第13話【裏・学園のお姫様は泥棒猫(笑)・後】

 きょーくんに不意打ちのキスと告白をしたアリアちゃんは、返事される前に逃げ出した。


 まあ、返事を迫ったら振られるのがアリアちゃんも分かってただろうから仕方ないかもね。


 だったら最初からキスも告白もするなって話だが、今のアリアちゃんは恋に恋する乙女。理屈は通用しない。


「きょーくん、階段を転んだんだって?怪我は大丈夫?」


 流石に階段を転んだのは本気で心配になったので、私は素知らぬ顔できょーくんの前に現れ、きょーくんを保健室に連れて行った。


 そのまま保健の先生にきょーくんの手当をして貰って、二人一緒に帰る。


「ねえ、アリアちゃんの告白はどうするの?」


 私の問いに、きょーくんが足を止めた。


 何故私がアリアちゃんの告白を知ってるのかは、きょーくんも知ってる。


 昔きょーくんに浮気デートをして欲しいとお願いした時、より臨場感が欲しくてスマホに位置情報共有や盗聴のアプリを入れさせて貰ったから。私謹製の奴を。


「もちろん、断るさ。二股になってしまうからな」


「私は大丈夫だよ?」


「俺もアリアさんもいい顔出来ないだろ、不義理過ぎる」


 不義理ねー、そこがいいのに。


「というか、何で俺を好きになったんだろうな。最初は警戒されてたと覚えてるのに」


「それはもちろん、きょーくんがかっこいいからに決まってるよ」


 きょーくんの顔は私が仕上げた極上の甘いマスクで出来ているし、そんなイケメンフェイスなきょーくんと親密に接していれは普通に一度や二度は勘違いして好きになるよね?


 再びきょーくんと並んで歩きながら、話を続ける。


 私はアリアちゃんを拒むきょーくんを言葉巧にそそのかした。


 このまま振られたらアリアちゃんが可哀想~


 多分あの子の初恋なのに~


 私が後押ししたんだよ?


 きょーくんのご褒美になればいいと思って。


 本当に全部、いや半分はきょーくんの為だよ?


 残り半分は私の為だけど、二人合わせて全部だからいいと思う。


 それだけでは足りなかったので、脅しも使ってきょーくんを追い詰める。


 もし私がアリアちゃんに真実を全部打ち明けたら、アリアちゃんは傷付くだろうな~


 アリアちゃんは引き籠りになって~


 アリアちゃんのおじいさんが怒って私たちは退学になって~


 でも上手く騙していれば何も問題ないんだよ?


「きょーくん。世の中、知らないまま騙されているのが幸せな事もあると思わない?少しだけ、アリアちゃんと付き合っていい思い出を残してあげてもいいんじゃない?」


 悪魔になった気分で、きょーくんに囁き掛ける。


「二股なら私は許すし、アリアちゃんが私たちの事に気付かない内に適当な理由でアリアちゃんとの交際を円満解消しても良くない?」


 私の提案した穏便に済ませられる選択を聞いて、きょーくんが迷うのが見て取れた。


「……考えておくよ」


 きょーくんは肯定こそしなかったが、否定もしなかった。


 後はアリアちゃん次第かな。


 どうなるか楽しみ。




 次の日の放課後。いつもの空き教室で。


「ごめんなさい、イチゴさん。私、恭一さんとお付き合いする事になりました」


 きょーくんとアリアちゃんが二人して私に交際報告をして来た。


 やったー!ついにきょーくんとアリアちゃんがくっついたー!


 こほん。


「えっ、きょーくんとアリアちゃんが?……どうして?」


 と、気持ちとは裏腹にショックを受けた振りをする。


「実は昼休みの時、恭一さんとイチゴさんについてお話してたら、恭一さんから告白されまして、その、イチゴさんには悪いと分かってましたけど、私も嫌じゃありませんでしので……」


 はい嘘ですねー


 アリアちゃんの方から告白して脅して堕としたのを知ってまーす。


 でも一芝居打とうか。


「ひどい……、私を裏切ったんだ!うわあああああああん!」


 私は裏切られてショックを受けた目をアリアちゃんを睨み、泣き真似をしながら学校から逃げ出した。


 自分の演技力が恐ろしい……!


 それから私は学校でいつもより陰気な空気を晒しながら、きょーくんとアリアちゃんを避けた。


 時々恨めしくアリアちゃんを睨むのも忘れない。


 そうすると気まずそうに目をそらすアリアちゃんがかわいい。


 学校ではまだきょーくんとアリアちゃんが付き合ってるのは知られていない。


 きょーくんの評判はまだギリ悪いままだから、付き合ってるのが知られるとアリアちゃんにも被害が及ぶから伏せて置こう……と私がきょーくんに吹き込んでおいたのだ。


 そんでアリアちゃんもきょーくんの意見を聞き入れて秘密にしてる。


 ただ、嫉妬深くなったアリアちゃんが、クラスでもきょーくんを名前で呼び、あまり他の女子と話せない様に牽制してるから、バレるもの時間の問題だろう。




「イチゴさん、少し話を聞いて下さい」


 数日経った昼休み。


 適当に校舎を歩いていると、アリアちゃんに腕を捕まれてしまった。


「……いいよ」


 私は敵わないふりをしながら話を聞いた。


 話、と言ってもアリアちゃんの謝罪だけれど。


「ごめんなさい、イチゴさん。あなたを裏切ってしまいました。あなたが昔から恭一さんをお慕いしてたのを知って応援してたのに。でも恭一さんに告白されて、私の気持ちも揺らいでしまって……」


 うん、謝る時に嘘を混ぜるのは良くないと思うよ?


 許すけど。


 私が仕組んだ物だから。


 アリアちゃんもワルになったねー(ニヤニヤ)


「アリアちゃんは……、本気できょーくんの事が好きなの?私を裏切るくらいに?」


「好きです!どんな事でも出来るくらいに!」


 私を人質にきょーくんを脅せるくらいに、かな?


「……仕方ないな、……アリアちゃんも大事な友達だからね」


 私は笑いながら涙を流す。


「じゃあ、少しだけお願いしてもいい?」


「イチゴさんのお願いなら」


「今までみたいに三人で遊んでくれる?」


「はい、イチゴさんも大事な友達ですから!」


 なら取るな、いや取っていいけど。


「私がこれからもきょーくんって呼んでも起こらない?」


「大丈夫です、イチゴさんと恭一さんは友達ですから」


 なら取るな(Take2)


「きょーくんとアリアちゃんがどんな風に付き合ってるのかレインで聞かせて貰ってもいい?自分に置き換えて想像したいの」


「それで気が紛れるなら」


 やったー、これできょーくんとアリアちゃん、両方のイチャイチャの感想を聞けるよ!


「最後に……」


 要求がちょっと多いと自分でも思う。でも本当に最後だから。


 私はアリアちゃんを抱き寄せて、耳元で呟く。


「忘れないでね?アリアちゃんが私からきょーくんを奪った事を。




 ……私も忘れないから」


 きょーくんは貸してあげてるだけだって。

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