第5話『新生徒会発足』

 イチゴの部屋にて。


 リナが作ってくれた夕飯を食べてダラダラしていると、ふとイチゴが話しかけて来た。


「ねえ、きょーくん。生徒会には入らないつもり?」


「兄さん、生徒会に入るんですか?」


 横でイチゴの言葉を聞いたリナも質問した。


「きょーくん、今日アリアちゃんから生徒会に誘われたのよ。ほらあの学校の理事長はアリアちゃんのお爺さんだから、投票無しでアリアちゃんが次の生徒会長になるのよ」


 イチゴが俺の代わりにリナに説明する。


「へー、そんな漫画みたいな……」


 漫画みたいか。本当にな。


「で、入る気が無いの?」


「う~ん、アリアさんには悪いけど、周りの妬みを買ってまで入りたくは無いってのが本音かな」


「ええ~!兄さんを妬む人がいるんですか!?」


 リナが信じられなさそうに驚けど、いるんだよなー、特に同性の男子とか。


「いるのよね、それが。今日もリナちゃんの兄の長岡何某がきょーくんに生徒会に入るなと言って来たから」


「なっ……!何て失礼な事を!すみません兄さん、あのバカ兄貴が嫌な思いをさせて!」


 リナがまるで自分の事みたいに頭を下げた。


「いいよ。リナが悪い訳じゃないから、頭上げて」


 俺がリナを宥めるのを見た後、イチゴが話す。


「私はきょーくんが生徒会に入った方がいいと思うなー。私も入って欲しいとアリアちゃんにお願いされたからね」


「イチゴも?……じゃあ考えてみるよ」


 俺だけならともかく、イチゴも入るなら話は変わる。


 何より、生徒会となればイチゴが他の男子とも絡むかも知れないからな。


 アリアさんもいる生徒会であり得ない……とは思うが、質の悪い男に絡まれて欲しくないのでな。




 しかし翌日。

 生徒会に入るかどうかという俺の悩みは無用な物となった。


 いつもの様に登校すると、学校各所の掲示板にある知らせが張られたのである。


『………以下の生徒たちを今年度後期の生徒会役員とする


 会長ー花京院アリア(一年)

 副会長ー葛葉恭一(一年)

 副会長ー依藤苺(一年)

 書記ー斎藤由華(一年)

 会計ー松浦智美(二年)

 広報ー加藤和弘(二年)


 当人による異議受付は本日まで職員室にて………』


 といった感じで、要点だけ言えば俺の生徒会入りが勝手に決まってしまった。


 異議受付が今日までって短過ぎんか?


 まあ、イチゴも役員になってるし、無理に拒否する理由もないか。


 斎藤さいとう由華ゆかってのは知らない人だな。名前からして女子か?


 生徒会が始まれば会えるだろうから、今は気にしなくてもいいか。


 それから廊下でも教室でも、学校中は新しい生徒会役員の話題で持ち切りだった。


「葛葉くん!生徒会役員になったんだって?しかも副会長!」


「おめでとうって言っていいのかな?」


「お祝いする?葛葉の奢りで」


「いや流石に今回はウチらが出さんと!」


 教室に入ると、早速伊藤さん、吉田さん、小林さん、鈴木さんのいつメン四人に取り囲まれた。


 彼女たちにどう答えるか考えていたら、アリアさんが割り込んで来た。


「恭一さん。生徒会の件ですが、今日は顔合わせがありますので、放課後になったら一緒に生徒会室に行きましょう」


 アリアさんは言外に「今日は伊藤さんたちと遊びに行くな」と釘を刺して、一人でいるイチゴにも同じ事を言った。


「そういえば依藤さんも同じクラスだったね」


「あの子は花京院さんと接点無さそうなのにどうして生徒会役員に?」


「私知ってる!」


 鈴木さんの疑問に、吉田さんが手を上げた。


「入学試験の時、依藤さんが花京院さんと一緒に共同首席だったんだって。入学式の挨拶は花京院さんに譲ったけど」


「へえー、そうなんだ」


 吉田さん、よくそんな事知ってるな。


 俺はイチゴから直接聞いたからだけど、吉田さんは誰に聞いたんだ?先生かな?


「そういえば、書記の斎藤由華さん?は誰なのか知ってる人いる?」


 俺はふと思い出して周りに聞いてみた。


 今度も吉田さんが手を上げた。


「他のクラスの友達から聞いたよ。一年C組の子で、昨日凸ってきた長岡の幼馴染だって」


 ふ~ん。長岡の幼馴染ね。もしかしてリナとも知り合いだろうか。


「で、ア…花京院さんは何故彼女に目を付けたんだろう」


「さあ?そこまでは知らないけど、聞いてみる?」


 吉田さんが視線でアリアさんを指す。


「……いや、今はやめとく。後で生徒会室で聞いてみるよ」


 あまりクラスメイトを刺激したくないからな。




 そして何事もなく授業がすべて終わり放課後になった。


「恭一さん、依藤さん、行きましょうか」


 ホームルームが終わってすぐ、アリアさんが俺とイチゴを生徒会室に誘う。


「ああ、分かった」


 俺はそのままイチゴの一緒にアリアさんの後に付いて移動し、生徒会室に入った。


 生徒会役員になったのは今日なのに、生徒会室に見慣れた事に苦笑いが出る。


 生徒会室では先に着いていた男女一組いた。


 男の方が加藤かとう和弘かずひろ先輩で、女の方が松浦まつうら智美さとみ先輩。


 どちらも前の生徒会から続投する二年の先輩たちで、俺もアリアさんの手伝いをする事で知り合った顔馴染みだ。

 ついでに言えば、二人は付き合っている。


「やあ、葛葉くん。結局生徒会に入ったね。これは花京院さんと付き合うのも時間の問題かな?」


 加藤先輩が慣れた様子で声を掛けて来た。


 この人いつもこんな事言ってからかって来るんだよなー。


「何度も言いますけど、そんな関係じゃないですからね」


「そこは『まだ』って付け加えないのか?」


「しませんよ、そんなベタな事」


 本当の所、『もう』付き合ってるんだけど……内緒だからな。


 俺が加藤先輩と話す傍ら、イチゴとアリアさんも松浦先輩と話している。


「あなたが依藤さんね。私は松浦智美よ。これからよろしく」


「……よろしくお願いします」


「あら、ちょっと無愛想ね。人見知り?花京院さん、この子が副会長で大丈夫?」


「大丈夫です。イチゴさんとはクラスメイトで、こっそり仲良くしてる友達ですから」


 松浦先輩の目が丸くなる。


 堂々と友達人事を打ち明けられたからそうもなるか。


「……そう。それなら花京院さんに任せるね」


 まあここがそもそもアリアさんの為にある学校で、アリアさんが生徒会長になったのだって家の七光りゴリ押しだからな。


 松浦先輩も友達人事くらい今更だと思ったのだろう。


 各々雑談しているとドアが開き、知らない女子生徒が入って来た。


 目に付くのはツインテールに束ねた髪と、俺たちと同じネクタイの色。


 察するに彼女が斎藤由華さんなのだろう。


 そして彼女の後に続いて、最近顔をよく見る長岡が一緒に入って来たけど、何の用だ?あいつ。


「初めまして。私が斎藤由華よ」


 斎藤さんは俺たちを一回見回して自己紹介した。


 結構気の強い言い方だけど、会長のアリアさんが同級生だからか?


「いらっしゃいませ。ご存知でしょうが私が生徒会長の花京院アリアです。これから同じ生徒会役員としてよろしくお願いしますね。……所で」


 アリアさんは挨拶した後、目を細くして長岡を睨んだ。


「長岡さんでしたか?あなたは何故こちらに?」


 話しかけられた長岡が勢いよく答える。


「花京院さんにお願いがあって来たんだ。俺を生徒会に庶務として入れて欲しい」


 庶務か。そう言えば前期の生徒会にはあったのに今回は無いな。


「何故あなたを庶務に入れなければならないんですか?」


 アリアさんの言い方きっつ。


 でもまあ、長岡のお願いが身勝手だから仕方ないか。


 お願いして入れて貰えたなら今頃お願いする生徒で殺到してる。


「だって、前の生徒会には庶務もあったのに今年はいないんじゃ、手が足りなくなって困るんじゃないかと思って。俺の幼馴染のユカも生徒会に入るから、力になりたいんだ。あと……」


 長岡が俺を睨んで来た。


「そこの葛葉が他の役員の子たちに迷惑掛けないか監視するべきだと思うんだ」


 やっぱそう言うかー


「お断りします。庶務がいないのは、いなくても十分に仕事が回ると判断したからです。それに恭一さんは一学期から仕事を手伝っていただいた実績から信用出来ますので」


「そうか。……無理言ってごめん。今日は帰るよ」


 アリアさんが冷たく断ると、長岡は大人しく引き下がり生徒会室を出た。


 ……途中で俺を一度睨んだけど。


「あっ、ちょっと修二!今日は挨拶だけのつもりだったから、私も帰るわね!」


 斎藤さんはそう言って長岡を追いけけて出て行った。


 今日は挨拶だけのつもりとか君が決める事じゃないと思うけど……


「ふう……、まあいいでしょう。私も今日は挨拶だけのつもりでしたので」


 アリアさんが不機嫌そうに呟く。


 そのまま解散する流れとなり先輩二人が先に帰った後、アリアさんが話しかけて来た。


「恭一さん、イチゴさん。一緒に帰りませんか?今日は恭一さんの部屋に遊びに行きたいと思いまして。……お泊りで」


 圧のある笑顔で言って来るなー。


 これは、今夜のストレス解消に付き合わされるだろうな。


 リナに見られなければいいんだが……


―――――――――――――――

 生徒会の二年二人はただの枠埋め要員ですので、あまり気にしなくていただいても大丈夫です

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