48、歓迎されたのに歓迎されない
「ほっほっほっ!よくわが娘を助けてくれた!」
「これで私がドラゴンマジックズに虐められていた証人を見付けましたわお父様!マジックズというか、ただのクズですよ!」
「ミサトちゃーん、マジックドラゴンズです……」
あれからは、サファイア家の当主であるダンディーな髭のおっさんと、その奥さんに出迎えられていた。
そして目の前にはご馳走が並べられている。
「あぁ!春巻きですよ春巻き!ボク、このバーンの春巻き楽しみにしていたんですけど、貴族が振る舞う春巻きとか不味いわけないじゃないですか!」
「リディ……。はしたないからご馳走から目を離せ。まだユキがお褒めの言葉をもらっているところだ」
俺の隣に座るプライド、リディはサファイア家の当主の話を真面目に聞いていないようなので、俺が3人ぶんの話を聞くことになっていた。
「これであの3人と家族たちをバーンから追放してください!」
「こらこら、罰があまりにも重すぎる。だが、娘に近付かせないために尽力はするよ」
娘大好きそうなおっさんだが、甘々なだけではないらしくちょっと安心した。
マジックドラゴンズにカケラも同情する気もないが、流石に追放はやり過ぎる。
ミサトちゃん、将来悪役令嬢とかになっているかもしれない。
俺は変なダイヤの原石を見付けてしまったのかも……。
「てか、お父様!話が長過ぎますわ!こっちつまんないんですけどぉ!」
「あ、姉上!ミサトを助けてくれたお客様の前ですよ……」
「別にわたくしの客ではありませんし」
なんだか姉のフォローをしているサファイア家の長男君のヒエラルキーが家族で1番低いのが伝わってくる悲哀がある。
男って弱いよね……。
プライドとリディに振り回される俺は同情してしまっていた。
「そうかそうか。では、食事をはじめよう!では、いただきます!」
「まーす」
「いただきます」
「いただきまぁす!」
姉、長男君、ミサトちゃんの性格がよく出る食事前の挨拶だなぁと苦笑してしまっていた。
「いただきます!」とリディの大きい声も2つ隣から聞こえてきた。
俺もプライドもそれに倣って合掌をする。
隣のプライドを観察すると、案の定1番の大好物である肉まんを手にして一口齧り付く。
「な、なんだこの肉まんは!?皮が柔らかいのに歯ごたえがあるじゃないか!あんも肉がぎっしりでケチってない!お、美味しいぞユキ!」
「そ、そうか。俺も肉まんからいただきます」
「ユキさん、ユキさん!春巻きもバリウマですよ!皮に……、皮にも味があるんです!」
「そ、そうか。肉まんの次に春巻きをいただくよ」
ほかにもご飯とかチンジャオロースなど全体的に中華寄りのご馳走であった。
中々尖った設定だなぁ……。
サファイア家なんて名前で中華をご馳走されるギャップがちょっとおかしいが、ゲームを作った製作者は特に何も考えていなかったと思われる。
「ははは!良い食べっぷりじゃないか冒険者たちよ!」
「ミサトを助けてくれた人たちだもの。E級からもっともっとのしあがりなさいね!」
サファイア家の当主夫婦はとても良い人であり、気安く話してくれるような者である。
こういう大人の人に歓迎されるのが、心に沁みる……。
しかし……。
「食事くらい静かに出来ないのかしら。野蛮人ね、野蛮人」
「あ、姉上!客人まで毒舌に巻き込むのやめてください!ごめんなさい、悪気はなくてこれは彼女の素なんです!」
「でも、私は野蛮人でもユキさんたちに感謝してますよ!」
「野蛮人呼び……」
姉の口の悪さと、ミサトちゃんのナチュラルな口の悪さはどうにかならないだろうか……。
長男君以外、この両親の血を引いていないのではないのかとすら思えてくる。
「口が悪い単細胞には慣れているので大丈夫ですよ」
「あ?なんか言いまして野蛮人殿?」
「その言葉使いが知り合いの単細胞先輩に似ていたものでして」
プライドも眉をピクピクさせながら、ミサトちゃんの姉をわざと煽るように言葉を吐き出す。
もしかしてだけど、その単細胞先輩はレインかなぁと予想が付いてしまう。
「米粒が立っていて、ご飯すら美味しいですねユキさん!」
「呑気だなぁ、リディ……。意外とお前大物だよな……」
「将来ボクは騎士になる女ですから!」
プライドの隣に座っているリディは煽り合いには一切我関せずな態度を貫いていた。
リディはリディで野蛮人の思考に近いかもしれない。
「ははは!癖のある子供たちとも打ち解けたようだな!」
「お父様の目にそう映るなら腐っているだけですわよ」
「それだけ軽口叩ける間柄はもう仲良しよ!」
「はっ!」
ミサトちゃんのお姉さんは気に食わなそうにゆっくり食事に戻った。
「なんだったら1日くらい我が家で泊まっていきなさい。当然お金も要らないよ」
「ありがとうございます!是非泊まらせてください!」
「勝手に決めるなよ」
「良いじゃないですか。宿屋より良いベッドで寝れるんですから!」
リディにはお姉様の帰れの目に気付かない鈍感のようだ。
「まるで乞食ね、乞食」
ぼそっとお姉様が不愉快そうに呟いたのであった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます