46、男の子は無駄にドラゴンに憧れる

「むむむ……。人のことを馬鹿にしてからかう奴め……。不快だなああいう輩」


10歳程度の子供とはいえ、複数人で女の子をからかっている状況に怒りを示すプライド。

「さすがプライドさんです!」と同じ様なシチュエーションで助けられたリディが応援している。


「人のことを馬鹿にしてからかうって、それプライドがずっと俺にしてる……」

「わたしのはユキへの愛ゆえにお前を虐めたくなるだけだ」

「愛を口実にすれば全部免罪符にはなるとは思うなよ」

「け、喧嘩はやめましょうよ!」


喧嘩というよりは軽口の延長上だが、リディに止められたら俺もプライドも口を閉ざす。

俺以外にはプライドは紳士なのにどうして俺だけこうなった……。


『お前は出来損ないの子供なんだよ!』

『才能なーし!』

『やーい!ピーマン女ぁ!』


男の子3人からからかわれている女の子を見ながら、好きな子の気を引きたいだけなんじゃないかとも考えてしまう。

特に前世の小学生なんかにはあるあるな光景である。

それこそプライドの言う『愛ゆえに虐めたくなる』現象ではないだろうかと思うと微笑ましくなる。


「3対1なのも卑怯だし、男数人が女の子1人にキバを向けるのも許せませんね!」

「出会った時のE級冒険者から冷遇されていたリディより絡まれているのが1人多い構図だな。幼い時から弱い者虐めを覚えたらろくな大人になれないぞ」


しかし、ウチのパーティー2人の女子にはそんな男の子の気持ちは伝わっていなさそう……。

3人みんなが女の子を大好きとは流石に思わないが、1人くらいは混ざっているのではないだろうか……。


「ひっどぉぉい!私だって本気出せば強いんだからぁ!」

「なら勝負しようぜ!」

「僕たちが本当の魔法見せてやるよ」

「今日は氷魔法出そうとしてニンジンでも出すのか?ほら、来いよ才能なしピーマン女ぁ!」


特にリーダーっぽいピーマン女呼ばわりしている子なんかは女の子に気がありそうな男の勘が冴え渡る。

この辺りで本来であればカスミが乱入するシナリオが起こるのだがどうするのかとドキドキしていた時だった。


「おい。女の子1人相手に男が3人寄ってたかるとは許せんな」

「ボクも虐めは許せません」

「…………え?」


プライドとリディが正義感を振りかざし女の子に割り込む形で乱入していた。

リディはともかくプライドさん……?

あなた、死亡フラグに愛された悪役の騎士なのにめっちゃ男前ですやん!と褒めてしまう自分と、男の子の気持ちを察してと戸惑う自分で天秤が揺れていた。


「こっちは4人いますよ!4対3で逆転しました!」

「ってちょっと待てや!?勝手に乱入してなんなんだよおまえら!?」

「しかも大人2人いるのずりぃだろうが!」

「そっちの弱そうな白猫みたいな白髪男ぐらいなら認めるが大人はずりぃって!」


しかし、乱入したプライドとリディは大顰蹙を買ってしまっていた……。

というか、何故か俺も巻き込まれているし……。


「ならユキ1人で君ら3人相手にするぞ」

「え?俺が戦うの?」


プライドが勝手に話を進めてしまっていた。

いやいや、こんな1まわりも小さい子ども相手に俺が大人げなく戦わないよ……。


「なんだよ!そんなゴブリンにレ●●されていそうで大事なところに毛も生えてなさそうなショタ1人が僕らマジックドラゴンズの3人相手に戦えるのかよ!」

「うけるー!まだおねしょとかしてそー!」

「俺たち3人最強のマジックドラゴンズに1人で勝てるわけねーだろ」

「うっせ!ぶっ殺すぞこの野郎!」


男の子を微笑ましく見ていた気持ちが一瞬で覚めた。

今からこいつらを地獄送りにしたくなり鉄の剣を抜いてしまった。


「プライドさん?マジックドラゴンズって彼らのどの辺にドラゴン要素があるのでしょうか?」

「男の子はドラゴンって単語が好きなんだ。騎士にもそういう輩は多い」


やめてリディ……。

小学生時代にドラゴンの裁縫セットを買った俺に痛恨のダメージが入るから……。


「あ、あの……。あなたたちは……?」

「あ?ボクたちは『プライド愛で隊』パーティーの冒険者です!」

「その名前を名乗るな」


俺の後ろで変な漫才が始まってしまったが、俺はマジックドラゴンズなる3人組とシリアス顔で対峙している。

「へっ!バーン最強の3人組とは俺たちだ!」とピーマン女と煽っていたリーダー格の男の子は勇ましく名乗りを上げていた。


「いくぞみんな!魔法用意!」

「──遅い」


しかし、かなり隙だらけだったので彼らが魔法を唱える前に、俺は一気に3歩踏み込み彼らの胴体より下を狙う。

シュッと剣を振るってズボンを切り裂いていく。

結果、マジックドラゴンズの3人全員が白いブリーフを露出することになる。


「は、はぇぇぇ!?」

「う、嘘だぁぁぁぁ!」

「か、母ちゃぁぁぁぁぁん!」


みんなは恥ずかしくなったのか、ブリーフを手で隠しながらマジックドラゴンズは立ち去っていった。

流石に俺より年下の子たちをゴブリンみたいにバサバサ殺すわけにも行かないので軽くあしらうことにした。

男の毛がまだ生えてないとかコンプレックスに踏み込んできた報いはこれで十分ではないだろうか。

鉄の剣を鞘に収めるとリディからパチパチパチと拍手が送られた。


「カッコいーユキさん!」

「あ、ありがとう」


マジックドラゴンズ。

魔法の才能よりも俺を的確に傷付ける煽る才能の方が驚異だったぜ。

おねしょなんかしてへんよ、と文句も直接言ってやりたかった。

とりあえず虐められたことはこれで解決しただろうか。


「あ、ありがとうございます!ドラゴンマジックズは私をよくからかったりするので嫌っていたので追い払ってくれて清々しました」

「結構毒舌だね!?あと、ドラゴンマジックズじゃなくてマジックドラゴンズって名乗ってたよ」

「ださいしキモいので名前覚えたくないです」


10歳程度の女の子から散々な名前の評価をされていたようだった。

そういえばこのキャラクターの家族は結構毒舌だったかもしれない。


「私の名前はミサトです。助けてくれたお礼をしたいので家に来てくれないでしょうか?」

「え?い、家にですか?」

「はい!是非冒険者のあなたたちにお礼がしたいのです!あとお父様に軽く『ドラゴンマジックズに虐められていた』って報告して欲しいです!」

「ちゃっかり者だな!」


お礼よりもそっちがメインにしか聞こえなかった。


「バーン名物の美味しい春巻きやしゅうまい、肉まんなどでもてなしますよ」

「是非お礼をしてください」

「肉まん……。最高じゃないか!」

「美味しい春巻き食べたいです!」


こうして全員の利害が一致した瞬間であった。

ミサトちゃんの案内で、彼女の家に向かうシナリオが発生したのであった。

これが『サファイアの証』が関わるシナリオだから是非ともミサトちゃんとかコンタクトを取らなくてはいけなかったのできちんとゲームのルート通りに進行できているようだった。

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