第2話『俺に義妹が出来た件』
【Side.恭一】
突然だが、俺に義理の妹が出来た……らしい。
俺にも寝耳に水な話だが、実家の両親が決めた事だそうだ。
何でもその子の家が家計難で、余裕のある俺の家で引き取って育てる……事にしたらしい。
いっそ養育費だけ貸せば?とも思ったが、金のやり取りとなると後々面倒になるから、ハッキリ扶養の義務が発生する養子として引き取ったんだと。
ウチの何処に中学三年生にもなる子供一人をポンと増やす金があるのか怪しいが、多分イチゴが手を回したんじゃないかと疑っている。
イチゴが介入した理由は……まあ、アレだな。
俺の浮気相手にする為だとか、その辺りかも知れん。
もちろん俺としてはそんな気などさらさら無く、普通に兄妹として接するつもりだ。
で、その新しい義理の妹だが、俺たちが住むアパートの方が義妹が通う中学に近いという事で、夏休みの間にこっちに引っ越させて俺たちと交流する時間を増やすんだそうだ。
ちなみに同じアパートに新しい部屋を借りる訳じゃなく、イチゴの部屋をシェアする。
義理の兄妹となった俺の部屋じゃなくほぼ他人のイチゴの部屋なのはまあ、性別の問題もあるし、どっちの部屋も金出してるのはイチゴだから当然と言えば当然か。
時期はアリアさんが家族旅行に行った翌日。
夏休み宿題をしながら待っているとインターホンが鳴ったので、すぐに玄関ドアを開けた。
「はーい、どちらさま……」
ドアの外にはブラウスとスカートを着ている、天然パーマみたいにくねた髪を肩まで伸ばした女の子がいた。
その横には荷物が入れてるらしきキャリーバッグがある。
「あ、あの!あなたが葛葉恭一さんでしょうか?」
「そうだけど、君が俺の義理の妹になったという?」
「はいぃ!あたしは長岡……じゃなく葛葉理奈です!葛葉恭一さんの
リナちゃんは上半身ごと頭を下げて来た。
「ああ、よろしく。聞いてると思うけど、君が住む部屋はこの隣の俺の幼馴染の部屋だから。今から紹介するよ」
そしてすぐイチゴがいる隣の部屋のインターホンを鳴らした。
「はーい」
イチゴも俺と同じ様に待ってたのか、すぐドアを開いてラフな部屋着の姿で現れた。
「こんにちは、そちらがきょーくんの新しい妹ちゃん?」
「あ、はい!葛葉理奈です!よろしくお願いします!」
リナちゃんはさっき俺にしたのと同じく上半身ごと頭を下げた。
「うん、リナちゃんね。私は依藤苺。きょーくんの幼馴染で、彼女で、結婚の約束もしてるから私もお姉ちゃんって呼んでいいよ?」
「えっとそれは……」
イチゴの申し出に、リナちゃんは戸惑って素直に頷けなかった。
「うん、まあ、慣れたらね。これから一緒に住む訳だし。とりあえず入って荷物を置きなよ」
「はい、お邪魔します……」
リナちゃんはキャリーバックを引いて恐る恐るイチゴの部屋に入る。
これからは自分の部屋でもあるのにお邪魔も何も無いと思うのだが、まだ初日だしな。
「何か手伝う事とかあるか?」
「んにゃ。片付ける時に下着とか出す事もあるだろうから、大人しく待ってて」
そう言い残してイチゴは玄関ドアを閉めた。
いきなり蚊帳の外になったな。
これでは俺の妹じゃなくてイチゴの妹みないだけど……いいか、リナちゃんも思春期だろうし男の俺が構い過ぎるのも良くないだろう。
俺は部屋に戻ってやっていた夏休み宿題を区切りのいい所まで進めた。
一息ついて今から何をするか考えていると、スマホがバイブした。
手に取って見ると、イチゴからレインメッセージが来ていた。
『片付け終わり!今からファミレス行ってプチ歓迎会やるから、着替えて来て!』
リナちゃんの歓迎会か。断る理由も無いな。
『了解』
『あと、リナちゃんにきょーくんの電話番号とかレインID教えたけどいいよね?』
俺に事後承諾で教えたのには少し思う所があるが、イチゴもリナだから教えたんだろう。
『いいよ、これから兄妹だし』
『オッケー。じゃあ、はよ準備して来て』
チャットを終えて、俺はクローゼットを開けて余所行きの服に着替えた。
そして玄関廊下でイチゴ、リナちゃんと合流し、近場のファミレスに向かった。
「ファミレスに来るのって、物凄く久しぶりです」
皆で席に座り、リナちゃんは感動した顔で回りを見回した。
「そう言えば、前の家は家計が苦しかったって聞いたね。お小遣いも少なかった?」
リナの隣に座ってるイチゴが聞いた。
「はい、少しは貰ってたんですけど、こういう所に来るとあっという間に消えるくらいしか無くて、節約してて来れなかったんです」
「そうなんだ。まあ、だからきょーくんの所で引き取ったんだし、これからは小遣いたくさん貰って遊べる様になるよ」
それ多分、
いいけどよ。イチゴも妹分が出来て楽しそうだし。
「取りあえず注文しようか。ドリンクバーは基本として、ここは恭一お兄ちゃんが奢るから、好きなだけ注文していいよ?」
「えっ?いいんですか?」
リナちゃんが遠慮がちに俺の顔色を窺った。
「いいよ、君の歓迎会だから」
と言っても、実はイチゴから貰った金で払うんだけどな。
「えっと、それじゃ……」
リナちゃんは色々悩んでから、全体から中間くらいの値段のメニューを選んだ。
もう少し高めのメニューを気にしてたのが見て取れたけど、まあまだ遠慮がある時期か。
それから俺とイチゴもそれぞれメニューを選んだ。
選んだのは、リナちゃんが気にしてたメニューを別々に二つ。
指し示したりはしなかったが、長い付き合いだしこれくらいはツーカーなんだよ。
「あっ」
リナちゃんも俺たちの意図に気付いて声を漏らした。
「リナちゃん、これとこれ、気になってたんでしょ?三人で分け合って食べよ」
イチゴが笑って提案した。
流石に異性の俺からは言い出せないからな。
「はい!ありがとうございます!」
リナちゃんは可愛らしい笑顔で答えた。
食事を終えた後は、リナちゃんの服が少ないという事で新しい服を買いに行った。
これにはマジで疲れたから詳細を割愛させていただく。
服だけならともかく、下着まで買いに行くのは何故なんだ。
男の俺もいたんだぞ?
しかも支払いは全部俺に押し付けて来るから逃げられないし。
下着の店まで連れて来られた所為でリナちゃんも真っ赤になって気まずくなるし。
支払い使うカード、イチゴお前が俺に預けた物なんですけど。
イチゴがすればいいと思うのに、なんで俺に支払いを押し付けるのか分からないが、仕方なく全部俺が支払った。
……イチゴの金でな!
とにかくそんな訳で疲れた。
アパートに戻った後は一回それぞれ部屋に解散してから、部屋着に着替え終わった後にイチゴに部屋で再集合した。
「あの、恭一兄さん、イチゴ姉さん、今日はファミレスとか服とか、色々ありがとうございました」
今日新しく買ったキャミソールとショートパンツを着たリナちゃんが、俺たちに頭を下げて礼を言った。
恭一兄さんにイチゴ姉さんか。それなりに心を開いたのかな?
物で釣ったみたいでちょっとアレだけど……
まあ、人付き合いの入り口なんてこんなもんだろう。
「いいって、今日から兄妹になる記念日だしな」
「そうだよー、流石に毎日は無理だけど、これから外食も買い物も普通にするんだから」
これから普通にある事、と聞いてリナちゃんが目を丸くした。
「えっと、その……ありがとうございます」
そして気の利いた言葉が思い浮かばなかったのか、もう一度お礼を言った。
まだぎこちないけど、この調子なら少しずつ仲良くなれるだろう。
………兄妹としての線引きはちゃんと守るけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます