50、お姉様救出作戦
「クソッ……!」
正々堂々としながら、人々を守る正義の組織として騎士は敬われている。
しかし、このふざけたような悪事を働くのが今の腐った騎士だ。
改心したプライドや、荒々しいだけで良識はあるレインたちなどまともな人も多いのだが、上の立場の者は腐った奴らである。
──十柱騎士。
王直属の騎士を統括する選ばれし10人。
ユキやカスミの前へ立ちふさがるシナリオ上のボスである。
「おりゃっ!」
誰かはわからないサファイア家の一角である部屋の中に忍び込む。
「あ……」と絶望的な表情で俺に助けを求める蒼い透き通った瞳が2つあった。
「あなた……」
「何奴だ!?サファイア家の者は皆殺しの命を受けているが、それ以外の者は命令の対象外だ。逃げ出すなら見逃すぞぼろぼろの小さい勇者よ」
「ぐっ……」
ミサトちゃんのお姉様がスキンヘッドの大男に藍色の髪を引っ張られている。
「た、助けて……」と、さっきまで野蛮人だの乞食など散々俺たちをこき下ろした口が涙を流しながら訴えていた。
「…………」
あれ?
おかしいな?
本来のゲームだとミサトちゃんの部屋に入って、ユキとカスミで中ボスの騎士と戦闘になる(仲間にしていたらリディも)。
そしてこの中ボスに破れるとユキたちは殺されずに意識を失うだけだが、ミサトちゃんは殺されるという分岐内容に入るのがゲームの流れだった。
まぁ、2~3人対1なので負ける方が難しい中ボス戦イベントだ。
……が、俺がプライドを仲間にしていてカスミを仲間にしない結果微妙に違う展開へと変化したようだ。
やはり俺が歴史を変えることによってちょっとずつだがゲームとの流れが変わるようだった。
「…………!」
あれ、プライドとは別れたがリディはどこに消えたのだろうか?
俺は中ボスの騎士相手にタイマンで挑まなくてはいけないの……?
「偉そうな態度だったが、弱っちいな貴族の女!強くもなく、生まれが貴族ってだけでなんの苦労もなく衣食住には恵まれては偉そうに振る舞いやがってよぉ!俺はそういう虚栄心をこの世から粛清するために騎士になったんだよ」
「ぐぅぅ……」
「だが、残念だが偉くて金があるだけではどうしようもならねぇってこともあるってのを身に染みながら死ねぇぇ!」
髪を雑に握り、メリケンサックを付けた右拳を額にグリグリ押し付けては皮膚を抉る。
「イヤっ!?やめて!?殺さないでっ!?」と金切り声を上げて命乞いをしているお姉様。
仕方ないが1人でどうにかするしかないようだ。
「おい、そこまでにしろよ」
「あん?見逃してやるってのにやっすい正義感振り回すのかキッズがよぉ!」
「何言ってやがる。サファイア家だけならず、俺も殺害対象なんじゃないか?俺はエメラルド家の当主だぜ?」
「え、エメラルド家だと!?あ、あの
スキンヘッドの騎士は驚いたように声を上げる。
あのプライドと言われている辺り、こんなゴリラみたいな男からも彼女は一目置かれていると思うと誇らしい。
「え、エメラルド家……。勇者様パーティーで誰よりも素晴らしい補助能力が評価されたという……。坊やがまさか……、我がサファイア家での特別扱いされているあのエメラルド家だったなんて……」
「え?」
ウチのエメラルド家って補助能力が評価された一家だったの?
お姉様から語られたエメラルド家の話題そのものがはじめて知った内容だった……。
「補助能力かよ!かはははははっ!」
「な、なにがおかしい?」
「だったらなおさら1人で来るもんじゃないだろ!補助役らしく後ろに引っ込んでろよチビガキがぁぁぁぁ!」
メリケンサック装備の拳が俺の脳を潰そうと頭の上から狙われる。
「…………よっ」
しかし、カスミに比べると動きが弱すぎて頭を下げながら簡単に前へと踏み出す。
『ウェポンアッパー』のバフを使うまでもない。
鉄の剣を力いっぱいスキンヘッドの男の腹に突き刺す。
「ぐおっ……!?こ、このガキがっ……!?」
「あんたみたいなレベルが低い騎士ごときに負けるわけないでしょ?」
「がっ!?かはっ……!?」
彼は十柱騎士である騎士の直属の配下幹部の中ボスなのだが、序盤の序盤の敵だからかステータスがものすごく低い。
メタ的な意味もあるが、おそらくはもうリディの方が贔屓目なしで強いくらいである。
贔屓目なんて言ったが、むしろあのドジなリディより弱いのか……と幹部()の実力にこちらが驚かされる。
2回突き刺されて絶命したのか、スキンヘッドの大男はもうピクリとも動かない。
「ふぅ……。大丈夫ですかお姉様?」
「あ、あなたにお姉様呼ばわりされるつもりなんかないわよ……」
「そ、そうですね……」
足の骨が折られているようで、立ち上がれないお姉様の側に駆け寄る。
「まさかあなたがあのエメラルド家の当主だったなんて……」
「そうですね。ただ、あのエメラルド家とは?」
「い、いえ。気にしないでください……」
「(あ、憧れのエメラルド家の人に会えるなんて……。こんなウサギみたいなE級冒険者なんて気付くわけないじゃない……)」
お姉様は頬がやや赤くなっている。
この騎士から色々暴行を受けたみたいだし、色々な興奮があるんだろうなと女心を悟る。
「動けないみたいですね。待ってください、回復させます」
「か、回復?あなたみたいな坊やが回復出来るの?」
「それが取り柄ですから!『パーフェクトヒール』」
「え……?」
手のひらから癒しの魔力を放出させる。
彼女の何十本かが抜けてしまった髪の痛みや、折れた足の骨などを癒していく。
10秒ほど魔力を放出し終えると、彼女の怪我は無くなった。
「さ?回復終わりましたよ」
「あ、ありがとう……」
「美人な顔に傷が残らなくて良かったです」
「び、び、び、美人ですって!?か、からかうのはやめなさい!」
「す、すいません……」
お姉様は先ほどよりもっと顔を赤くして、甲高い声で叱られる。
その迫力に圧倒されてしまい、小さくなってしまう。
「た、ただ食事の時の野蛮人などの暴言は取り消します。こ、こちらこそ気分を害させて悪かったわね……」
「気分は特に害されてなかったですよ。元気で強いくらいが素敵ですよ」
「!?」
そもそもプライドから虐められている関係上、あんな暴言はジャブ程度であった。
いつの間にか自分も変に寛容になっていた。
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