第3話【裏・私の城に入り込んだ生ゴミ】
【Side.アリア】
夏休みが明けてまた毎日恭一さんと学校で会える様になりましたが、思ったより気持ちが晴れませんでした。
その理由は、恭一さんと堂々とイチャつく事が出来ないからです。
むしろ恭一さんが他の女子に言い寄られるのを見るしか出来ない始末。
本当は夏休みが明けてすぐにでもお付き合いを公表したいと思いましたが、おじい様から『この二学期で恭一さんが評判を回復するまで』と待ったを掛けられました。
私としては外野が私と恭一さんの関係を何と言おうと、小鳥の囀りにしか聞こえませんが、我が儘ばかり言っておじい様の不興を買い、それで恭一さんとの交際を反対されては元も子もありません。
なので仕方なく、こっそり教室を改造して設置した鏡で恭一さんを監視するのに留まりました。
恭一さんを見てると、いつもの三人に加えて新しい
彼女の名前は吉田亜美さん。
一学期では私の取り巻きをしていた平凡なクラスメイトでしたが、何の心変わりがあったのか見た目を変えて恭一さんにすり寄ってます。
恭一さんが女遊びするって噂を真に受けてのイメチェンでしょうか。
反吐が出るあざとさです。
見た目で恭一さんの気持ちが手に入るなら、私だってイチゴさんを裏切ったり、恭一さんに恨まれてまで脅したりしなかったのに。
イチゴさんはどうして平気で見ていられるのでしょう。
私は恭一さんが他の女子と仲良くしてる所を見る度に、胸が締め付けられる思いをしてるのに。
余裕なのでしょうか。それとも実は恭一さんの事をそれほど好きでもない?
どちらにしてもいずれ排除しますが。
心だろうが体だろうが、恭一さんと繋がりを持つのは私だけで十分です。
放課後。
イチゴさんの呼び出しを受けて、いつもの空き教室に。
この空き教室ですが、夏休みの内に学校の方々にお願いして施錠して貰い、鍵を私と恭一さん、イチゴさんが預かって三人の秘密空間にしてます。
空き教室でイチゴさんと挨拶と適当な雑談をしてから、イチゴさんが本題を切り出しました。
「アリアちゃん、
長岡修二……ええ、忘れてませんとも。
私と恭一さんのデートを台無しにした生ゴミですね。
おかげで用意してたデートプランが陽を見る事も無く霧散しそうになりましたから。
おじい様に事情を説明して予約を組み直す予算をお願いした時、おじい様に呆れられて恥もかきました。
腹いせに長岡家に賠償を請求したり、あの生ゴミを退学させようとしましたが、どちらもおじい様に止められて叶いませんでした。
「そういう事をする子に育って欲しくない」と言われましたけど、もう手遅れですのに。
おかげであの生ゴミはおめおめとこの学校を通い続けています。
今思い出しても腹立たしい……!
「ええ、もちろん知ってますよ。彼が長岡修二という事はイチゴさんから教えていただきましたね。彼が何か?」
「実は私もあいつに嫌な事されてね。仕返ししたいんだけど協力してくれない?」
なるほど。まさかよりにもよってあの生ゴミに乗り換えるのかと思えば、そっちでしたか。
私としてはまだイチゴさんを手放す訳には行きませんので、ある意味安心しました。
非常に業腹ですが、私が恭一さんを繋ぎ止める為にはまだイチゴさんの存在が必要ですから。
しかし仕返しですか。
私としてもあの生ゴミには仕返ししたい所ですが、イチゴさんの発案はあまり期待出来ません。
だって、勉強はともかくそれ以外でイチゴさんは頭が良く無さそうですから。
もし頭が良かったら、私が恭一さんを好きになったり、私に恭一さんを掠め取られる様な事にもならなかったでしょう。
そんなイチゴさんの計画に乗るなんて、泥船の乗る様な物です。
「すみませんが、あまり興味が湧きませんので」
「そう。……じゃあ仕方ないね」
イチゴさんはあっさりと引きました。
私の家の権力目当てかと思いましたが……それともそれほど仕返しに執着していないとか?
まあいいでしょう。おかげさまで忘れかけた恨みを思い出しました。
それからイチゴさんと少し雑談を交わし、その場は解散となりました。
そして玄関に向かう途中で。
「あっ、花京院さん!」
不躾な声に振り返ると、件の
「久しぶりだね。俺は忘れ物があって一回教室に戻ってたけど、花京院さんは生徒会の仕事だったのかな?」
聞いても無い事を勝手に言わないでくれますか?
「ええ、まあそんな所です」
「あれから葛葉にちょっかい掛けられなかった?」
………。
………。
……は?
急に湧いた殺意を抑えるのに少し時間が掛かりました。
何ですか?私と恭一さんを引き裂いた事を良い事したと自慢してそうなその間抜け面は。
焼き入れてやりましょうか?
「……おかげ様で、大丈夫です」
精一杯、社交辞令と皮肉を込めて答えてやりました。
「そうか。あいつと同じクラスだって聞いたけど、またあいつに困らされる様な事があったら相談してくれ!これ、俺の連絡先だから!」
生ゴミは自分の言いたい事だけ言って勝手に私の手を掴んでメモを押し付けました。
この場で捨ててやろうかと思った所。
偶然、目に入りました。
こちらを見る恭一さんの姿が。
恭一さんは一人ではなく
そしてその目に浮かんだのは安心と無関心。
捨てられる!
このまま恭一さんに私がこの生ゴミが仲良くなったと誤解されれば、恭一さんはおじい様にある事ない事報告して外堀を埋めて、私はそのまま生ゴミに押し付けられて捨てられてしまいます!
そして恭一さんは心置きなくイチゴさんに乗り換えて行くでしょう。
「あいつ、女侍らせていいご身分だよな」
何も知らないで恭一さんを悪し様に言うこの生ゴミの所為で!
連絡先のメモは……破り捨てようかと思いましたが取って置きましょう。何かの武器になるはずです。
「あ、花京院さんも帰るなら途中まで送るけど」
「結構です」
生ゴミが何か囀ってますが、私は無視して家の車が待ってる所まで向かいそのまま車に乗り込みました。
「ここまで送ってくれる相手が出来たとは、いよいよお嬢様にも春が到来したのでしょうかな?」
「はい?」
運転手さんの訳の分からない言葉に私は首を傾げました。
「おや、ここまで一緒に来た男子生徒がお嬢様のいい人では?」
運転手さんが窓の外を指します。
そこに目を向けると、何故か生ゴミがこちらに手を振っていました。
まさか……ここまで勝手に付いて来た?
それを見られて誤解された?
もしかして運転手さんだけで他の生徒にも?
これは非常にまずいです。
もしこの誤解がおじい様にまで伝わったら、おじい様が私を尻軽だと失望して恭一さんとも引き剝がされるかも知れません。
「運転手さん。アレはたたのタカリですので、誤解せぬ様にお願いします」
「え?タカ……ごほん、失礼しました」
運転手さんはそれ以上何も言わないまま車を出発させました。
その後ろ座席で、私はスマホを取り出します。
連絡すべき先は二つ……いや、三つ。
まずは恭一さんとおじい様に、生ゴミとは何でも無いと伝えて誤解しない様にします。
そして最後に……イチゴさん。
例の仕返しの誘い。乗らせていただきましょう。
仕返しは私だけで……と言いたい所ですが、またおじい様に止められるかも知れませんから。
彼女には矢面に立っていただきます。
楽には死なせませんよ?
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