第9話【裏・学園のお姫様はお友達(笑)・後】

 週末明けの平日、いつもの空き教室。


「アリアちゃん、私の邪魔をするの?裏切ったの?」


 私は恋に盲目な女の子の振りをしてアリアちゃんを責め立てた。


 本当は全然怒ってないんだけどね。むしろ思惑通りでランランな気分。


「ごめんなさい、本当に気になっただけです。お二人を邪魔するつもりはありませんでした」


 アリアちゃんは本当に申し訳なさそうに頭を下げる。


「……分かった、信じるよ」


 見つけて誘うように仕向けたのは私だったしね。


「でも、次はちゃんと手伝ってね?」


「はい、もちろん次はちゃんと恭一さんとイチゴさんのデートをお手伝いします」


 まあ、私が結構デカい態度で何度もアリアちゃんに手伝いを求めてる私に対して、(もう自分だけで誘えば?)という意見はアリアちゃんから出て来ない。


 アリアちゃんの中では、私がアリアちゃんに依存してきょーくんと接近するのが当たり前になっているからだ。


 そして私ときょーくんにアリアちゃんの三人で遊ぶのも当たり前になっていて、その関係が変わるのを恐れている。


 そんなアリアちゃんの胸の内が、手に取る様に分かる。


 そこからどうすればどう変化するかも。


 アリアちゃんは今揺れている。


 今まで私の恋路を手助けして出来た友情と、その輪の中からハブられそうな寂しさに。


 そしてその寂しさをきょーくんに絆された気の迷いと勘違いしそうになっている事も。


 だってきょーくんはかっこいいから、仲良くしていれば一度や二度は勘違いするよね?


 後はその天秤を揺さぶるだけ。


 アリアちゃんは生まれた環境もいいし、入学試験で私と共同首席になったくらいには頭がいい方だ。


 だけど、裕福な環境で育った事で得る方の変化は喜んで受け入れられるけど、失う方の変化は受け入れるのが辛い、結局の所は普通の人。


 アリアちゃんはそれを自覚出来ないから、失うのを嫌う理由を勘違いして自分の中で本当にするの。




 次の日。

 昼休みに生徒会室に立ち寄ったアリアちゃんが、五限開始ギリギリな時間になって走って戻って来た。


「……失礼しました」


 アリアちゃんは澄ました顔で席に着いたけど、普段しない彼女の行動に誰もが驚いた。


 その理由は分かっている。


 アリアちゃんは生徒会の仕事で失敗して、データ作成で数値の記入を間違え、過去のデータも総当たりでチェックしなければならなくなったのだ。


 昼休みが終わるギリギリまで粘ってから走って来たのだろう。


 何故知ってるかと言うと、実はこれは私の仕業なのだ。


 そもそもアリアちゃんはミスしていない。


 私がこっそり生徒会のPCをハッキングしてデータをこっそりいじっただけ。


 でも誤記入くらいありがちなミスだから、ハッキングはすぐ疑われたりしない。


 ここでアリアちゃんにさらなるバッドニュース。


 データチェックくらい居残って時間を掛ければ一日で終わるけど、今日アリアちゃんは抜けられない習い事の発表会があるのでした。


 生徒会と習い事。どっちを取っても取らなかった方の所為で面子が崩れそうな状況。


 アリアちゃんにとっては高校生活初めてのピンチ。


 ここで颯爽ときょーくんが……って他人事みたいな顔してるし。


 好感度稼ぐチャンスなんだよ?


 仕方なく私はきょーくんにメッセージを送った。


『アリアちゃん、生徒会の仕事でミスが見つかったみたい

 時間を掛ければケア出来るけど、明日の会議までに修正しなければいけなくて

 なのに今日は習い事の発表会もあるから時間が厳しいみたい

 きょーくんが手伝ってあげて』


 メッセージを見たきょーくんは私のお願いしじ通りに生徒会室に向かい、手伝いを申し出た。


 アリアちゃんは最初は断ったけど、何度か仕事を手伝った事もあり、きょーくんに頭を下げるだけで全ての面子が保つ楽な選択肢で出た事で、結局そっちに流された。


 そして発表会が終わってすぐ学校に戻ると、ヘロヘロになりながら仕事を終えたきょーくんが迎える。


 普段から憎からず、むしろ友達として好感を持っててちょっと執着もしていたきょーくんにピンチの所を助けられたのだ。


 アリアちゃんの中で前々からあった気の迷いが、きょーくんへの恩義と融けて蕩けて、あまーい恋心になるのでしたーパチパチ。




 それからアリアちゃんは変わった。


 授業の時間では先生の話も聞かないできょーくんの事ばかり盗み見してるし。


「花京院さん?よそ見してないでこの問題を……」


(ギロッ)


「ごめんなさい。では山崎さんが……」


 こんな感じでたまにそれに気付いた先生が遠回しに注意しようとすると圧のある目で黙らせた。


「恭一さん、少しいいですか?委員会の事で……」


 休み時間ではきょーくんが信号娘とか他の女子と雑談して盛り上がりそうになると、どうでもいい用事で水を差す。


「恭一さん、今日も生徒会の手伝いを……」


「いや、悪い。今日は伊藤さんたちと遊ぶ約束を先にしてたから」


「………」


 さらには放課後の遊ぶ予定まで邪魔して無言で忖度まで求めた。


 アリアちゃん、これはもう完全に牽制に入ってますねー


「ごめんね花京院さん。久しぶりに葛葉くんと遊びに行くんだから、今回は譲れないの」


 流石に邪魔した回数が多すぎて、今回は信号娘も忖度を断ったけど。


 でも今の所、私ときょーくんの進展を面と向かって邪魔はしていない。


 なんてたって、私が先にきょーくんが好きだとアリアちゃんに言って、アリアちゃんは私を応援すると言った後から好きになったんだから。


 露骨に手の平は回せないのだろう。


 でも友情と恋心の間でブレてるのが丸わかり~


 どっちを取るんですか~?ってもう頷いて虎視眈々と私の隙を窺ってるのが透けて見えてるよ?アリアちゃん。


 きょーくんが欲しいなら奪ってみなよ、そしたら貸してあげる。


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