第2話『何故か学園のお姫様に絡まれている・前』
高校生活が始まって一か月くらいになると、クラス内でのグループや各員のイメージも大体出来上がった。
「ねぇねぇ、葛葉っち。この動画の猫かわいくない?」
「そうだな。俺も猫好きだから飼いたいけど、今暮らしてるアパートはペット禁止でさ」
「じゃあウチ、猫飼ってるんだけど、今度遊びに来ない?」
「いいのか?じゃあ今度予定を確認してみよう」
「ついでに私の家も来る?」
「いや、なんのついでだよ」
俺のイメージは軽そうな女子に囲まれるチャラいイケメン。
自分で言うのもあれだが、客観的に見てそうなんだから仕方ない。
望んでこんなロールやっている訳では無いが、寄って来る女子たちをあしらわずに相手するようにとイチゴからお願いされてて、適当に受けが良さそうな言葉を返していたらいつの間にかこんな感じになった。
そんな俺の取り巻きのレギュラーと化してるのは伊藤さん、鈴木さん、小林さんの三人だ。
伊藤さんは俺(とイチゴ)と同じ中学から進学して来て、俺を追って来たのだと露骨にアピールされた。
鈴木さんだけ一人称がウチだけど、理由を聞いたら漫画の影響だそうだ。
小林さんは特筆する事が無いが、たまに際どい事を言う。
三人とも世辞抜きで可愛い顔立ちでクラスではいつもこの三人とつるんでるおかげで、俺は男子からは敵意の籠った「ナンパ男」とか「チャラ男」とか呼ばれてたりもするが。
正直、俺も軽い男ムーブは吐きそうだ。てか実際に吐いた事もある。たまに昼休みのトイレでゲロゲロと。
あと伊藤さんが緑髪、鈴木さんが金髪、小林さんが赤髪に髪を染めていて、クラスでは信号三人娘と呼ばれてたり呼ばれなかったりする。
この三人が髪を染めても咎められないのは、花京院さんも地毛だけど金髪で、髪色を規制すると花京院さんにまで被害が及ぶ恐れがあるから染髪は大目に見られるそうだ。
言っておくと、三人とデートまがいに遊んで回ったりはするが、キス以上の事をした相手は一人もいない、普通の友達だ。
ただ一度出来上がってしまった人間関係を変える勇気も無いので、このグループをだらだら続けているが。
「………」
イチゴは自分の席で教科書や本を読むだけの居ても居なくても変わらない空気な陰キャポジションだ。
とは言ってもある程度本人が望んでそうなった側面がある。
「あの……依藤さん?」
「………」
「依藤さん?何読んでるの?」
「……消えて」
「あ、はい、すいません」
こんな感じで何度かクラスの陰キャ男子が同類探しと見え見えの下心でイチゴに声を掛けた事もあるが、その度イチゴは冷たく拒絶した。
おかげでイチゴはクラスで完全孤立している。
実は俺もイチゴに粉掛けようとした陰キャ男子をどうしてやろうかとつい睨んでしまってたんだが、周りには内緒だ。
そしてもう一人、目に付く人を挙げるなら、クラス一の人気者にしてこの学校の理事長の孫娘でもある花京院アリアさん。
「花京院さん、さっきの授業でノート書くのが間に合わなかったんだけど、見せて貰っていい?」
「はい、どうぞ」
「ありがとう!花京院さんのノートって本当に綺麗に纏まっているね。字も綺麗だし」
「昔から躾けられただけですよ」
「花京院さん、今日の放課後に皆でカラオケに行くんだけど、花京院さんもどう?」
「ごめんなさい。今日は習い事がありまして。また今度誘ってください」
「そっか、残念だなー」
「花京院さんってやっぱ親から色々習い事させられてる感じ?」
「昔はそうでしたけど、今は私が続けたいと思ってる事しかしていませんよ。ですから日によっては皆さんと遊べる時間もありますので、またお誘いください」
……と言った感じで息つく暇も無いくらいクラスメイトたちに声を掛けられ、花京院さんも分け隔てなく相手している。
このクラスの人間関係をカースト分けするなら、トップは間違いなく彼女だろう。
俺?俺は上から二番目か三番目かな。女子人気はあるけど、男子の嫉妬とか女子絡みで悪い評判もあるから。
そのカーストトップの花京院さんだが、たまにチラっとイチゴの方を見る事がある。
新入生代表挨拶でちょっとあったみたいだから、意識してるんだろうか。
多分無いとは思うけど、イチゴを敵視する人が現れなければいいんだが……
放課後に帰り支度をしていると、不意に花京院さんが近付いて来た。
「葛葉さん。少しいいですか?」
「いいけど、何?」
花京院さんから声を掛けて来るとは思わなかったので少し驚いたが、無視するのもまずいので話を聞くことにした。
「生徒会の雑用に手が回らなくて、クラス委員の葛葉さんにお手伝いをお願いしたいのです」
ちなみに説明すると学校設立の理由が理由だから、花京院さんは特例として入学してすぐ生徒会に入ったらしい。
一部贔屓だと非難する声もあったが、理事会から堂々と贔屓してると開き直られたのでそれ以上何も言えなくなったみたいだが。
そして俺はクラス委員で、一部女子が盛り上がって勝手に決まったのだ。
ちなみにイチゴは委員会に入ってない。
「悪い、今日は友達と遊ぶ約束が……」
「いいよいいよ、私たちと遊ぶのはまた今度でも。それよりも花京院さんを手伝ってあげて?」
花京院さんの頼みを断ろうとしたら、遊ぶ予定だった伊藤さんが俺の背中を押した。
そして一緒に遊ぶ予定だったグループに戻るった。
そして別の女子グループがこっちを見ながら噂し始める。
「……花京院さんと葛葉くんって、見た目だけならお似合いだよね」
「分かる、絵になる」
……若干小声ではあるけど、聞こえてるんだが。
まあ、聞こえない振りするのがいいんだろうな。
もう一人の噂と当事者の花京院さんも聞こえてないのかスルーしてるのか知らないけど、反応して無いし。
花京院さんに視線を戻す振りをしながらイチゴの様子を窺うと、こっちには興味なさそうに教室を出て行った。
「……急に予定が空いたので、手伝うよ」
「ありがとうございます。ではついて来て下さい」
俺は教室を出て、花京院さんの先導を受けながら廊下を歩く。
その途中で、ポケットのスマホが振動した。
スマホを取り出して確認すると、イチゴからのレインメッセージの着信があった。
『GO』
……そうですか。
やっていいならやりますよ。手伝いをね。
生徒会雑用の手伝いは特筆すべき事も無く終わった。
その後、俺はアパートの部屋に帰って来た。
俺とイチゴは隣同士の部屋を借りているが、主な溜まり場はイチゴの部屋だ。
大体こっちで夕食を済ませてダラダラして風呂や就寝は自分の部屋でする。
何故イチゴの部屋で集まるのかは彼女本人の希望による物だ。
もしかしたら中学の時の公認浮気デートの延長で俺が女子を部屋に連れ込んだ時にイチゴの痕跡を残さない為に……とか疑った事もあるが、怖くて未だに真意を聞けていない。
夕食の準備は基本当番制で、俺もイチゴも料理は面倒臭がるタイプだから俺の時は適当なレトルト料理、イチゴの時は出前が多い。
そして今日はイチゴの当番で、夕食はウベルイーツの出前だった。
「きょーくん。手伝いはどうだった?」
「ぼちぼちかな。本当に雑用だけだったから」
生徒会室のゴミ箱に溜まったゴミ出しとか、散らかった小物を纏めるとか、消耗品の在庫チェックとか、誰でも出来そうな仕事だけだった。
「そっか。私の事はいいから花京院さんとも仲良くしてね」
「いいのか?」
「いいよ。それと、花京院さんの前でも私たちは他人の振りしよう?」
「……分かった」
何か企んでいるんだろうな、とは思いながらも、俺はイチゴのお願いを引き受けた。
数日後、いつもの様に休み時間で伊藤さんたちと他愛のない雑談をしていると、ふと伊藤さんが別の話題を持ち出した。
「そう言えば葛葉くん、花京院さんと何かあった?」
「何って、この間の手伝い以外は何もなかったけど」
「そう?何か最近花京院さんが葛葉くんの事を聞いて回ってるみたいだよ?」
「ウチも聞かれた。女性関係の事だったけど」
「私も」
伊藤さんの疑問に鈴木さんと小林さんがそれぞれ続いた。
嘘ではないみたいだし、花京院さんに何か探られてるっぽいな。
探られるような興味を買った覚えは無いが……
もしかしてイチゴが裏で何かしたのか?
いや、何でもイチゴを疑うのは良くないな。
「まあよく分からんけど、実害は無いから気にしなくていいんじゃないか?」
「もし、花京院さんが葛葉を狙ってるんだったらどうする?」
「……いやいやまさか」
小林さんの仮定を手を振って否定する。
クラスメイト以上に接点は無いし、何なら他のクラスメイトがいつも声を掛けてる分接点が多いし。
なら俺を狙う理由は顔の良さだけど、だとしてもタイミングが今更だ。
何なのか分からないけど、触らぬ神に祟り無しって言うし放置でいいだろう。
問題の後回しにしかならない気もするが。
しかしその日の放課後。
「葛葉さん。今日も手伝いをお願いしていいですか?」
花京院さんがまたも声を掛けて来たので、俺の中で表現しづらい危機感が募って来た。
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