第10話『友達だと思ってたのに……・前』
次の週末、また俺&イチゴ+アリアさんの三人で出掛ける事にした。
目的は最近上映開始した恋愛映画。
如何にも狙ったチョイスだけど、アリアさん、今度こそ気を利かせてくれますよね?
どうして待ち合わせ五分前になってもドタキャンの連絡が無いんですか?
心配しながら待ち合わせ場所に向かうと、そのアリアさんが知らない男と揉めていた。
「やめて下さい!人を呼びますよ!」
「いいじゃないか、ちょっとお茶するだけだって」
なんつぅ、テンプレな……
男が強引にアリアさんの腕を掴むと、アリアさんは露骨に嫌そうな顔で叫ぶ。
「誰か!助けて下さい!!!」
「呼んだか?」
無視する訳にも行かないので、アリアさんに駆け寄って男の腕を引き剥がした。
「あ?誰だテメー、今取り込み中だから―いててててて」
ついでに握ったままの男の手首を思いっ切り捻ってやった。
「この子は俺の友達なんで、ナンパは遠慮してくれるか?」
「わ、分かった!分かったから離してくれ!」
「本当に?離してから手の平返すと、今度は首を捻るぞ?」
威圧の意味も込めて、さらに強く捻る。
同時に空いた反対側の手で男の首を撫でた。
「ああああっ!しない!そんな事しないから早く!」
「………そろそろいいか」
たっぷりと間を置いてから、男の手首を離してやった。
「くそっ、覚えてろよ!」
解放された男は捨て台詞を吐いて逃げ出した。
捨て台詞までテンプレかよ。
「あの……ありがとうございます」
声が聞こえて振り返ると、アリアさんがいた。
心なし……所ではなく分かりやすく顔が赤くなってる。
これは放置したらまずいな。
「勘違いしないでくれ。友達だから助けただけだから」
って台詞!完全にツンデレ!
紛れもない本音なのに何でこうなる!
「ええ、分かってます」
分かってない!その笑顔は分かってない!
早く告白してくれ、イチゴ!
「ごめん、お待たせー!ちょっと気合入れたら遅れちゃった!」
その時まるで狙っていたかの様にイチゴが現れた。
振り返ってイチゴを見ると、確かに気合を入れていた。
かわいい私服はもちろん、普段三つ編みの髪はストレートに下ろしてて、丸眼鏡もコンタクトに変え、化粧をしたのか顔立ちも綺麗になってた。
何度か見た事ある、イチゴが気合を入れたスタイルだ。
普段は地味だとか言われてるけど、イチゴは磨けば光るのだ。
前に普段からそうしていれば、周りに侮られずに俺と付き合ってると言えるんじゃないか?って聞いた事もあるけど、
『毎日化粧とかコンタクトとか面倒だし、しなくてもきょーくんが見てくれるから十分だよ』
と言われた。
つまりイチゴの気合入れたスタイルはレアなのだ。
これは今日告白あるか?と期待してしまう。
「綺麗だな。似合ってるよ」
「そう?へへ、ありがとう」
照れてるイチゴも可愛いなー
最近お互い慣れ過ぎて褒める事も無くなったから、割と新鮮だ。
そしてアリアさんも何か言うのかと思って様子を窺うと、アリアさんは顔色が白くなっててぼーっとイチゴを見つめていた。
「ん?どうしたのアリアちゃん。私の恰好に何かおかしな所でもある?」
「いっ、いえ、その……綺麗だと思います」
アリアさんが絞り出す様に言った直後、彼女のポケットのスマホから出てるらしきメロディーが聞こえた。
彼女はスマホを取り出して音を落とし、画面を見て表情が暗くなった。
「どうしたの?アラームみたいだけど、もしかして何か予定でもあった?」
イチゴが探る様に聞いた。
「いえ、その……」
アリアさんは迷う素振りを見せたが、やがて意を決めた様だ。
「ごめんなさい。今日はおじい様との会食があったのを忘れてました。私は抜けますので、映画はお二人で楽しんで下さい」
「そっか、残念だけど仕方ないねー」
「そうだな。まあ、また今度別の映画を一緒に見れればいいさ」
最初からこうする筋書き通りだったろうと察したが、自分でも白々しい言葉が出た。
そのままアリアさんと別れ、俺はイチゴと二人でデートを楽しんだ。
久しぶりの二人きりのデートは楽しかった、が気になる事があった。
「……なあ、催促して悪いけど、告白はまだなのか?」
帰り道でまだイチゴから告白して来る気配が無かったので催促してしまった。
「もう少しかなー、仕込みもしたいし遅くても来週までにはするから、もうちょっと待っててね」
「ああ、待ってるよ」
何かが手遅れになる前に。
月曜日の放課後に帰り支度をしていると、またもアリアさんが声を掛けて来た。
「恭一さん、会長が恭一さんを呼んでいまして。一緒に来ていただけますか?」
「……分かった」
アリアさん個人のお願いなら断ろうとしてたが、生徒会長が呼んだのなら仕方ない。
ただ、イチゴは余計な事するなと釘を刺したけど、流石に少しはこっちも動いた方がいいよな?
「なあ、アリアさん」
廊下を歩く途中、俺はアリアさんに声を掛けた。
「はい?」
「実は俺、イチゴの事が気になってるんだ。それで周りやイチゴに誤解されたく無いから、この後からは手伝いとかあまり誘わないでくれると助かる」
アリアさんの気持ちをハッキリ聞いた訳じゃないので、言葉を選んで予防線を張った。
「……そうですか」
アリアさんはイエスとも、ノーとも言わない。
でも言うべき事は言ったから、これからはもう少し堂々と誘いを突っぱねてもいいだろう。
そんな事を考えながら階段を昇る途中、突然アリアさんが足を滑らせた。
「きゃっ!」
「あっ、ちいっ!」
俺は反射的にアリアさんの腕を掴んで引き寄せたが、それでこっちまで姿勢が崩れたのでそのままアリアさんを抱きかかえる様にして彼女を庇い階段の上を転ぶ。
最終的には俺がアリアさんの下敷きになる形で廊下に放り出された。
「いってぇ。アリアさん、大丈夫か?」
「はい、おかげ様で。庇って下さってありがとうございます」
「気にするな。アリアさんに怪我されると俺も困る」
アリアさんの家族に逆恨みされるのが怖いからな。
所でこの状況。
俺がアリアさんの下敷きになってるという事は、アリアさんが退いてくれないと俺も起き上がれないんだが。
いつまで経ってもアリアさんが退く気配が無い。
「あの、アリアさん?そろそろ退いて―」
待ってられなくてお願いしようとすると、
突然、アリアさんが俺を覆い被さった体勢のまま、頭を落として俺の唇に彼女の唇が重ねられた。
それは紛れも無いマウストゥーマウスのキスで、
してやられた。
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