45、知らない土地の食事を楽しみにする
「証を守る旅ですかー。大変ですねー」
中性的な顔をしているリディがにへらぁと他人事のように笑う。
なんとなくだが、ニュアンス的には伝わったようで一安心である。
「じゃあボクもユキさんとプライドさんの力になれるためにがんばります!」
「大丈夫なのか本当に?」
「レベルが12になってボクも自信が付きました!今ならゴブリンキングくらい1人で討伐出来るくらい元気です!シュッ、シュッ!」
弱々しいシャドーボクシングのパンチを披露するリディ。
ゴブリンキングどころが、ただのゴブリンにすら返り討ちに遇いそうなくらいにへなちょこパンチである。
「そうか。ちょっと待ってろリディ」
「え?なんですか?」
「ピィィィィィッッッ!」
プライドが左手の指で丸を作り、指笛の要領で大音量を辺りに撒き散らす。
指笛の仕草をしただけで嫌な予感が過った時だった。
『グフッ!グビッ!グヒヒヒヒヒヒッ!』
ノソノソと巨大なゴブリン──通称・ゴブリンキングが血に飢えた声と、血走った眼を向けて現れた。
突然のロック鳥と同じであるボスランクモンスターの登場に俺とリディは言葉を失った。
「さ!レベル12になったリディの力、わたしとユキに見せてくれ!」
「え?ボク1人で……?」
「あぁ。エリィィィトな騎士になるにはゴブリンキングなど単独撃破出来ないと話にならんぞ」
「ボクは騎士になりたいだけで、エリートなんか目指してないんですよぉぉぉ!」
『ぎぃぃぃぃぃ!』
「あ、ボク死ぬ」
鉄の剣を握り特攻していくリディ。
いつぞやのゴブリン1体に死にかけた者の動きとは思えないほどにヒットアンドウェイが上手になっていたが、いかんせん攻撃の火力は全然ダメだった。
チクチクとコンクリートを割りばしで叩いているかのような手応えのない音があまりに虚しい。
「騎士を目指すなら上を目指す。騎士の道は険しい」
「多分リディはエリィィィト騎士じゃなくてエンジョイ勢の騎士になりたいんだよ」
「なんだよエンジョイ勢の騎士って!そんなファッション騎士みたいな軟弱なもの、本物の騎士にはないんだよ!」
騎士のことになるとガチになる鬼教官プライド。
あまりにも見ていられなくて、俺が簡単なバフと割り込みを駆使して2人に割り込んでいく。
20分ほどかかったが、リディの剣でゴブリンキングの心臓を突き刺したことにより勝利を抑える。
「あ、1レベル上がりました……」
順調にリディのレベリングは進んでいく。
単独ユニットだとまだまだ弱いリディだが、俺のバフなどの応援あり状態でどうにか動けるくらいには成長を見せた。
「指笛でゴブリンキング呼び出すなんてあんまりですよプライドさん……」
「いや、わたしも普通のゴブリンが来ると思ってたから意外と予想外だった……」
指笛スキルは強制的にモンスター1体を誘きだすものである。
レアモンスターのエンカウント率が1割上がる効果があるとはいえ、まさか最初の1回でそれを引き当てるプライドは中々凄い。
いや、もしかしたらリディの強運スキルがプライドに伝染しているのかもしれない。
「ぅぅ……。なんでボクはこんなに運が悪いんだ……」
今回は悪い意味で強運スキルが発動したのかもと考えてしまった……。
ゲームではゴブリンキングの登場は経験値が美味しいのでラッキーになるが、この世界の住民はレアモンスターのエンカウントがラッキーに繋がるわけじゃないのも面白いところだ。
そんな3人旅を続けて3時間歩いていると、バーンの街に到着したのである。
「うわぁ!魔法が盛んとかワクワクですよ!」
3人みんなでE級冒険者のライセンスを提示して、バーンの門を潜っていく。
この3人はプライドこそ魔法は使えるが、得意は剣と鞭である。
全員の得意攻撃が物理、物理、物理とアンバランスな性能をしているのでここらで魔法を使える人を仲間に入れたいところである。
『さあさあ!見てって!見てって!口からファイヤー!』
『おぉ!すげぇ!』
門の入り口付近では魔法が得意そうな兄ちゃんが口から炎を吐き出したパフォーマンスをしている。
それを新人冒険者たちが拍手をして盛り上がっている。
因みにあのパフォーマンスをしている兄ちゃんもパーティーに入れることの出来るスカウトユニットなのだが、特に強みという強みがない。
あまり損得勘定でパーティーメンバーを決めたくはないのだが、目立ちたがり屋のタンクでありながら紙耐久という性能と能力が噛み合わない残念さもあり声を掛ける必要は無さそうだ。
「確かにあの炎の魔法も凄いかもしれませんが、『鎌鼬』でバリアウォールにヒビを入れたプライドさんに比べると見劣りしちゃいます……」
「きゃはははははは!エリィィィトだからなわたしは!」
褒められるの大好きプライドはリディの持ち上げに嬉しそうに高笑いをしている。
舎弟の関係がすっかり出来上がったようで何よりである。
「とりあえず食事にしましょうか。俺、お腹空きました」
「ふふっ、そうだな」
「3時間歩きっぱなしでしたからね」
ゴブリン軍団にゴブリンキングの討伐によりそこそこにゴールドが手に入り、みんなホクホク顔であった。
リディが「バーンでは春巻きが有名らしいです!」というグルメ情報をいただき「春巻き!」と俺とプライドが目を合わせて歓喜した。
そう言われると春巻きが食べたい口になる。
「トロッとろのあんがすごく美味しいらしいんですよ。ボクも楽しみです」
「あんが美味しいのか。ふふっ、それなら絶対肉まんも旨いの確定だな」
「はい!肉まんも食べちゃいましょう!」
肉まん大好きプライドセンサーも光り、3人が春巻きと肉まんに思いを寄せていた。
「どこにしよっか!」なんて言いながら知らない街をまわるのに楽しさを感じていた時だった。
『お前の家、魔法凄い家なんだろ?なのに、なんでお前の魔法はダメダメなんだよ!』
『だ、ダメダメじゃないもん!ダメダメじゃないもん!』
複数人の子供に囲まれて、泣きそうになっている女の子の声が耳に届く。
明らかなトラブルに、プライドもリディの足も止まる。
『私だって魔法凄いの出せるもん!』
『無理だーって!だってレイトの魔法絶対失敗するじゃん!』
『炎出すって言ってピーマン出したのは傑作だよなぁ!』
俺よりも小さい8歳から10歳くらいの子供の喧嘩が目に入り、みんなで何事かと観察してしまっていた。
「ボクも同じく馬鹿にされる側だったから女の子の気持ちわかります……」
リディの同情する声を聞きながら、『あれ?これ本編ルートじゃない?』とバーンでのシナリオが始まったのに気付いてしまったのであった。
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