第3話『何故か学園のお姫様に絡まれている・後』

 あれから花京院さんが俺を生徒会の手伝いに駆り出す頻度が目に見えて増えて来た。


 今となっては放課後だけで無く、昼休みでも遠慮なく手伝いを頼んで来る。


 いや、ほんと遠慮して欲しいんです。


 ただ彼女であるイチゴから「花京院さんと仲良くしてね」との言付けもあって、伊藤さんたちも生暖かい目で送り出してくれるから、断るに断れない。


 ただ男子たちの殺意の籠った目が怖い。


 それに何度も手伝わされたおかげで生徒会の先輩たちには顔覚えられちゃったし、生徒会室で堂々と昼飯を一緒に食べる機会も出来てしまった。


 今みたいにな。


「恭一さんは毎回パンですか?」


「まあ、一人暮らし……だし、弁当を用意する余裕も無くてな」


 実はイチゴと実質同棲状態だけど、これは秘密だ。


 あと弁当を用意する余裕が無いのは本当。


 俺もイチゴも料理は面倒臭がるからなー


「そうですか。ちなみに、好きな食べ物とかは何です?」


「……から揚げだけど」


「なるほど」


 花京院さんは俺が食べてるパンを見て納得する。


 から揚げパンだからな、これ。


 しかし逆に俺から花京院さんが好きな食べ物を聞いたりはしない。


 何かこの人と距離を詰めると、結構まずい事になりそうで怖いのだ。


「好きな物ついでに聞きますけど、好きな異性のタイプはどんな感じですか?」


 おっと、これはかなりデリケートな質問だな。


 童貞じゃなくても十人に九人は勘違いしそうだ。


 因みに俺は童貞じゃない。


 中学を卒業した日に記念と称してそっちの初体験もイチゴと卒業したからな。


「何でそんな事聞くのか知らんけど……見た目はともかく自分に一途に尽くしてくれる子、かな」


 イチゴをイメージしました。


 実際洒落にならんくらい尽くして貰って世話になったんだよな。


「そうですか。あ、これは友達との話の種に使うだけですから、勘違いしないで下さいね!?」


「あ、はい」


 というかお友達さんに言いふらさないで欲しいが、あまり強く言えないか。




 昼休みが終わる前に教室に戻ると、すぐ伊藤さんたちに取り囲まれた。


「ねぇねぇ。花京院さんと仲良くなってるの?今どんな感じ?」


「実はもう付き合ってたりする?」


「彼女出来ても仲良くして」


 読んで字の如く、姦しい子たちだ。


「違うって。まあ仲良く見えるかも知れないけど、付き合ったりはしないから」


「そう?お二人さん、お似合いだと思うんだけどなー」


「花京院さんの方は葛葉くんの事狙ってるよね?多分」


「告白して来たらどうするの?」


 小林さんのもしもはあり得ないと思うけど、まあ。


「告白して来たら……断るかな。実は前の彼女と気まずい別れ方したから、まだ引きずってるんだ」


 俺には中学の頃、泥棒猫によって騒ぎが起こった所為で気まずくなってエアかつダミー彼女と別れた……という設定があり、これはもう周りに話してある。


「そうなんだ」


「純情だねー」


「いや、重くない?」


 うるさいな、そもそも嘘なんだよ。


 ただ何というか、俺と花京院さんが親しいってのはもう周知の事実になったみたいだ。


 伊藤さんたちも俺を誘う時、花京院さんとの予定があるのか先に聞き始めたくらいだし。


 漠然とだが、このままではまずい気がする。


 なのにどうすればいいのか分からないし、何も出来ない。


 今更花京院さんと距離を置く……ってのも無理だな。


 下手して花京院さんに嫌われると学校中でハブられるかも知れない。


 結局、このまま流れに身を任せるしか無いか?




 そんな事で悩んだ翌日の昼休み。


 伊藤さんたちと駄弁りながら昼飯を食べていると、花京院さんからレインメッセージが来た。


 何度か手伝いする途中、連絡を取る為にとID交換してたのだ。


『紹介したい人がいます。よろしければ今からクラス教室の下の階の隅の空き教室に来ていただけますか?』


 紹介したい人?


 ……もしかして?


「なになに?花京院さんからのメッセージ?」


「逢引?」


「お熱いねー」


 考えていたら伊藤さんたちに注目されてしまった。


 隠してもしょうがないのでメッセージについて打ち明ける。


「逢引っていうか、紹介したい人がいるんだって」


「紹介したい人?」


「もしかして理事長とか?」


「保護者公認?」


「いや、無いだろ。そもそも呼び出し場所が空き教室だし。とにかく行ってみる」


「うん、いってらっしゃい」


 俺は伊藤さんたちに見送られて指定された空き教室へ向かった。


 そして空き教室に入ると、花京院さんと……


 イチゴが待っていた。


 ちょっとは予想してたけど、それでも驚いたので目を剝くと、イチゴは花京院さんの後ろでこっそり人差し指を当てた。


 俺たちの関係は内緒って事か。


「いらっしゃいませ、葛葉さん」


「ああ、うん。それで紹介したい人って?」


「こちらのクラスメイトの依藤イチゴさんです」


「まあ、クラス同じなので知ってるけど……」


 逆に初対面の振りするのが気まずいけど。


「あ、あの、依藤イチゴです!仲良くして下さい!」


 イチゴが如何にも緊張した振りしながら頭を下げる。


 ……これ演技だな。イチゴは少なくとも俺相手に緊張する事なんてないから。


「あ、はい。葛葉恭一です。よろしく」


 一応初対面っていう設定として挨拶を返す。


「……で、依藤さんを俺に紹介してどうするんだ?」


「今日の放課後、三人で遊びに行きませんか?」


 三人で遊ぶ理由とか脈略が無い気がするけど……


 なるほど分かった。


 これは学校で俺とイチゴの関係を公認する人を作る為にイチゴが一芝居打ってるんだな。


 初対面の振りして花京院さんに応援して貰い、徐々に距離を詰めて付き合った事にして花京院さんには後ろ盾になって貰うために。


 そうすると女子がイチゴに嫉妬しても手出しし辛くなるからな。


 ついでに二人きりじゃなくて花京院さんも混ざる事で花京院さんをダミーに見せかけて、途中までは他の生徒の注目も分散するという事か。


「分かった。で、どこに行こうか」


「そうですね……」


 俺たち三人はそのまま放課後の行き先を相談した。


 それにしてもイチゴが何考えてるのが色々心配したけど、取り越し苦労だったな。



――――――――――――――――――――

 本章ですが、主人公?の恭一以外の視点である【裏】視点と交差に投稿されてます

 一章の表と裏はそれぞれ同じ話数で時系列がマッチングするよう意識しており、交差に読む事でその落差を楽しめます

 それとも裏視点を飛ばして表視点だけ読みきった後から裏視点を読む事で、恭一がどう道化だったかを分かっていただける……かも知れません

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