第8話【裏・学園のお姫様はお友達(笑)・前】

 私たち三人が友達になってから一か月が経って、三人で遊びに出掛ける事が一つの定番となった。


 花京院さんは他にも友達が多いのに、私たちに合わせるのが満更でもないみたい。


 いいペースだ。


 このまま私がきょーくんとの距離を詰める振りをしながら、きょーくんと花京院さんの距離を詰めさせる。


 私ときょーくんはとっくに零距離だからね。


「ああっ、ミスった」


 今日は三人でゲームセンターで遊び、きょーくんが音楽ゲームをしてるのを私と花京院さんが後ろで見てた。


「惜しい、途中までフルコンだったのに」


「まあ、いいけど。イチゴ、そろそろ代わるか?」


「えっ?」


 きょーくんがぽろっと私をいつも通り下の名前で呼び、私よりも花京院さんが驚いた。


 それを見てきょーくんも自分のミスに気付き、慌てて弁明しようとする。


「あ、悪い。親しくなったと思ってつい」


「いいよ。じゃあ私も恭一くん……ううん、きょーくんって呼んでいい?」


「もちろん」


 これで花京院さんの前で、私ときょーくんがいつも通り呼び合っても疑われない。


 割と煩わしかったのよね、呼び方切り替えるの。


 そんで、一人だけ除け者にされた花京院さんがもじもじしてる。


「花京院さんも、私の事をイチゴって呼んでいいよ」


「ありがとう。私もアリアで大丈夫です、イチゴさん」


「うん、アリアちゃん」


「それで、その……」


 花京院さん、もといアリアちゃんはまだ物欲しそうにチラチラときょーくんを見た。


 流石にきょーくんもその意図に気付いたけど、渋い顔になる。


「いや、俺と花京院さんまで名前で呼び合う必要は無くない?」


「そう、ですよね……」


 そう言われて、アリアちゃんは分かりやすく落ち込む。


「きょーくん!仲間外れにしちゃダメだよ!」


「そうですよね!」


 私のフォローを受けて、アリアちゃんが息を吹き返す。


 それできょーくんが根負けした。


「……分かったよ。アリアさん、でいいか?」


「はい、よろしくお願いします、恭一さん!」


 アリアちゃんが屈託無く笑った。


 これは後少しかな?


 あ、そうそう。


 きょーくんがアリアちゃんの前で私に告白するとか、裏で告白して付き合い始めたと報告する様な余計な事しない様に後で釘刺して置かないと。




「あのね、アリアちゃん。私、そろそろきょーくんと二人きりでお出掛けしてみたいの。こういう事頼んで悪いけど、次の週末の予定、アリアちゃんだけドタキャンしてくれない?」


 もう定例となった空き教室での作戦会議にて。


 私はそろそろ次のステップに進むべきと思ってアリアちゃんにそうお願いした。


「二人だけで……ってつまりデートですか」


「そ、そうだね」


 テレッテレ~と


 頬に力を入れて体をくねくねて見せる。


 一方、アリアちゃんの顔色は暗い。


 何故そうなってるかは……まあ、大体想像つくけど。


「……ダメ?」


「いえ、大丈夫です。……大丈夫」


 アリアちゃんは頷いてるけど、大丈夫って誰に言ってる事なのかな~


 私、分かんないな~


「ありがとう!次はね、ここのプラネタリウムに行きたいと思ってるの。でもきょーくんはそういうのちょっと苦手みたいだから、チケットを買う所までは一緒に押してくれる?無駄になるアリアちゃんの分は私が立て替えるから」


 私はスマホで前から目を付けていたプラネタリウムのページを見せる。


 そう、プラネタリウム。恋人の定番デートスポット!


 これは意識せざるを得ない。


 アリアちゃんが!


「……いえ、大丈夫です。私も金に余裕はありますから」


「そう?ありがとう!」


 私はあまり遠慮せずに素直に好意を受け取った。




 そしてデート当日。


 私ときょーくんは時間をずらして出発し、待ち合わせ場所で合流する振りをする。


「お待たせ、きょーくん」


「いや、俺も今来た所だから……なんてな」


 アリアちゃんはドタキャンして来ないけど、用心するに越した事は無い……というか、来てるねアリアちゃん。


 来るかもとは思ったけど、本当に来たんだ。


 サングラスと帽子で変装してるつもりだろうけど、見た事ある私服と帽子で隠し切れてない金髪で丸分かりだよ?


 まあ、応援してる友達が上手く行くかどうか気になってるとか、自分で金を出したチケットの代金が惜しいとか、来る理由は沢山あるからね。


「きょーくん、斜め後ろ。サングラスと帽子の人。あれ、アリアちゃんだよ」


「何?」


「振り返らないで。これ、スマホの自撮りカメラで撮った写真」


 アリアちゃんの尾行を教えたら、きょーくんが驚いたけどすぐ興味をなくした。


 スルー安定とか思ってるだろうなー


 それじゃあ面白くないけど。


「きょーくんが気付いた事にして、アリアちゃんも合流させて」


「……なんで?」


「私がアリアちゃんとも遊びたいから。二人きりのデートはいつでも出来るでしょ?」


 適当な理由をでっち上げて言うと、きょーくんは渋々と言った感じで頷いた。


「……分かったよ」


 そのままきょーくんがアリアちゃんを見つけた事にして三人でプラネタリウムに行く事になった。


 途中で、私は期待していた二人きりのデートを邪魔されたショックで視野が狭くなった振りをして、度々(裏切ったの?)という目付きでアリアちゃんを睨んだ。


 アリアちゃんは気まずそうに目をそらす。


 本当に邪魔するつもりだったのか、それとも興味本位で尾行してたのかは分からないけど、見つかってデートの邪魔をしてしまった以上、行動自体は裏切りと判断されざるを得ないよね。


 なんて、来たら来たで計画通りだし、来なかったらデートを楽しむだけだからどっちでも良かったけど。


 今度なんて言って責めようかな~


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