カクヨムバトル

レスポンド

第1話

 カクヨム歴50909年登場人物A氏はカクヨム上に一つのエピソードを投稿した。その内容は───

「ええどうもみなさんこんにちは、もしあなたが夜読んでいるならこんばんはかな、まあどっちでもいいのだけれど、なぜ自分がこんな小説を投稿したかって?──それはまったく君たち自身がよくよく承知のことと思うけどなぁ……僕がいまどんな状態で書いているか君たちもむろん無自覚なわけじゃないだろう、ある者は遠方から覗き僕のことを狙撃銃で仕留めようと狙っているし、またある者はその瞬間を撮影しようと道端でカメラを構えている、じっと立ったまま今にも録画ボタンを押すか押さないか……獲物をいたぶる猫のような残酷な立場に身を預けながら……いや、既に押しているのかもしれない。だから自分があるけば彼らはまるで太陽に追いすがる向日葵ひまわりのように首を横に動かしやがるのだ。あるいは星空を観測する天体望遠鏡のように……と、何があったのだろう、目の前にボールが転がってくる──何だろうと思って拾いかけたが、途端、これもなにかの罠かもしれないと思うと体が硬直してそのまま見過ごしてしまった。その瞬間の自分の体の危惧を文にしてみれば、突如おとずれたこのアクシデントも彼らの自作自演で、手に取ったとたんそのボールが爆発するか何かで自分は切り刻んだ細ネギのごとく四方に爆裂し地面と建物のコンクリートのかげに痣となって残るか、水びたしになるかしてまたその晴れない姿を目に納められるかと思ったのだ。──だが、ボールはそのまま弾んでいくと、ガレージ付きの不動産の角にぶつかって、そのまま通りへ跳ね返っていった。他の通行人もいるのだが、みな自分と同じようになにかを懸念しているのかすぐ手前にボールが転がってきているのに、まるでその存在に気付かないようなふりをする。あるサラリーマンは厳として正面だけを見据えたまま通り過ぎていった。ウーマンはわずかに隠微な様子をして見せただけで糸人形のようにふらつきながら景色と同化してしまった。なぜだろう、そう思ったのも束の間、ボールは道の中央で停止する。いったい誰がこんな通りにボールを投げ込んできたのだろうか、いずれにしろ、やはり取りに行ったほうが……そう思って振り向くと、目に入ってきたのは、道の両側から何百人もの人間がいっせいにこちらにカメラを向けている様子だった。

 そして、その一つ一つが、『今のお前の考えていることはよぅく分かっているのだぞ、お前は一旦見逃したものの、すぐにそれが気掛かりとなって引き返した、その心理は、お前がここでいちいち繰り返すまでもなく、ここにいる皆が自分の心臓を内側から舐め回したようにすでに理解しているのだ』そんなことを語りかけてくるように感じ、下を向いて取りにいきつつ遠方からの射撃をかわしながらこう思った。

「あーもう、まったく世の中めちゃくちゃだ!」

 頭の中だけで思ったつもりだったものの、もしかすると声に出てしまったかもしれない。ふと、中世の西洋の都市が糞尿まみれだった理由が分かったような気がした。」

 A氏はその続きにこう書き記している。

「以上の一部始終の最中にありながら、自分は手元の端末にいちいちその場面を書き写すようにしてこのエピソードを記した。──こうして駅の裏側の小さなベンチに座って難を逃れている今も、ただならない戦闘的状況の中に投げ込まれている。住宅地の上には輪を描くようにカラスが飛び、その向こうの空は、まるで網で囲い込んだように街の上に横たわっている。」

 第二話ではカクヨム歴についての少々の補足とB氏の投稿が語られるだろう。たぶん、それに合わせて、もうちょっとSFバトルの内相にも踏み入ることになるにちがいない。

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