第7話『怨敵遭遇。Sideアリア】

【Side.恭一】


 皆でアリアさんの家に遊びに行った後のある日。


 俺はアリアさんの誘いで彼女とデートに出掛ける事になった。


 脅されて付き合ってる関係だけど、交際は交際だからな。


 イチゴの要望でもあるし、義理を果たして彼氏としての勤めるしかない。


 デートについてはアリアさんの牽制なのかイチゴとリナちゃんにも話が伝わっていて、


「じゃあ、楽しんで来てねー」


 と、イチゴは快く送り出し、


「えっと、二人の写真とか撮って送って貰ってもいいですか!?」


 と、リナちゃんは俺とアリアさんを芸能人扱いするみたいな要求をした。それくらい構わないから飲んだけど。


 デートプランは全部アリアさんが組んだらしくて、俺は体だけで行けばいいらしい。


 正直不安ではあったが、まさか行き過ぎた事はしないだろうと判断して素直に最低限の準備だけして待ち合わせ場所に向かった。


 待ち合わせ場所に着くと、アリアさんが先に到着していた。


 ……けど、アリアさんは黒いワンピースを来ていて顔も何処か仄暗く、その隣に黒光りする高級車が待機していたので、いつかみたいに彼女にナンパする勇者はいなかった。


「悪い、待たせたか?」


「いいえ、今来た所ですから」


 このセリフって普通逆じゃね?


 後、今来た所って嘘だろ、汗かいてるぞ。


「この車はアリアさんちの?」


「はい、私の家の車です」


「車の中でエアコンつけて待っててもよかったのに」


「それだと、恭一さんにすぐ見つけて貰えませんから」


 重くてちょっとコメントしづらい。


「熱中症には気を付けてくれよ?」


「心配してくれるんですか?嬉しいです」


 ……まさか心配される為に車の外で待った訳じゃないよな?


「おい、お前!彼女から離れろ!」


 その時、不意に横槍を入れられた。


 振り向くと、同年代に見える知らない男子がいた。


「彼女が迷惑してるだろ。ナンパはやめるんだ!」


 はい?


 ………。


 ………。


 ああ、なるほど。


 俺がアリアさんと話してるのをナンパだと誤解したんだな。


 予想外過ぎて理解するのに時間が掛かった。


 呆れ過ぎて言葉が見つからない。


 まあ、普通に待ち合わせだと言えばいいか。


「あの君、これは―」


「あっ、よく見るとお前、葛葉恭一じゃないか!お前にはリナの事で話があったんだ!ちょっと来い!」


 男子はこっちの言葉も聞かないまま俺を腕を掴んで引っ張り出した。


「あっ、あの!」


 横から見ていたアリアさんが止めようとしたけど。


「花京院さん!大丈夫、こいつには花京院さんに近付かない様に俺がよく言い聞かせるから!」


 男子はアリアさんの話を聞かないで自分の言いたい事だけ言ってそのまま俺を連れ去った。


 えええ、まさかの横槍でデートキャンセル?


 てか、俺とアリアさんの名前を知ってるって事は、同じ高校の生徒か?


 どう対応するか迷ってる内に連れ回され、人気のない路地裏で足を止めた。


「ここでいいか」


「話って何だ?」


 俺はデートを邪魔されて不機嫌……ではなくただ戸惑っている。


 アリアさんには悪いけど、これって不可抗力だと思うんだ。


 決してイチゴ以外の女子とのデートが無くなって喜んではいない。


「悪い事は言わない。リナを長岡家うちに帰せ」


「随分な物言いだな。君はリナちゃんの何だ?」


「リナを気安く呼ぶな!俺はリナの兄の長岡修二ながおか しゅうじだ!」


「長岡?ああ、なるほど」


 リナちゃんがウチに養子に来る前の家族か。


「お前、リナちゃんが何で葛葉家うちに来たのか分かってるのか?」


「養育費の事か?それなら金だけ出せばいいだろ!お前みたいな奴と一緒に居させられるか!」


 あ?その金って多分イチゴの金だぞ?


 イチゴから金だけむしり取ろうとか、死にたいのか?


 ……いや、落ち着こう。こいつは色々知らないから言ってるだけだ。


「……あのな。金だけ出せって、それがどれだけ不躾な言葉か分からないのか?そもそも金だけ渡したとして、それがちゃんとリナちゃんの養育費に使われるか分からないんだぞ?」


「俺の家族はそんな事しない!」


「お前はそう思うだろうけど、こっちは信じられないんだ。それにもう養子縁組をしたからには葛葉家にもリナちゃんに対する扶養の義務がある。金だけ渡して終わりって訳には行かない」


「金なら俺が働いて返す!お前らの出る幕なんてないんだよ!」


 お前らって、もしかしてウチの家族も指してんのか?


 長岡家の礼儀教育ってどうなってるんだ?


「まだ生徒に過ぎないお前の将来の経済力なんて期待出来ない。それに、根本的な所を間違えてるぞ。俺に言ってもどうにもならない。話を決めたのは親たちだからな」


 あとイチゴかな。言わないけど。


「それなら、お前の家を教えろ。俺がお前の両親と会って話をつける」


「断る。お前みたいな危なさそうな奴に家族を会わせたくない。どうしてもなら、自分の両親に言うんだな」


「ちっ、尻尾は出さないってのかよ。リナに手出したら殺すからな」


 尻尾ってこいつの頭の中ではリナちゃんの養子縁組の話がどう解釈されてるんだが。


 話はこれで終わりだと思い、俺は一人で路地裏を出ようとした。


 けど、何故か長岡が付いて来た。


「……何で付いて来るんだ?」


「お前がまた花京院さんにちょっかい掛けないか監視する為だ。あと、お前の家の場所も分かるかも知れないからな」


「前者はともかく、後者はストーカーだけど?一緒に交番行くか?」


「俺は悪い事なんてしてないから構わないが?」


 ダメだ。話が通じない。


 仕方ない、適当にぶらついて時間を潰しながら撒くか。


 さっきからスマホが通知でバイブしまくってるけど、多分アリアさんかな。


 しかし長岡の目の前で迂闊に出られない。


 アリアさんには悪いけど、デートはまた後日に仕切り直しかな。




【Side.アリア】


 ………


 ………


 ………は?


 信じられません。


 楽しみで楽しみにしていた恭一さんとのデートがまさか知りもしない他人の横槍で台無しにされただなんて。


 今日はホテルの講堂とレストランと個室に予約を取ってました。


 講堂では男性主役が昔から知り合っていたヒロインよりも新しく出会ったヒロインを選ぶエンディングになる三角関係の恋愛映画を一緒に見て、


 その後はレストランで映画の感想会をしながら食事をして、


 最後には個室で一日中イチャイチャする予定でしたのに……


 この予定を組むだけで百万近くは飛んだのですよ?


 後日仕切り直しするだけでもまたお金が掛かるのですよ?


 部屋が隣同士なイチゴさんと違って、私は恭一さんと会うのにも予定を合わせなければいけないんですよ?


 おじい様にお願いして何とかお金を出して貰ったのですよ?


 それが………は?


 あの生ゴミ……どうケジメ付けさせましょう。


 さっきから電話やレインで何度も恭一さんを呼び出しているのですが、反応がありません。


 あの生ゴミと取り込んでる最中でしょうか?


 私に近付けないと言ったのを考えると、最悪恭一さんを一日中監視して私に接触させない様にしてるかも知れません。

 だからスマホにも出られないのかも。


「……仕方ありませんね。出来れば頼りたくなかったのですが」


 私は歯嚙みしながら、スマホで連絡する先を恭一さんからイチゴさんに切り替えました。


 ライバルのイチゴさんに頼るのは業腹ですが、背に腹は代えられません。


 あの生ゴミはリナさんの名前を口に出しましたから、もしかするとイチゴさんやリナさんが知ってる相手かも知れません。


『……はい?きょーくんが連れ去られてデートキャンセル?スマホにも出ない?……リナちゃんの名前が出たの?それなら……』


 私の話を聞いたイチゴさんは、思い当たる相手に付いて教えてくれました。


 その名前は長岡修二。


 私たちと同じ高校に通う一年の同級生で、リナさんの前の家の義兄だそうです。


 さっそく学園に電話して職員に問い合わせるめいれいすると、すぐ長岡修二の顔写真を含むプロフィールが送られて来ました。


 この顔、間違いなくあの生ゴミです。


 まさかおじい様と私の学校にこんなゴミが紛れ込んでいたとは……


 身元さえ特定すればこっちの物です。


 今回の賠償や学校での立場など、色んな方向から徹底して追い詰めて、私と恭一さんのデートを邪魔したのを後悔させましょう。


 それと、恭一さんとのデートも諦めません。


 ホテルの予約も何とか変更して仕切り直しましょう。


 それに掛かる費用はあの生ゴミの家に請求するとしましてね。


―――――――――――――――

 最初は本当にデート話にしようとしたんですよ?

 でもちょっとアクセント加えたら……

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