43、水分に飢えたプライド

見知らぬ女冒険者の命を助けることに成功して、傷も癒せて一安心する。

バリアウォールは結構お値段がする高級アイテムなのだが、人命をアイテムや金で解決出来るなら安いもんだ。


それから、単純にウォーミングアップ代わりにゴブリンやクモ型モンスターであるビッグスパイダーなどを狩りをしていた。

トータル20匹も討伐を終えると額からうっすら汗が滲みだして、切り上げ時と見極める。


「そういえば、毎月カスミと冒険者ごっこをしていた日が今日になるのか」


彼女とアークの森に潜ったのが1ヶ月前。

雨の日にカッパを着てずぶ濡れになりながらレベリングしたっけな……。

カッパの内側にも雨の水が侵食してしまい、カスミの白い服からピンクのブラが浮かんだ時は本気で目が泳いだんだよね……。

懐かしい感覚だ……。

カスミもサキお姉ちゃんも元気にしているかな……?


「そうだ!アーク村に戻る時はカスミのお土産たくさん準備しないとな」


田舎なアーク村には売っていないマカロンが食べてみたいってよく口にしてたもんな!

2人で本物の冒険者になったら船を買って一緒に旅しようなんて夢も語りあった。

まだ船を買う資金なんかあるわけないけど、真珠のアクセサリーとか贈りたいな……。

カスミとやりたいこともたくさんある。

プライドと同じくらいに、カスミが大事な人なんだと離れて痛感させられる。


「待っててくれよな相棒……」


アーク村にいる彼女を思い出しながら、宿屋までの道のりを引き返していき、店主と顔を合わせる。

宿屋を歩き、部屋の前のドアをガチャと開けると「子供は元気だな」とベッドに座ったプライドに出迎えられた。


「プライドもリディも中々目を覚めないんだもん。丸2日くらい眠りっぱなしだったぞ」

「そ、そんなに眠っていたのか……」

「プライドと夜の営みが出来なくて昨日はムンムンとしてたよ」

「ば、馬鹿!起きていてもそんなに毎日するわけないだろ!」


俺も丸1日半意識を失ってたらしいけど……。

それで暇だったから散歩がてらのトレーニングをしていたら赤い髪の冒険者のピンチに遭遇していた。

なんとなく見覚えのある気がする顔であったが、特に誰だとはならなかった。

1番該当していそうなのが悪役プライドの部下の騎士として登場するリーゼロッテに似ている気がしたが、そもそもあそこで死にかけるシチュエーションが有り得ないし、騎士の格好じゃなかった。

リーゼロッテに似ている女冒険者だったと思われる。


「長めに部屋を取っていて良かったな……」


3日間と長めに宿を予約したのは正解だった。

3人部屋に宛がわれていて、まだ奥のベッドではリディがすやすや眠っていた。

流石にもうちょっとで意識は回復するだろう。

レベルアップ酔いもそろそろ消える頃だと思われる。


「う……。喉が渇いたな……」

「喉どころか腹も減ってるでしょ」

「いや、空腹よりは渇きの方が強い。今すぐなにか飲みたい」

「水もらってこようか?」

「今すぐと言っただろう。ユキが水もらって部屋に戻る頃は身体の水分無くなって死ぬ」

「絶対死なないよ」


あと100秒経ったら枯れて死ぬ人間には一切見えない。

お嬢様のようなワガママなところあって可愛いと吹き出しそうになる。

しかし、笑われるのを察したのかはわからないが「おい、ユキ」と名前を呼ばれてドキッとする。

「どうしたのプライド?」と、顔色を伺うようにして目を合わせると、「わたしに近付け」と指名される。

「ん?」と意味がわからないままプライドが座るベッドに近付いた時だった。


「こんなところに美味しそうな塩水があるじゃないか」

「え?」


ベロッとプライドが顔から2センチほどに近付くと、額にちろっと生暖かい食感が下から上へ移動していく。

「ひぇ?」と我ながらにすっとんきょうな声を上げると、額が舐められたのだと気付く。

ナメクジが通った跡のように、プライドの唾液の道路が出来たのを感じ取ると、一気に頬の温度が上がる。


「美味しい……。わたし、塩味大好きなんだ」

「え?」


それから違う箇所の汗を舐め取っていく。

「ひゃっ……!?」と、自分の口から高い声が出る。


「なんだ、その乙女のような声は?お?こっちは乙女ではないじゃないか」

「ぷ、プライド……?」

「涙目じゃないかユキ。お前の汗全部舐め取ったが全然足りないな。まだまだ喉は潤わないな」


すると、彼女はユキのユキ君をじーっと注視する。


「あるじゃないか飲み物が。ユキ、わたしの喉を潤わせてくれ」

「ちょっ!?ちょっと!?な、なんで俺のズボンを抑えてるの!?」

「すまんな。移動する体力も、水を持ってくるのを待つ時間すら惜しい。お前のならいけるんだ」

「あああああああ!?力強い!?力強いって!?」


ズボンを下ろす力と死守する力がぶつかり合う。

されるのは良い。

だが、水分補給目的でするロマンチックのカケラもないシチュエーションは不本意過ぎる。

元騎士の強い力が、俺のズボンを下げるのを防ぐ力を上回る。

ズボンが破れるのではないかと不安になりながら抵抗していた。

プライドの目は水に飢えたハイエナの顔だ。

流石に命の危険を感じてしまい、悲鳴が止まらない。


『ぅぅん……。すごくうるさい……。なに騒いでるんです…………ええぇぇぇ!?』


部屋の奥からの違う悲鳴に、俺とプライドの必死な攻防戦は収まる。

その悲鳴の主に2人して目線を向けてしまう。


「な、なにやってんですかぁぁ!?」と、目を覚ましたらしいリディは俺とプライドの顔をみて赤くなり、口元を抑えている。


「あ、あのこれは……!?」と俺が言い訳をしようとした時だった。


「リディ、喉渇いてるか?」

「は、はい。喉渇いてます……」

「男はな、ここからたくさんの液体を出すんだ」

「きゅーーー!きゅーーー!ダメです!ダメですぅぅぅ!きゅーーー!」


それからリディは「30秒で戻りますからぁぁぁ!待ってください!」と勢いよく走りながら部屋を出て行く。

助かったと同時に、残念さも合わさり頭が痛くなる。

まだズボンを脱がされる前で良かったが、白いブリーフが半分露出していた。

それから約束通り30秒経ってコップ満杯な水を持ってきたリディにより未遂で済んだ。

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