42、天使様
リーゼロッテが彼の登場から命が助かった安堵をするまでは一瞬であった。
バサッバサッと手慣れた感じでゴブリンを蹴散らす少年。
彼女のレベルは19と、騎士団の中でもそこそこに優秀な位置にいるのに不思議とそれよりも彼の方がレベルが高いのではないかという疑問に刈られる。
「ふーっ。やっぱりこのくらいでちょうど良いよ……。こないだのゴブリンの量は異常だよ……」
ゴブリン5体の身体は消失し、汗を拭いながら少年は徒労感と一緒に達成感もまた強く感じていた。
それから察知能力を披露するが、辺りにモンスターの姿がないのを確認できると「終わりました」とリーゼロッテに話しかけた。
「ありがとうございます……」
一般市民を護るべき任を受けている騎士が、一般市民に助けられることは恥なのだがそれよりも『死ななくて良かった』という命があったことにリーゼロッテは目頭が熱くなる。
「すいませんね……。助けに来るのが遅れちゃいました……」
「いえ……。助けていただいてありがとうございます……」
「酷い怪我だ……。よくこんな酷い傷に耐えましたね……」
少年は同情するように声をかけると、「治療します!」と再び治療を買って出てくれた。
止血をしてくれるだけでありがたいと、思いながらお礼を口にする。
「ではいきますね」と少年は声をかけるが、手には治療薬も包帯もガーゼも消毒薬もない。
治療に必要な物を1つも持たないまま何をするのかと疑問に思っていると切り裂かれた腹の方に手を当ててくる。
「こんなキレイなあなたにこんな一生残る傷を残す酷い人がいるなんて……。俺にはこんなことしか出来ませんが……」
ゴブリンやガルガルなどのモンスターではなく、故意的に付けられた刃物で斬り付けられた痛々しい傷を癒すように魔力を手に集中させていく。
その彼の魔力に当てられていくと「え……?」と驚いた声を上げていく。
だんだん痛みが退いていくのがわかるし、傷がどんどん肌に溶け込んでいく。
「……『パーフェクトヒール』」
またたく間に、ビットに斬られた傷跡の痛みが無くなった。
それから足を動かせないでいたのも知っていた彼は『ヒール』を使い足も治療していく。
違和感があった足もどんどんくっついていく自覚が不思議だった。
「治療終わりましたよ美人のお姉さん」
「あ、ありがとうございます!」
「うん」
「あ……、ありがとう……」
「あ……。そっか安心したのかな。ゆっくりお休みください」
瞼が重くなっていく。
治療されたところで血が足りないので、その反動が来てしまったようで意識が落ちていく。
その白い髪の少年を見ながら何回伝えても足りないくらいの感謝が湯水の如く沸いてくる。
「あぁ……。わたくしの天使様……。プライド様亡き今、生き甲斐が無くなったわたくしでしたが……。天使様、あなたに惚れま……し……」
リーゼロッテはなにかを呟きながら意識を完全に手放した。
ただ、この天使様の顔は絶対に忘れさせないと強く頭に記憶させた。
─────
「まさか1人で探索中にゴブリンに襲われた冒険者に会うなんて……」
赤い髪の女性が意識を失ってしまったようだ。
このまま自分たちが泊まっている宿まで彼女を引っ張っていてあげたいが俺の力がないのでズルズル引きずるしか移動手段がない。
プライドかリディを呼ぼうにも、まだゴブリン軍団の疲れが癒えてないらしく目を覚まさないままだ。
カスミ1人いれば運べただけに、彼女1人をアーク村に置いてきたことは未だに納得出来ていない。
「もう少しでワープ魔法を習得できる。それからアーク村に戻ってその時に必ずカスミの親を説得させるんだ」
だが、今すぐにワープ魔法の習得は出来ない。
この女性をどうしようか悩み、アイテム欄を見ながら妙案がないかリュックを漁っていく。
すると、2つこの場に必要な道具を発見した。
「モンスター避けのお香だな。よし、これを焚いておこう。それに『バリアウォール』があればモンスターからも悪意のある人からの身を護る手段になるな」
E級冒険者がゴブリン軍団を相手に高みの見物を決め込んだ攻撃を防ぐ壁を設置すると、彼女の周り360度を守護するようにバリアが生成される。
「そうそう簡単には壊れないな」とコンコンと叩きながら強度を確認する。
本来はモンスターとの戦闘時に死にそうになっているユニットを攻撃から守るバリアの役割を果たしている。
こちらから攻撃魔法を放てなくなるし、剣も振れないデメリットもある。
しかし、回復魔法やバフ、デバフは使用可能なので後衛を狙われないような運用方法が基礎だ。
「よし、大丈夫だ」
プライドの風魔法『鎌鼬』が異常な威力だった。
5回から10回の攻撃を防ぐバリアを1回の魔法でヒビを入れるのがあり得ない。
そういうところがエリィィィトなんですよ。
本当にプライドは素敵、素敵、素敵!
「それにしても美人だなぁ……」
よく起きている姿は見えなかったが、目を瞑り眠っているだけで美人なのがよくわかる。
薄着のシャツ1枚しか着てなくて、胸がはみ出ていて目のやり場に困る。
ど、どうせなら胸のはみ出しを直してからバリアウォールを貼るべきだったと順番を間違えた。
壁に覆われた彼女に触れるには、自分で貼ったバリアを自分で壊さなくてはならないので仕方ないのでそのままにするしかない。
「では、さようなら。元気で生きてくださいね」
プライドやサキと近い年齢そうな赤髪の女性にお別れを告げて、俺は再びソロでのモンスターの狩りに戻るのであった……。
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