38、『運気回収』

リディオリジナルの可能性を秘めた力。

強運スキル。

リディを仲間にすることによるメリットの大半は強運チャートを組むことを推奨されるほど、彼女の代名詞である。


「す、スキル覚えました!『運気回収ラッキーごうだつ』です!」

「来たか、『運気回収』!」


リディがモンスターを狩れば狩るほど、運を奪っていくスキル。

運気を上げていくと、ドロップ率上昇に獲得ゴールド上昇、経験値上昇するのは当たり前。

クリティカル率や、弱点攻撃を当てていないのに弱点を付くなど色々な恩恵がある強運スキルの基本スタイル。

しかし、完全開花するのに時間が掛かりすぎるし、運以外のステータスは並み以下なので大器晩成型でもないという評価に困るユニットだ。

俺の『ハートソウル』はやり込み寄りのプレイではなく、プライドを見ていたいだけのイージーモードで分岐回収して満足するタイプであった。

必然的にリディはお荷物なので、仲間にはしなかったなぁ……。

ただ、リディとプライドの絡みもちょっとだけあったのでそれだけのために仲間にしたプレイもあったが、リディが育ち切る前にクリアしたっけな。


しかし、ここではゴブリンが大量にいる。

やり込みガチ勢が使用するリディの『運気回収』の火種くらいにはなって欲しいところだ。


「使いますよ!初魔法です!ら、『運気回収』!」


白い魔力の塊がリディを包み、俺とプライドを鎖に繋げる。

「なんだこれは!?能力強化のバフ機能か!?」とプライドが驚きの声を上げた。


「いや、この鎖に繋がれても一切パラメーターは上がらない」

「ご、ゴミ能力じゃないですかぁ!何に必要なんですかこの魔法!?」

「自分の能力をゴミなんて言うもんじゃないぜリディ。素晴らしい能力だよ」

「えっ……?ユキさん?」


強運スキルに振ることで、リーダーを引く確率を上昇させる。

全員でゴブリンを狩れば狩るほど彼女の強運スキルを底上げさせる。

チャートポイントを振る以外にも、スキルが成長するバグみたいな能力だ。

ゴブリンの絶対数も減るし(ヘイトが溜まり増えるらしいが……)、運気も上がることで確率操作を少しでも有利に働かせていきたいところだ。

ゴブリン討伐をしながらの説明なので途切れ途切れではあったが、2人に説明をすると頷いてくれた。


「まったく……。今すぐゴブリン退治が終わるわけじゃなくてまだまだ狩り続けろとはわたしの彼氏は亭主関白だな」

「すいません……。もうちょっとだけ頑張っていきましょう……」

「もうチマチマは抜きにしよう。プライド、頼む」


プライドのとある武器を投げ渡す。

ゴブリンが奪おうと手を伸ばしたのを、彼女が顔面パンチでぶっ飛ばした。


「ノーコンかお前」

「わ、わりぃ。『アッパー』、このバフで許してくれ」

「わたし愛用の鞭か。確かに範囲攻撃なら剣より鞭よな」

『ぎっ!?』

『ぎぃぃぃ!』


──シュン!

気持ち良さそうに鞭を振るうと、ゴブリンの首が一気に5つ飛び散る。


「い、今ので鎖越しに不思議な力が一気に集まったのを感じました!…………え?その鞭……?」

「ぼやっとするなリディ!」

「うわぁっ!?」


鎖の発生源のリディに噛み付こうとしたゴブリンにガルガルの牙を投擲する。

醜いゴブリンの悲鳴が情けなく響いた。

それからの俺は、攻撃しながら回復とバフと魔力回復アイテム使用の流れ作業に徹する。

プライドが鞭や魔法攻撃の攻撃役。

リディは運気を貯める作業を延々と繰り返していく。

それから全員で3時間ほど耐え抜き、400弱は倒した頃だった。

その頃になると、ゴブリンは増えるのが遅くなり800体ほどと多少の終わりが見えてきた。

リディだけでなく、俺もプライドも淡々と経験値が溜まってきてレベルアップが数回続いていた。


「あ……!」


リディの驚きの声で一気に戦況が変わりはじめる。

俺とプライドを繋げていた鎖の色が黄色に変化してきた。

400体前後のゴブリンの運気が、リディに集まってきた証拠である。


「今なら行けそうな気がします!アレがリーダーという直感がありました!」


リディがそう言うと、何体かのゴブリンを無視して、ずんずんと俺に駆け寄ってきた。

それから俺の距離を10歩ほど歩いた距離にいたゴブリンに鉄の剣を突きつけた。


『ぎぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ!』


そのゴブリンの絶叫は誰よりも大きかった。

剣を握ったリディは不快そうに目を瞑っていた。

その絶叫が起こると同時にゴブリン軍団は闘争心を失ったかのように焦燥感に満ちた顔になり俺たちから背を向けて逃げていく。


「や、やりましたぁぁぁ……」

「よくやったリディ」

「あへぇ……」


リディが倒れそうになったのを俺が胸でキャッチする。

小柄な彼女とはいえ、それでも俺よりは高い身長のリディを支えるのは地味に大変だった。


「す、すいませぇん……」

「気にするな。お前のおかげでゴブリンのリーダーを倒せた。誇れ」

「は、はい!」

「俺を信じてくれてありがとう」


心からのお礼を述べると、プライドも「どんなミッションよりも疲れたぞ……」と身体が地面に吸い込まれるように落ちていき、尻餅を付く。


「結構ゴールドも溜まったし、ゴブリンのこん棒やら耳などのドロップアイテムもたくさんあるな。拾ってくるからプライドとリディは休んでいてくれ」


せっかくのゴブリン討伐報酬を1ゴールドも取りこぼすことのないように拾っていく。

色々と金策もまた出来たわけで、終わってみると結果オーライである。


「うわっ!?ボクのレベル18になりました!」

「65レベルか……。1戦闘で3レベル上がったのか……。無茶苦茶だ……」

「65!?え!?プライドさんそんなにレベル高いんですか!?」

「反応が遅いな……」


突っ込む気力もなさそうにプライドはしんどそうにしている。

俺は単独やカスミで群れに突っ込んではレベルを底上げすることが多いが、この世界の人たちは低レベルの人がレベル1上げるのに1週間かかるのが平均的らしいのでいかに俺のレベリングが異常らしいかが伝わってくる。

やってることはゲームと同じである。

この世界の人々はレベル1を上げるのに時間掛けすぎだなぁという印象である。

プライドのような高レベルになると1ヶ月でレベル1上がるかどうかのようだ。


「どうする?サラグスに戻るか?」

「あ、大丈夫ですよユキさん。すぐそこに休める集落があります。そっちに進む方が近いですよ」

「そうか。ならそうしようか……。ただ、もう少し休ませてくれ」

「あぁ、本当にな……」


草原に俺たち3人がぐだーっと倒れ込んだ。

一応モンスターが襲ってこないように、気配を消すアイテムのお香を炊いておいた。


「ぷ、プライドさん!」

「どうしたリディ?」

「そ、その鞭なんですけど……」

「あ。そういえば使わないようにしなくてはいけないんだったな。返すユキ」

「わかりました」


プライド愛用の鞭を受け取り、リュックに仕舞う。

その様をじろじろとリディが視線を送ってくるのを感じる。


「どうしたリディ?さっきからわたしの鞭が気になるみたいだが……」

「い、いえ!なんでもないです!」

「?」


こうして、俺たちの地獄のようなゴブリン軍団戦は終わりを迎えた。





しかし、原作には存在しなかった更なる悪意が、俺たちの預かり知らぬところで蠢きはじめたのを誰も知る由がなかった……。

もはや、原作の展開なんかぐっちゃぐちゃに捻れてしまっていたのだ。


それは、騎士たちにも。

王たちにも。

──カスミにも伝染していた。

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