第9話【裏・私の城で私が「やりすぎる」事なんてありません】

今話は別視点でのまとめ回想な感じです

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【Side.アリア】


 イチゴさんから聞かされた計画は、長岡修二生ゴミの女たちを全員恭一さんに奪わせるという事でした。


 確かにそれをすればあの生ゴミの精神に大きな打撃を与えられるでしょう。


 けれど恭一さんに他の女を宛がう事には乗り気になれませんでした。


「あの生ゴミの精神を壊す意図は理解しました。けど、恭一さんをその様に扱うのは……」


「アリアちゃん。これはね、実験も兼ねてるんだよ」


「実験、ですか?」


 意外な言葉が出て首を傾げます。


「そう。きょーくんのアレってアリアちゃんだから大きくならないのか、私だから大きくなるのか。他の子だとどうなって、何かしらの条件があるのか。そのデータも収集しようとしてるの。そしたら、アリアちゃんは私無しできょーくんとセックス出来る様になるかも知れないよ?」


「恭一さんと……二人きりで……」


 それを想像して、思わず生唾を飲みました。


「私、きょーくんもアリアちゃんも好きだから、二人は上手くいって欲しいんだ。だからね、私も胸が痛いけど、この先もきょーくんとアリアちゃんが付き合い続ける為に必要な事だと思うの。じゃないと私もいつまでもきょーくんの事諦められないから」


 なるほど。


 イチゴさんなりに身の程を弁えて気を遣ってくれてたのですね。


 確かに、この先恭一さんと結婚した後もイチゴさんを恭一さんとの睦事に混ぜるつもりはありませんから、恭一さんの限定的な不能の理由を究明する必要はあるでしょう。


 そうした後はイチゴさんはもう要らないので捨てる事になりますが。


「……そうですね。いつまでもイチゴさんの世話になる訳にはいかないんですもの。先の事を考えるなら仕方ない……ですよね」


 とはいえやはり、恭一さんが他の女と交わるのは気に入らなくて、歯を食いしばりながら納得しましたが。


 イチゴさんの計画の一環として、私は自分の学校における権力を使い、新しい生徒会に恭一さんやイチゴさんだけでなく、生ゴミの幼馴染である斎藤由華さんも役員に入れるのを勧められました。


 確かに私が次の生徒会長になるのは決まっていて、役員の選抜もほとんど私に一任されてます。ただ、


「生ゴミから女を引き離すのは理解しましたが、両方じゃなくて斎藤さんの方だけなのですか?」


「アレがプチハーレムを維持出来てるのは割とバランスを取って二人に接しているからなの。だからそのバランスを壊してしまうんだ。そうするとアレが斎藤さんと森さんの両方にバランスを取れなくなるから、色々と隙が出来ると思うの」


「なるほど」


 陽動作戦みたいなものでしょうか。


 いいでしょう。次の生徒会役員は二年の先輩方に続投して頂き、他は恭一さん、イチゴさん、斎藤さんでほぼ決まりですね。

 庶務は……念のために空けて置きましょうか。


「そういえば、葛葉くんは生徒会に入るの?」


「いや、入る気は無いけど、どうして?」


 しかしクラスの教室で恭一さんが他の友人たちと話してるのを聞くと、恭一さんは生徒会に入る気がなさそうでした。


 争奪戦でも起こりかねない校内の空気に気押されたのでしょうか。


「その話ですが、私は恭一さんを生徒会に誘おうと思っています」


 私は恭一さんの腕を引っ張るつもりで、クラスメイトたちの前で恭一さんを生徒会に誘いました。


「どうして俺を?」


「それは勿論、伊藤さんが言った通りに恭一さんには今まで生徒会の仕事を手伝って頂いた実績がありますので、頼りになると思ったのです」


 名分はこれだけで十分過ぎるんですから。


 しかし穏便に恭一さんを生徒会に入れる為にやったつもりでしたが、放課後になるとちょっとした騒ぎになりました。


「葛葉恭一!表に出ろ!」


 例の生ゴミが教室に怒鳴り込んで来て、私が恭一さんを生徒会に誘った話を、恭一さんが生徒会に入りたいと言って私を困らせてるって話に変質させて恭一さんに生徒会へ入るなと言ったのです。


「じゃあ、代わりにお前が入るか?」


 しかもあろうことか、恭一さんはその話を聞き入れて変わりに生ゴミを生徒会に入れさせようとしました。


 もしかしたらと警戒した、恭一さんが私を他の男に押し付けようとしてるかも知れない危惧が、ほぼ当たってる様に思えます。


 あの生ゴミ……つくづく余計な事ばかりしてくれますね。


「アリアさん、そういう訳で俺があいつの代わりに生徒会に入るから!」


 生ゴミが自信満々に言う事がとても我慢ならなくて、その顔を引っ叩きました。


「えっ、花京院さん……?」


 生ゴミは何故引っ叩かれたのかも分からない様子で間抜け面を晒します。


「部外者が勝手に決めないでいただけますか?あなたなんかを生徒会に入れるつもりはありません」


 そう言って、私はすぐ職員室に向かいました。


 もう穏便になんて言ってられません。


 私はその日の内に生徒会役員を確定させました。


 しかしあの生ゴミはその後もしつこく自分を生徒会に入れろとか、恭一さんを外せとか勝手な事ばかり言って来るのです。


 正直、すぐにでもまた退学に追い込みたくなりましたが、まだ計画の途中ですので我慢です。


「花京院さん、これを見てくれ!」


「……何ですか?これは」


「見ての通り、葛葉に対する不信任署名だよ。70人分ある」


 署名ですか。馬鹿な事をしますね。


 だって、不満分子を炙り出す手間が省けただけですから。


 そもそも他所から言われて意見を変えるくらいなら、最初から生徒会長なんてしません。

 どうしても意見を通したいのなら、私を引きずり落とす事ですね。出来るのなら。


「葛葉!俺と勝負しろ!俺が勝ったら副会長の役職を辞任するんだ!」


 しかし生ゴミは性懲りもなく恭一さんに絡みます。


 いやだから、何故あなたが生徒会の人事を決めようとしてるんですか?


 しかも自分にノーリスクな条件で。


「話になりませんね」


 見てられなくなったので、話に割り込みました。


「恭一さんについて何も言わないのが当たり前の事なのに、なぜあなたは私の決定を覆そうとしながら、何のリスクも負わないのですか?」


「あ、いや、じゃあ……どうすれば納得してくれるんだ?」


「あなた、確か特待生でしたね。あなたが負ければ、特待生を辞める事を賭けてください。あと二度と私たちに接触して来ない事も」


 これだけ言えば流石に手を引くでしょう。


 長岡家にウチの学費を払える余裕がない事は調べ済みですから。


「いいよ、分かった。俺が負けたら特待生を辞める!」


 ……って何故受けるんですかね。


 まさか負けるはずが無いとかそんな馬鹿な考えじゃないでしょうね?


 流れのまま私が話を仕切り、二人にはスポーツで勝負していただく事にしました。


 種目はイチゴさんの助言を受けてテニスに。


「あいつ、ジュニアテニス大会で優勝した経験けど、それでもきょーくんが勝つから」


「なるほど。得意フィールドで生ゴミの顔を潰すのも面白そうですね」


 ただ、コートに入る恭一さんの顔にやる気がなさそうで、もしかしてわざと負けるのも考えてるんじゃないかと危惧し、声を掛けました。


「恭一さん、勝ってくださいね。私や……イチゴさんと一緒に平和な学校生活を送りたいのなら」


 つい、一番効果的だと思ってイチゴさんの事を持ち出しました。


「ちっ」


 それで恭一さんはやる気を出してくれましたが、露骨に不機嫌な顔でコートに入りました。


 まずいですね。今のでまた恭一さんに嫌われたかも知れません。


 イチゴさんを人質に取るやり方も三度目は出来ないと気を付けた方が良さそうです。


 ああ、テニス勝負ですか?


 恭一さんが勝ちましたよ。圧勝です。


 ほぼ未経験だと言ってたのに、大会優勝経験者に勝つとか、凄くてかっこよかったです。


 いつの間にか野次馬が集まってて、女子生徒たちが黄色い声を上げて恭一さんを見てました。

 普段なら不愉快だったでしょうが、今回ばかりは誇らしい気持ちでした。


「バカな……俺があんな悪役に負けるなんて……」


 生ゴミが地面に手を膝をついて落ち込んでます。


「長岡……不様ですね」


 私は追い打ちを掛けたくて、彼に近付いて見下ろしながら言いました。


 そこで生ゴミが予想もしなかった言葉を吐きました。


「くっ……。ごめんアリアさん。せっかくアリアさんが俺に有利なテニス勝負にしてくれたのに勝てなくて。俺なんてアリアさんに励まして貰う資格もない!」


「は?」


 私が、生ゴミを応援……?


 あなたの顔を潰すつもりだったのですが?


「でも、俺はこれで諦めない!絶対葛葉から救い出して見せるから、待っててくれ!」


 黙ってて貰えますか?恭一さんが誤解でもしたらどうするんです?


 生ゴミがコートを去った後、すぐスマホを取り出しておじい様に電話しました。


「……はい。おじい様、一人退学にして欲しい生徒がいるんですが。長岡なんとかという生ゴミが……」


 しかしおじい様からは「やりすぎ」だと言われて拒否されてしまいました。


 やりすぎって何ですか?


 あの生ゴミだって十分好き勝手やってると思うのですが?


 この鬱憤……イチゴさんの計画で生ゴミを心身ともにボロボロにする事で晴らすとしましょうか。


 しかもあの生ゴミ、手の平を返して特待生を辞めないし、接触禁止も破って謝りに来ました。


 謝れば許されるとでも?


 勝負の約束に強制力がないから放置してるだけですが。


 つい堪忍袋の緒が切れて蹴ったら、少しはスッとしました。


 約束を破られた事も、周知させれば校内での生ゴミの信用は落ちるでしょうし、この前例で今度から勝負を断らせる口実にもなりますから、取りあえずはそれでいいでしょう。




 さて、イチゴさんの計画ではまず斎藤さんから落とすのでしたね。


 胸ばかり大きい下品な人ですが、男性はあのような物を好むと言いますから、生ゴミのメンタルを引き裂くだけでなく、恭一さんへの供物にもちょうどいいでしょう。


 最初は気が進まなかったのですが、ここまで私を怒らせたのです。徹底的にやっていただきましょう。


 タイミングよく二人の関係に亀裂も入れられましたしね。


 生ゴミは想像も出来ないでしょう。

 手のひら返して特待生を辞めずに私に謝罪しに来た事が、回り回って自分の女を取られる原因になった事を。


 ふふふ……生ゴミがどんな顔で絶望するか楽しみです。


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