必ずと言っていい程、吉田さんかそれとも途中から協力した私を挟んだ。
これでは修二はイチゴの暗躍に気付けないし、恭一の所為だと主張しても証拠なんて出ない。
私との不純異性交遊にはなるかもだけど、それでも修二が主張するような強引に関係を迫ったりした証拠は無い。
アリアの家にいる私たちと、吉田さんさえ口を噤んでしまえば真相は闇の中。
修二は本当の地雷と悪意の出所も分からないまま破滅した。
「きょーくんは今吉田さんとデート中かー」
「ふん、精々思い出を作っておけばいいのですよ」
イチゴとアリアが今この場にいない恭一と吉田さんについて語る。
この二人は吉田さんの両親の都合を操作して、二年生になる頃に転校するよう追い詰める予定だと言ってた。
何でも吉田さんが練習で他の男と付き合ってから恭一に乗り換えた事が、恭一が吉田さんを寝取ったって悪評の元の一つになってるから、それを断つためだとか。
それとイチゴがグレーな行動を起こす時に吉田さんに代行させてたから、その口封じの意味もあるみたい。
もし私が、修二に未練を残してたり、恭一に騙されたと思ったり、アリアさんたちを不快に思ったりして、修二の味方をしなくてもアリアさんたちへの協力を拒んでいたら、私も転校させられたかもとゾッとする。
「それで、森さんはどう処分します?彼女も恭一さんに宛てがわせるのですか?」
「う~ん。最初はそれも考えてたけど、今の状況じゃどうしても強制わいせつに絡むから、きょーくんが捕まる尻尾が出来てしまうのよね。きょーくんが自分で森さんを口説けばいいんだけど、きょーくんはそこまで乗り気じゃ無いから、このまま生殺しにするのが安牌だと思う」
まるで家畜の処遇でも決めるみたいに、アリアとイチゴが意見を交わす。
「そうですか。不必要に恭一さんの相手を増やさないのならば私も構いません」
言いながら、アリアが新参者の私を睨んだ。
アリアからすれば私も恭一に纏わりつく虫。
今回は修二を嵌める為に私の事を認めただけで、理由が出来ればいつでも私を追い落とすつもりかな。
話に入れない私がここに呼び出されたのも、私が裏切らないように釘を刺す目的かも。
私だってこの二人に弱みを握られちゃったしね。
まさか恭一に抱かれてた時の動画データをこの二人が持ってるなんて。
他の男に見せるなとは言ったけど、女ならいいって話でも無かったのよ?
恭一はこの二人より立場が弱そうだから、強引に取り上げられたのかも知れないけど。
あんたたちは彼氏が他の女を抱いてるのを見て楽しむ趣味でもある訳?
……こんなに歪んでて邪悪な二人が私の倒すべき敵。
強敵だけど、私は必ずこの二人から恭一を助け出してみせる。
例え私自身がこの二人と同じ所に堕ちるとしても。
―――――――――――――――
イチゴの自作ウイルスなどが少しファンタジーですが、フィクションのご都合主義的な物として受け入れて欲しいです<(_ _)>
次、章最終話です
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