第2話
B氏の投稿───
「ど、どうも……初めまして……いや、そうではなかったかな……?俺はいま部屋のパソコン──パーソナルコンピューター(言うまでもないが)──の前でこうしてキーボードを叩いているところだ。ここ三日投稿を欠かしていた俺だが、今日になってこの文章を書きはじめた理由は……いちばんには、ついさっき表で面白い光景を見掛けてきたからなのだが……(もしかしたら読者の誰かもその中にいたかもしれない)、もうひとつには……、……いや、どうもこれは説明がしにくいのだ、だけど、たぶん……あなたも、この世界に住んでいる、自分と同じひとりのユーザーであるなら、分かってくれることでしょう……」
カクヨム歴40620年のことである。
その市街に住む人物のうちでカクヨムと関係しない者はいなくなった。
──「なぜ……」
──「おそらくそれは、カクヨムの存在原理とかかわりがあるのだろう。」
──「存在原理?」
──「そう、つまり今や人間の身体の一部として社会のうちに導入された、各種情報機器……これを通してカクヨムにアクセスしているのならば、別にカクヨムをしていない人でさえ……」
──「違う学年の生徒どうしが、同じ一つの学校に通っているように……社会の中に複数の業種の企業があるように、おもにそれぞれ異なるSNSに棲み付いた人びとの間柄のように……個人個人は別々のことをしているものの、それらは結局、同じ一つのものの中にいるのには変わりない……」
──「なら、カクヨムに(他のアプリや、Webサイト等でも構わぬ)関係する以前に、まずは、その機器と関係しているのは同じ……」
(日本に限らず、今ほどんど世界中で著名な作家でも、事象の複雑さに惑わされてこんな基本的な事実さえ見えなくなっているくらいだからねぇ。作家に限らず、そんな生活の次元を忘れておいて、何が好きだ何が課題だ仕事だ必要だ?異次元がどうたらやってみたところでなんにも変わらねぇっつーのによ。え?人前に出てなにかものを言うからにはそんなんじゃあいけませんよね?ね?カクヨムにもいる皆さん方?そのくらいは当然自覚していることですよね?)
──「同じマンションに住んでいる別の部屋の住人のように。」
だからそう、彼──B氏がいまどこかでパソコンにアクセスして書いていたり、Youtube、LINE、カレンダー、時間割、メモ帳、Tver、サブスク等で音楽を聴いていたり、待ち合わせの連絡をとっていたり、クラウドメールで仕事の業務連絡、名簿管理、在庫管理・配達、サーバー保守、企画運営、他にもさまざま、アップルにしろグーグルにしろ、ストア上に存在する全アプリを開発したり利用していたりするすべての活動、そしてあなたはそれをこうして端末を通して読んでいるという、その次元で、まず各部屋の住人は、同じ建物の中に住んでいるのである。
B氏の投稿,つづき───
「昼すぎ、自分は散歩がてらご飯でも食べに行こうかと、駅前に歩いて出掛けたのだ。玄関から出ると廊下の手すりのまえで伸びをした。朝は、特にくらいとも感じなかった。だから今日は晴れているかと思ったのだが、太陽はぼんやりと、空一面にかかったもやのような曇に身を寄せて、街をまんべんなく照らしている。地面に写る影もうすい。──歩道をすすみ、住宅地を通り抜けて坂をすぎると駅に出た。
駅前にはたくさんの人がいた。各々が学業や仕事の帰りだろうか、何かに引きよせられるように歩いている。腰かけのない、バスの待合のベンチに座っていた老夫婦が、スマホを見ながらなにかをしていた。灌木に囲まれた何かを象徴するらしいモニュメントは人々の待ち合わせの目印になっている。その近くを通りながら、自分は駅ナカやその周辺の空きテナントに目星をつけて業務展開した各飲食店を思い浮かべ、そのどれで昼食を取ろうかと考えていた。
決めかねて、近くのベンチに腰をおろして座ったときだった。どうしようと思って宙をあおぐと、街の向こうに見えるビルの屋上に、何かちらと動くものを見たきがしたのだ。角度的に、手前の面と、斜めに切れた半面の、両端近くしか見えないから、その内側の死角に入りこんでしまったのかもしれない。斜めの方の壁際には、つくしを三本結びあわせたような形状の基地局──[ドコモとかソフトバンクなどの携帯キャリア会社が設置している、4Gとか5Gのデータ通信のための街内設備]が、ビルの所有者と契約したのだろう、固定されていて、今も動いている。だがその支柱の影に隠れているのは……何だろう?あれは、何か細い鋭った棒のようなものが突き出している気がするが……基地局の一部だろうか?──さらに目を凝らすと、その胴の中腹からは、三脚のような足が生えているのがわかる。とすると……別の誰かが設置した機器だろうか?──何の目的で?──と!つい目が景色と離れなくなっていたそのときだったのだ。
その近くに何か動く者がいるのである。彼がさっきの気配だったのだろうか。ビルの死角から出てくると、彼はその機具のほうへと足を進めて行き……そしてその傍へ辿り着くと……、いま彼は眼下に街を見下ろして、一度呼吸を落ち着けているところらしい。
だが、しばらくそのまま動きがなかったので、自分も思わずベンチに座りながらずっとビルの屋上を見つめていたのを思い出し、周りの様子を見渡したのだった。
しかし再び目を屋上に合わせた次の瞬間自分の目に入ってきた光景は……まさか、あれは本当だったろうか?彼はもう一歩前へ足を踏み込むと、首をみっちり棒に寄せつけ、手を前に構えた姿勢で、何度かポジションを確認するように、身体を揺らしたりしているのだ……あの所作は、あの仕掛けは……あの仕草は、だとしても何を狙うというのだろう。
今でも本当にあの出来事が事実だったのかは定かではない。しかし紛れもなく自分はあの出来事を目撃したし、また経験してきたのである。だからしてこうして書き残してもいるわけなのだ。自分は──その人物が構えている銃口の方向に向かって、歩き始めていた。
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