第6話『学園のお姫様はお友達・前』

 花京院さんにイチゴを紹介して貰ってからおよそ一か月が経ち、俺&イチゴ+花京院さんの三人で遊びに出掛ける事が増えた。


 おかげで花京院さんとも大分仲良くなった……とは思うんだが。


「花京院さん、他に友達も多いだろうにこっちばっかり付き合ってもいいのか?」


 ある日、また遊びに誘われたのでそう聞き返したら、花京院さんはショックを受けたのかちょっと涙目になった。


「私って、邪魔ですか?」


 邪魔です。


 花京院さんの知らない所で俺とイチゴが仲良くなって付き合い始めたって報告だけ聞いて後ろ盾になってくれればいいから、もう俺とイチゴのデートに付いて来なくていいと思う。


「ごめんなさい、葛葉くん!私がお願いしたの!葛葉くんと二人きりでいるのを学校の人に見られて噂されるのが怖くて!」


 そこにイチゴが割り込んで謝った。


 しかし目では(余計な事をするな)と圧を掛けて来る。


 え?俺、何か間違ったか?


「いや、悪い。ちょっと気になっただけだったんだ」


 取りあえず俺も謝った。


 本当は悪いと思ってないけど、これも処世術だ。


「いえ、私こそ過剰に反応してごめんなさい」


 そして花京院さんはすぐ機嫌を直した……けど。


 どうも最近、花京院さんの距離感が近過ぎる気がする。


 予想ではイチゴと俺が付き合うのを応援してる筈なのに、俺とイチゴを二人きりにさせないなどたまにお邪魔虫と言われても仕方ない行動を取る時があるのだ。


 この後の事だってそう。


 ゲーセンで遊ぶ時に俺がミスってついイチゴを下の名前で呼んでしまった事があった。


 けど、それをきっかけという事で(いつも通りに)「イチゴ」と「きょーくん」と呼び合う事にして誤魔化したが、花京院さんがこれに便乗して名前呼びを要求して来たのだ。


 俺としては花京院さんはイチゴとだけ名前で呼び合えば十分だと思ったけど、イチゴ曰く「仲間外れにしちゃダメ」らしい。


 結局圧に押されて花京院さんもアリアさんと呼ぶ事にした。


 ……これはそろそろ花京院さんの前でイチゴに告白するか、知らない所で告白して付き合い始めたと報告した方が良さそうだ。


 長引くと花京院さんが何か勘違いしてしまいそうで怖い。


 と思った所で。


「きょーくん、アリアちゃんの前で私に告白するとか、裏で告白して付き合い始めたとか勝手に報告しないでね?」


 イチゴの部屋で夕食を準備してると、そう釘を刺されてしまった。


「いや、何で?」


「それは……その、今度は私の方から告白してみたいの!」


 そう言えば、小学校六年の時に周りに告白ブームが起こって、俺もそれに当てられてイチゴに告白したのが元々の交際の始まりだったな。


 当時は女の子たちの見た目とか気にしてなかったし、前々から勉強や運動のコツを教えてくれたり、玩具とか化粧品とかプレゼントしてくれてたイチゴを一番気に入ってたから彼女に告白したのだ。


 ……俺、物で釣られてたんだな。


 今はちゃんとイチゴの全部が好きだからいいけど。


 いや、ちょっと良くないか。


 出世払いの借金が溜まってばかりだから。


 でもバイトはイチゴが「きょーくんの自由時間が減るからダメ」と言って許可してくれないんだよな。


 その後「金は必要なら私に言ってね」とも言われたから、素直に頷けなかったが。


 話を戻して。


 前回は俺からの告白だったから、今回は演技でもイチゴから告白したい、というなら仕方ない。


 普段から「好き」とか「愛してる」とか言い合ってるし、この後もベッドでそうするつもりだけど、「付き合って欲しい」と改めて言われてみたい気持ちもある。


「分かった、じゃあ待ってるよ」


「うん、待っててね」




 今度は週末に三人でプラネタリウムを見に行く事になった。


 プラネタリウムと言えばデートの定番なのに男女二人でじゃなくて三人で?と思った矢先、待ち合わせ十分前になると花京院さんから


『ごめんなさい!家で急用が出来たので行けなくなりました!プラネタリウムにはお二人で行って下さい!』


 とドタキャンのメッセージが来た。


 これは、もしかしてドタキャンで俺とイチゴの二人きりのデートにするテンプレなアレか?


 何だ、最近の距離感は杞憂だったかな。


「お待たせ、きょーくん」


 そしてイチゴが到着した。


「いや、俺も今来た所だから……なんてな」


 そもそも住んでる部屋が隣同士なのだ。


 俺がイチゴより先に着いてるのは当然先に出たからで、イチゴとは示し合わせて時間をずらしただけだ。


「花京院さんが来れないってのは知ってるか?」


「まあね。あっ、また苗字呼びになってるじゃない。アリアちゃんが聞いたら泣くよ?」


「そう言われも、家族や彼女でもない女の子を下の名前で呼ぶのはな……」


「そういう考えだから、私を名前で呼ぶミスをしたんでしょ?それは誤魔化せたからいいけど、アリアちゃんにそのミスしたらダメだよ。本人がいなくても名前で呼ぶ様に」


「……分かった」


 少し不服ではあるが今いない人に気を取られても仕方ない。


 久しぶりのイチゴとのデートを楽しもうか。


「そういえばさ、告白はいつしてくれるんだ?」


 街を歩く途中、思い出した事を聞いた。


 額面だけだと傲慢極まりない言葉だが、もう付き合ってる仲だし、告白してくれるって約束もしているから問題ない……はずだ。


「うーん、アリアちゃんが納得するくらい、私ときょーくんの仲良い所を見せつけてから?」


「そろそろ十分じゃないか?」


「ううん、まだ足りない。こういうのは女同士の方が分かるから、大人しく待っててね?」


「……ああ」


 もしかしてサプライズでも予定してたんだろうか。


 少し楽しみにしておこう。


 歩き続けてプラネタリウムのあるアミューズメント施設が見えて来た頃、イチゴに小突かれた。


「きょーくん、斜め後ろ。サングラスと帽子の人。あれ、アリアちゃんだよ」


「何?」


「振り返らないで。これ、スマホの自撮りカメラで撮った写真」


 そうしてイチゴが見せたスマホ画面には、確かにここの後ろを歩いている変装した花…アリアさんの姿があった。


 サングラスと帽子はいいけど、見たことある私服に色白の肌と金髪となるとなー


 まあ、気になって見に来ただけかも知れないから、スルーしていいだろう。


「きょーくんが気付いた事にして、アリアちゃんも合流させて」


「なんで?」


「私がアリアちゃんとも遊びたいから。二人きりのデートはいつでも出来るでしょ?」


「……分かった」


 釈然としないけど、イチゴがそう言うなら仕方ない。


 俺は横を通り過ぎた人を二度目する振りをして、後ろに振り返る。


 そして写真と同じ恰好のアリアさんを見つけ、素知らぬ顔で声を掛けた。


「アリアさん、何してるんだ?家の用事があったのでは?」


「これは、その……思ったより用事は早く片付きましたけど、後から合流するのも気まずくて……」


 アリアさんは驚いてから、気まずそうに目を逸らして言い訳する。


「そうか。じゃあ一緒にプラネタリウム行くか?」


 俺としてはこのまま尾行されるままでもいいんだが。


「はい、せっかく見つかったんだから行きます」


「そうか」


 チケットが無駄にならないからいいか。


 所で、せっかくの使い方間違えてないか?

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