第14話『学園のお姫様の初めての友達』

 私の名前は花京院かきょういんアリアです。


 資産家の家で生まれ、日本人の父とヨーロッパ系の母のハーフという珍しい生い立ちで、そのおかげで今まで容姿にも環境にも恵まれて育ちました。


 しかしその所為か、私には気の置けない友達と言える相手がいませんでした。


 同年代の子たちと交流が無かった訳ではありませんが、私に近付く人は大抵が私の容姿か、家のおこぼれ目当てな人ばかりでした。


 全員そういう人ばかりでもありませんでしたが、逆に遠慮し過ぎて距離を置かれる事もありました。


 結局は私が処世術を覚え、下心を持って近付く相手でも無難に相手する様になりました。


 しかしこのままでは対等な友達と呼べる相手が出来ませんが、既に恵まれた家庭で生まれたのに友達まで欲しがるのは欲張り過ぎたと思い、諦めかけていた所。


 高校に進学する時に変化が訪れました。


 私立悠翔ゆうしょう高校。


 私が生まれたのをきっかけに、おじい様が私を通わせる為に建てていただいた学校です。


 それ故に試験を受けなくても入れると言われましたが、私は祖父の七光りと後ろ指さされておじい様の顔に泥を塗りたくない一心で必死に勉強し、主席の座を取りました。


 所が私と同点で共同主席の人が現れたのです。


 その人は依藤イチゴさん。


 三つ編みの髪に丸眼鏡をかけて、地味ですが勉強が得意そうだと言われれば同意しそうな見た目の人でした。


 悠翔高校の校長先生は私と依藤さんを呼び、新入生代表挨拶をどうするか尋ねられました。


 二人で一緒に挨拶しても良し、どちらかが辞退して一人だけで挨拶しても良いと。


「あー、私、目立つのは嫌なので辞退しますね」


 相談するまでもなく依藤さんが辞退する事で、挨拶するのは私に決まりました。


 この時の私は考えなしにその言葉を間に受けてました。


「あの子、理事長の孫娘だって」


「ええー、本当?じゃああそこで挨拶するのも孫娘だから?」


 でも実際に壇上に立って新入生代表挨拶をすると、やはり祖父の七光りと蔑む目で見る人がいました。


 この時私は、結局必死に勉強しても努力が認められない事に失意して、自分はもう十分色んな物に恵まれてるに、無意識に依藤さんを威圧して彼女が晴れ場に立つ機会まで奪ったんだと、自分が恥ずかしくなりました。


 高校生一年目の新しいクラスには依藤さんも一緒でした。


 ただ社交性が低いのか、彼女はあっという間に孤立してしまいました。


 何か手助けできればと思いましたけど、下手に私から接近すると周りのやっかみを買って彼女がさらに追い詰められるかも知れないので、見守る事しか出来ません。


 私の見た目や肩書に惹かれて声を掛けてくるクラスメイトが多く、私は彼ら彼女らを普通に相手しました。


 私が望む友達とは違いますが、割り切って接すれば気のいい人たちです。


 ついでに、他に目につくクラスメイトを挙げるなら、葛葉恭一さんがいます。


 見た目はクラス所か学校全体でも類を見ないくらい容姿端整な人ですが、常にクラスメイトの女子に囲まれてヘラヘラしていて、女性関係でもあまりいい噂を聞きません。


 大方、生まれ持った顔を使って女性を好きにとっかえひっかえしながら好きに生きていたのでしょう。


 はっきり言って葛葉さんは近付きたく無い人種です。


 幸い向こうも自分の周りの女子するのに夢中でこちらに近付く気配が無いので、このままの距離感でいたいものです。


 ただ、不純異性交遊の不祥事を起こしておじい様の学校の名前に泥を塗るのならその限りでもありませんが。




 高校生活が始まって一か月くらいになった時。


『相談したい事があります。よろしければ放課後にクラス教室の下の階の隅の空き教室へ来て下さい。

 依藤苺』


 自分の机でこの様な手紙を見つけました。


 前々から依藤さんの力になりたいと思ってたので、私は否もなく空き教室に向かい依藤さんと会いました。


「花京院さん、来てくれてありがとう。それと入学式の時は挨拶を押し付けてごめんなさい」


「いいえ、私こそ、理事長の孫という肩書きで気後れさせて晴れ場を奪ってしまい申し訳ありません」


 依藤さんは挨拶してすぐ、新入生代表挨拶を押し付けたと謝りましたが、謝りたいのはむしろこちらの方だったので、お相子という事になりました。


 私に気後れして遠慮したり、逆に媚びを売る人ばかりだったのに対して、堂々と頼ってくれる人は珍しくて好感が持てました。


 多分入学試験で成績が並んだ事での親近感もあったのでしょう。


「実は私、同じクラスの葛葉恭一くんとは小学、中学も一緒で、中学から好きになってたんだ」


 しかし依藤さんの相談は、よりによってあの葛葉さんと付き合いたいという事でした。


 私は噂を元にすぐ反対しましたが、依藤さんに反論されました。


「確かに葛葉くんは人気あるけど、節度無く女の子と遊ぶような人じゃないよ。実際、彼女がいた時はそんな事全然しなかったし。

 それにフリーな今でも付き合っていない子とはキスとかその先の事も全然して無いって聞くから、実は凄く誠実な人なんだよ?」


 小学校から一緒だという事もあって、彼を良く見ていた様です。


 ただ、依藤さんが葛葉さんの外面に騙された可能性も否定出来ません。


「依藤さん。少し待って頂けますか?あなたの言葉を疑う訳ではありませんが……あなたの認識に誤解があるか心配なんです。しばらく私が葛葉さんの人となりについて調べますので」


「……うん、分かった。ごめんね、こんな事お願いして……」


 私は依藤さんに待って欲しいとお願いし、すぐ行動に出ました。




 まずは依藤さんや葛葉さんと同じ中学の人を探し出して、葛葉さんについて尋ねました。


「葛葉?ああ、確かに色んな女子と遊んでたけど」


「では彼に恋人がいた時はそうでもなかったというのは本当ですか?」


「うん?……言われて見れば確かにそうかも」


 私は信じられない思いで、直接見極めようと自分でもこじつけな理由で葛葉さんを生徒会の手伝いに駆り出しました。


 私は祖父の事もあって特例で入学してすぐ生徒会役員になっていて、葛葉さんは女子の他薦でクラス委員になってたので、その関係を使いました。


 これで仕事そっちのけで私を口説く様な事をすれば、それを持って依藤さんに彼を本性を話して説得するつもりでしたが。


「これって、クラス委員の仕事ではないと思うんだけどなー」


 意外な事に葛葉さんは文句を言いながらも真面目に仕事に取り組み、私を口説く様な事もしませんでした。


 もしかして普段一緒にいるあの三人の内誰かと交際していうのかと思い、直接尋ねて見ました。


「私たちの誰から葛葉くんと付き合ってる?」


「ウチは違うけど、もしかして二人はそうだったりする?」


「私も違う。むしろ手出しして来ないから肩透かしな感じ」


「私も。……格好いいし、優しいし、色々助けて貰ったから、仲良くしたいと思うけど」


 しかし三人の誰とも男女の仲にはなっていないと言われました。


 おかしい、そんなはずでは……


 そこまで考えて、私は気付きました。


 外付けのレッテルだけで人の内面まで決めつけようとしてる事は、私にすり寄って来る人たちと変わらないと気付いたのです。


 私は自分が恥ずかしくなりました。


「ごめんなさい、依藤さん。私が間違った先入観を持ってました。彼は確かに噂と違って誠実な人でした」


 依藤さんに謝ると、依藤さんは快く私を許してくれました。


 それから私は依藤さんを助けるため、葛葉さんを仕事に駆り出しながら雑談にかこつけて、好きな食べ物や趣味、さらには好きな女性のタイプを聞きました。


 葛葉さんが好きな食べ物はから揚げ、趣味はドラマとネット動画視聴、好きな女性のタイプは尽くしてくれる人だそうです。


 それらを依藤さんに伝えると、とても喜んでくれて、から揚げを美味しく作る練習や、流行りのドラマなどをチェックすると意気込みました。


 ついでに私も少し興味が出たので流行りのドラマをチェックし始め、おかげでクラスの友人や依藤さんとの会話で話題の幅が広がりました。


 そして依藤さんが自信を持ったという事で、葛葉さんに依藤さんを紹介しました。


 それから私は度々依藤さんと葛葉さんと一緒に遊びに出掛ける事になりました。


 本来はまだ二人きりはぎこちない依藤さんと葛葉さんのために、二人の間を保つ緩衝材となるつもりでした。


 でも二人は礼儀を守りつつも私に遠慮したりする事がなかったので居心地が良かったです。


「ねえ、これって葛葉くんに似合ってると思わない?」


「さあ?取りあえず付けて見てはどうですか?」


 三人で遊びに出掛けて雑貨屋を回る途中、依藤さんがふと目についたアクセサリーを葛葉さんに押し付け、私も面白半分で乗りかかりました。


「やめろ、それって虫の付け触角じゃねえか。せめて動物の付け耳にしろ」


 すると葛葉さんは露骨に嫌そうにしながら付け触角を押し返します。


 これが他に人でしたら、私の顔色を窺って作り笑いしながら受け取ってたのでしょう。


 私はこの関係が本当の友情と友達なのだと思いました。


 二人と一緒にいると、平坦だった日常がとても輝いてる様に思えました。


 このままずっと、三人で仲良くいたいと思いました。



―――――――――――――――

 この視点って要る?と自分でも不安でしたが、アリアがどんな感じでイチゴの悪意に嵌っていったのかを作者自分で裏付けしたり、読者さんに見て欲しかったです

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