第4話『バカが来た』
二学期が始まって一週間が経った。
俺は学校では伊藤さんたちのいつメンに吉田を加えた面子と雑談して、放課後はそのまま伊藤さんたちと遊ぶ。
予定が合えばイチゴやアリアさんとこっそりデートしたり、部屋に帰った後はリナと料理をしたり勉強を見てあげたり、イチゴとイチャついたりした日常を送った。
アリアさんと言えば、長岡修二と仲良くなってる様に見えたし、車まで送って貰ったというSNS噂も見た。
それでもしかして長岡と仲良くなってるのかもと思った……
『違うんです、恭一さん!あれはあの生ゴミが勝手に付き纏っただけで、決して浮気などではありませんから!』
けど、直後にアリアさんから勝手に長岡に付き纏われただけだと弁解された。
浮気の言い訳みたいだが、多分嘘では無いと思う。
心変わりしたのならさっさと俺を振ればいいだけだからな。
付き合ってるのを公表しても無いからまだ傷も少なめで済むし。
俺としてはアリアさんが他の男に乗り換えてくれるのなら、この歪な二股も解消されるから願ったりな状況だったからやや残念だったけど。
ただ、今回の事でいいアイデアを得た。
理事長からは一年生の内に俺の評判を回復させて、二年になったらアリアさんとの交際を明かして虫よけになれと言われている。
でも評判回復の傍らにいっそアリアさんを押し付ける相手を見つけてしまうのもいいかも知れない。
俺からアリアさんを振る事は理事長に止められたが、その逆は何も言われて無いからな。
アリアさんが俺を振るのは認められているのだ。
アリアさんを他の男に惚れさせて押し付けるなんて、まるでイチゴがやった事みたいだが、まあ長年の幼馴染カップルなんだし似た所くらいあるだろう。
候補は……アリアさんは男子人気は高いけど、親密な男性はいないんだよな。
ウチのクラスの男子はもう軒並み振られてるし、クラスメイト以外だと生徒会の男先輩たちはほとんど彼女いるし、そもそもアリアさんを恐れている節もあるから無理か。
習い事などで俺の知らない人付き合いもあるかも知れないが、流石にそこまで把握していない。
なら、今の所は長岡が最有力候補か。何やら俺の知らない接点とかありそうだし。
俺の評判が悪い所為で長岡からは嫌われていて、その所為がリナも長岡に怒ってはいるが、それ以外にリナから長岡の悪口を聞いた覚えもない。
それに夏休みに出来た義理の妹のリナが貧しい暮らしをしてても心根真っ直ぐに育った所を見ると、その兄の長岡にも一定の信頼を持てる。
という訳で、チャンスがあればアリアさんを長岡に押し付けるのも考えておこう。
「そういえば、葛葉くんは生徒会に入るの?」
昼休みの途中。
いつメンで雑談してたら、伊藤さんに聞かれた。
そういえば、今月末に生徒会の任期が切り替わるから、新しい役員の選抜があるな。
生徒会長は学校側……というか理事長の意向でアリアさんに確定している。
まあ、アリアさんの為に建てられた学校だしな。
一部不満分子もいるが、それらは納得してる多数の生徒と学校側の圧力で黙殺されている。
生徒会の新しい役員選抜についてはどのような方法で行われるか知られていないが、アリアさんの意向が反映されるだろう事は間違いない。
そして生徒会役員になるのはアリアさんと仲良くなれるチャンスなので大抵の生徒たちが狙っている。
今だってクラスメイトたちがアリアさんにアピールしてるし、他のクラスの同級生や上級生も直接訪れるくらいだ。
正直、下手に生徒会に入ったら評判を回復する所かヘイトを買いまくりそうなのであまり入りたくない。
「いや、入る気は無いけど、どうして?」
「それは、今まで何度もアリアさんの生徒会仕事を手伝ってたから、そうなるのかなーって」
「それはそう」
「えー、恭一くんが生徒会に入ったら放課後に遊べるチャンスが減るじゃない」
「葛葉っち、毎度奢ってくれるから小遣い的にめっちゃ助かるのに」
伊藤さんの考えに小林さんは同意するが、吉田さんと鈴木さんは不満みたいだ。
まるでタカリみたいな鈴木さんの言葉はともかくとして、伊藤さんの言葉をさらに否定しようとしたら―
「その話ですが」
いつの間にか近くに来たアリアさんに止められた。
「私は恭一さんを生徒会に誘おうと思っています」
アリアさんから放たれた言葉に、教室中の空気がざわつく。
俺とアリアさんの絡みに対する好奇の目が半分、嫉妬の目が半分と言った具合で教室にいるクラスメイトから注目された。
「どうして俺を?」
思い当たる理由が無くも無いが、惚けてみた。
「それは勿論、伊藤さんが言った通りに恭一さんには今まで生徒会の仕事を手伝って頂いた実績がありますので、頼りになると思ったのです」
やはりそう来るか。
「それで、生徒会に入っていただけるのでしょうか?」
特に断る理由は思い付かない。
理事長から指示されていた俺の評判回復にも好都合だろう。
むしろ断ったら、別の腹積もりがあるんじゃないかと思われるかも知れない。
「……他の役員の顔ぶれ次第だけど、前向きに考えておくよ」
ただこの場で確答するのも危険かと思って、セーフティーを掛けて答えた。
日和ったとも言う。
だって、やっぱり他の生徒たちの嫉妬が怖いから。
「はい、では他の候補の方が決まったら教えますね」
それでアリアさんは自分の席に戻り、昼休みの時間は平和に終わった。
昼休みは。
放課後。
ホームルームが終わり担任の先生も教室を出た後。
俺もボチボチ帰り支度をしていると。
「葛葉恭一!表に出ろ!」
……呼んだ覚えのない長岡が唐突に現れて俺を呼び出した。
「……はあ」
ため息一つ吐いた後、俺はカバンを手に持って長岡が待ち構えているドアの前に出た。
「何の用事だ?」
「お前、生徒会に入りたいと言って花京院さんを困らせてるそうじゃないか。花京院さんに近付くなって言っただろ?」
長岡はまるで犯罪者でも見る目付きで言う。
俺から入りたいと言った訳じゃないが、昼休みの話が噂となって尾ひれがついたみたいだな。
「それで?」
「生徒会役員に志願したのを取り下げろ。そうすれば何も言わない」
こいつは俺に対して何の権利があるんだろうな。
悪い奴が悪い事するのにはどう口出ししても良いって思ってるのか?
……いや、使えるか?
「じゃあ、代わりにお前が入るか?」
挑発する様に言うと、長岡は一瞬だけ目を見開いた。
「いいぜ、それでお前は手を引くんだな?」
「ああ、じゃそういう事で」
俺は教室に残って会話を聞いていたアリアさんにも聞こえる様に言って手を振り、そのまま長岡の横を通り過ぎで廊下を歩き出した。
「あっ、ちょっと待って葛葉くん!一緒に帰ろう!」
「ウチらも!」
伊藤さんたちが慌てて俺について来た。
今日は遊ぶ約束とかはしていないのだが、まあいいか。
「いいよ、どっか寄って行く?」
「じゃあ、いつもの所!」
「恭一くんの奢りでね」
そのまま流れで、いつも立ち寄って遊ぶアミューズメント施設に行く事に。
何か後ろで誰かが引っ叩かれた音が響いた後、俺が睨まれてる気配がしたが、気にしない事にした。
―――――――――――――――
知ってるかも知れませんがあえて解説を入れますと、
アリアはイチゴを人質に取って恭一に交際を迫った所為で、アリアに対する恭一の好感度は恋人としてはやばいくらい低くて、
恭一はあくまでも脅迫とイチゴのお願いがあるからアリアと付き合ってるだけです
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