第6話『裏・とある寝取られ?の裏側』

【Side.亜美】


 私、吉田よしだ亜美あみは葛葉恭一くんが好き。


 最初はただのクラスメイトで、かっこいいとは思うけど女性関係の悪い噂があったり、噂に違わずいつも女子とだけ仲良くしてたから、わざわざ近付こうとも思えない他人だった。


 それに私は同性でお姫様みたいな花京院アリアさんと仲良くなりたくて、葛葉くんの事は気にしてなかった。


 好きになったきっかけは体育祭の時。


 間の悪い事に一人でいる時に足を捻ってしまい、一人で保健室に向かってたら葛葉くんと出くわした。


「どうしたんだ、足を捻挫したのか?」


「だったら何?」


 私は先入観から葛葉くんを警戒して冷たく答えた。


「無理に歩くと悪化するぞ、保健室まで送ろう」


 断ったり抵抗する間も与えず、葛葉くんは私を保健室に連れて行ってくれた。


 それもお姫様抱っこで!


 こんな抱えられ方されたのは初めてだったし、葛葉くんの美形の顔が近くなってたから、顔が凄く熱くなった。


 保健室に着くと、保健の先生は別の用事があったのかいなくて、他の生徒とかもいなかった。


 つまりベッドのある部屋で葛葉くんと二人きり!


 葛葉くんって色んな女の子を食ってるって噂を聞いた事あるし、私もこのまま食べられちゃうのかな。


 これが私の初体験かー、どうせ逃げられないしそれなら優しくしてくれたらいいな……って思ってたら。


「先生がいないんじゃあ仕方ない。俺が手当するよ」


「えっと……はい」


 普通に捻挫した足を手当して貰いました。


 うん、正直肩透かしだった。


 でも勘違いでも意識してたからか、真面目の手当してくれる葛葉くんの顔がとても印象に残った。


 それからは毎日ついつい葛葉くんの事を目で追ってたけど、自分の気持ちがまだ分からなかった。


 分かったのがある日の放課後、他の男子から告白された時。

 そのに葛葉くんの顔が浮かび、好きだって自覚した。


 でも私は少し考えて、その男子の告白を受け入れた。


 本当に好きなのは葛葉くんだけど、葛葉くんは色々経験多そうだし、恋愛初心者な私を面倒くさがるのではないかと危惧して、練習台として告白を受けただけ。


 だから告白を受ける時も、「本当は好きな人が他にいるから、いつ別れを切り出されても文句言わないで欲しい」と言って相手の男子に了承して貰った。


「それまで俺に本気にさせてみせる」と意気込まれたが、まあ出来るのならやって見れば?って感じ。


 それでしばらく付き合って、夏休み中のデートでキスしそうになった時。


 ドアップになった彼氏の顔を見て、記憶の中の葛葉くんの顔と比べてしまって(あっ、無理だわ)と思い、キスを拒んでその場で別れも告げた。


 そしてもう他の男子で練習する気もなくなり、私はすぐイメチェンを決心した。


 まずは髪の毛を銀色に染め、肌も焼いて、メイクや服の着方も派手にして分かりやすく見た目を変えた。


 接客業のバイトも初めて、色んな人と軽い調子で話せるように内面も鍛えた。


 そしてやって来た二学期始業式の日。


 私は葛葉くんに近付いて彼の友達に収まり、自然に恭一くんと呼ぶ事にも成功した。


 でも意外な事に、恭一くんはいつも仲良くしてた三人とは普通の友達止まりみたい。


 本当に意外だったけど、それなら押して行けば落とせるチャンスが多いかもだし、真面目な分には付き合った後での浮気される心配も減るからいい。


 目下の所、ライバルは二人。


 一人目は一学期から恭一くんと仲良くしてた伊藤さん。


 一学期までは普通の友達か取り巻きみたいな感じだったけど、夏休みに何かあったのか明らかに恭一くんを意識してるのが丸分かり。


 二人目はこの学校のお姫様な花京院さん。


 思い返せば、花京院さんは前々から恭一くんに何度も声を掛けたりしてたし、今では普通に恭一くんを名前で呼んでいる。


 その時は花京院さんに近付く時間が減ると不満に思ってたけど、実はその時から恭一くんを意識していたと思うと、割と出遅れているのかも知れない。


 これは後から好きになったハンデだと割り切るしかないかな。


 幸いなのは花京院さんは本人の立場もあってか、女性関係に悪い噂のある恭一くんと堂々と仲良く出来ない。


 それならば放課後などでは私にチャンスが多いはず……と思ってたけど、生徒会役員として搔っ攫われてしまった。


 ちょっと囲い込みが露骨過ぎると思うんだけど、もしかして恭一くんと花京院さんって裏で付き合ってるとか……無いよね?


 本格的にチャレンジする前に失恋確定だったとか悲惨なんですけど。


 まあ、もし裏で付き合ってたとしても、堂々と出来ない所につけ込んで奪ってしまえばいいよね?


 いくら学校理事長の孫娘の花京院さんでも、流石に恋愛の恨みで私たちを退学させたりしないだろうし。


 まずは友達としてしっかり距離を詰めて行こう!


 ……って思ってた所。


「葛葉恭一!俺から寝取った亜美ちゃんを返せ!」


 昼休みに恭一くんたちと雑談していたら、夏休みに別れた元カレが恭一くんに因縁をつけて来た。


 名前は確か、田中たなか健太けんただったかな?


「俺が吉田さんを寝取った……?何の話だ?」


 恭一くんが困惑してる。……ごめんね?


「惚けるな!夏休みに急に振られたと思えばお前と仲良くしてたんだ。お前が裏で亜美ちゃんを口説いて俺を振らせて、ギャルっぽい感じでイメチェンさせたんだろ!」


 そういう風に受け取っちゃったかー


 でも田中?

 付き合う前に、いつ振られても文句言うなって約束してたし、付き合ってた時も名前呼びは許さなかったと覚えてるけど?


「……身に覚えがないが吉田さん、どうなんだ?」


 恭一くんがこっちに聞いて来たけど、これは私の事を面倒の種に見てるよ!


 田中め!人の恋路を邪魔して!


「ふん!あんたとは試しに付き合っただけよ!それで無いと思ったから振っただけ。そもそも最初から他に好きな人がいるって言ってたでしょ?あと名前で呼ばないで貰える?」


 恭一くんに嫌われそうになった腹いせか、ついキツい言葉で言ってしまった。


 それを聞いた田中の顔色が白くなる。


「そんな……、亜美ちゃんはそんな風に言う人じゃなかったのに!これも全部葛葉お前のせいだ!覚えてろ!」


 田中は捨て台詞を吐いて逃げ出した。


 そんな奴よりも私はすぐ恭一くんの機嫌を取りにかかる。


「迷惑掛けてごめんねみんな。あいつとは本当に試しに付き合ってみただけで、いつ振っても文句言わない様に約束してたから、こうして文句言って来るとは思わなかったんだ」


 と弁明したけど、やっぱり周りから白い目で見られた。


「……ふぅ。まあそういう事なら仕方ないか。でもあまりあいつの傷口に塩は塗るなよ?」


「うん、私もちょっと言い過ぎたって反省してる」


 恭一くんはそれ以上追及しなくて、田中の話は終わった。


 まあ、ネチネチ掘り返さないのはいいと思ってるけど、私が好きな人については聞かないのかな?


 興味がないのか、知ってて触れないのか、どっち?


 どっちだとしても、私に対する恭一くんの好感度が低そうだから悔しいけど。


 ここから逆転してやるんだから!




 と意気込んだ日の放課後。


 恭一くんは今日も生徒会に行ってて、私は伊藤さんたちと遊ぶ事もなく一人で帰る事に。


 あーあー。これからしょっちゅう恭一くんを生徒会に取られるのかな。


 いっそ私も時間を潰せる適当な文化部に入って、恭一くんを待てる様にするかなー


 そんな事考えて廊下を歩いていたら、また田中が現れた。


「亜美ちゃん、ちょっと話を聞いてくれ!」


 無視しようと思ってたけど恭一くんの言葉もあったし、仕方ないから相手しよう。


「ねえ、名前で呼ぶの止めてくれない?」


「いや、俺たち付き合ってたじゃないか」


「今は別れてるし、付き合ってた時だって名前で呼ばなかったでしょ?」


「それは、俺も反省したんだ。俺がもっと積極的に行くべきだったって」


「はあ?」


 何言ってんの?こいつ。


「だから亜美ちゃん!あんな奴放っておいて俺とやり直してくれ!」


 田中が私の両肩を掴んでキスを迫って来る。


「離してっ……!」


 ちょっ、抜け出せないんだけど!


 まさかこのまま私のファーストキス奪われるの?


 やだ!助けて恭一くん!


「そこまでにしろ」


 その時、田中の頭が急に遠ざかる。


 よく見ると、恭一くんが後ろから田中の制服の襟首を引っ張っていた。


 うそ、心の声でも届いたの?


「ぐっ、首が……!離せ!」


「まったく、通りがかりに見守っていれば何するんだか」


 恭一くんが手を離すと、田中は呼吸を整えながら恭一くんと向き合った。


「葛葉……!邪魔するな!」


「そう言われてもな、今のは強制わいせつだぞ?流石に見逃せない」


「そもそもお前がいなければ、俺は振られなかったし強引に迫る事もなかったんだ!」


「そうか。じゃあちょっとこっちで話そうか」


 恭一くんは田中を腕を掴んで引きずり出す。


 その途中に一回こっちを向いて、帰れっていうみたいに手を振った。


 また助けられた……!


 こんなの、好きになるしかないじゃん。


 でもライバルが多いし、花京院さんとかは強いんだよね。


 どうすれば勝てるの……?


「あの……」


「ん?」


 声を掛けられて振り向くと、クラスメイトで恭一くんと同じ生徒会役員でもある依藤さんがいた。


「吉田さん、だよね?もしかしてだけど、き…葛葉くんの事、好き?」


 ええええ、バレてるー!


 そんなに分かりやすかったの?


 そこから続く依藤さんの言葉が、私の心をさらに揺さぶった。


「よかったら……手伝ってあげようか?」



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