36、VSゴブリン軍団
『
食い止めなくてはいけなかったのに、見付けた瞬間にノータイムでヘイト魔法を使いやがった……。
主人公のユキは覚えられないヘイトのチャート。
敵の攻撃対象を自分に向けたりなど、サポート向けの魔法。
決してモンスターの大軍を人に向けて放つような用途のヘイト魔法じゃない。
しかも『大量発生』は、本来かなりレベルが育たなければ使えない上級スキル。
ドロップ率やエンカウント率の低いモンスターを大量発生させて、数をこなして狩り続けるような役割がある。
ゴブリンなんて簡単にエンカウントするモンスターに使ったら大軍になって襲いかかるに決まっている。
バカなのか、あいつは……!?
何を考えているんだっ!
人の才能によって使える魔法が変化するとはいえ、レベル7程度の冒険者が覚えられるようなモノじゃない。
リディを追い出したE級冒険者がまさかヘイトの才能ポテンシャルのスペシャリストだったとは……。
最悪だ……。
「に、に、逃げましょう!?」
「逃げ場なんかどこにあるんだよ……」
「そんな……」
リディが絶望したように周りを見渡す。
360度。
ぐるっと辺り一帯をゴブリンが囲んでいる。
『な、なぁ……?ヘイトチャートを上げて最初に覚える魔法にしては威力高過ぎないか……?』
『こ、これ初級魔法じゃないのか……?』
『こ、このバリアウォール壊れたら俺らもヤバくないか……?』
リディを追い出したE級2人もバリアウォールの内の360度を囲った壁内でパニックを起こしている。
効果がわかってないなら魔法なんか使うな、バカがっ!
前世での機械音痴の上司が一切スマホを使いこなせないくせに新機種買ったとかそういう話の現場を目撃した気分だ。
そもそも『大量発生』なんて、クリア後のやり込みオンライン勢くらいしか使わないんだよ!
「この調子なら30秒もしたらゴブリンと衝突するな」
「プライド……?」
彼女は計算していたらしく、泣き黒子のある左側の髪をかき上げる。
そうか、こっちにはレベル40越えのエリィィィト騎士のプライドが居たんだったな。
「ユキに1つ面白いことを教えてやろう」
「な、なんだ?急に……?」
「圧倒的な格上に格下が勝つには量を揃えろ」
「…………は?」
「終わったな……。ゴブリンを『大量発生』で呼び出したら1000体は来るだろう……。わたし単独では100体までしか実践したことないぞ。そもそも1000体のゴブリンが襲うシチュエーションなんかしたことない……」
「諦めんなよぉ……!」
渋い顔をしながら、プライドは諦めたように俯く。
そりゃあ俺だってカスミと2人っきりの狩りでのゴブリンの群れだってせいぜい30体までしか遭遇しなかった。
桁外れなゴブリン軍団が山ほど近付いてきていた。
「生きるためにはやるしかないだろ!?『アッパー』、『アッパー』」
プライドとリディのステータス値を上げるバフ魔法を展開する。
「ふふっ!ユキの魔力がまたわたしに入ってきたか。未来の旦那からお膳立てされればやるしかないじゃないか!」
「ご、ゴブリン1体で死にかけたボクにあんまりの仕打ちだぁぁぁ!?」
「やるしかないんだよリディ!それに装備の見直しをしたんだ。バフだってかけたんだからさっきよりはまともな筈だ」
「や、やります!やりますよ!」
「全員の武器にもバフ使うぞ。『ウェポンアッパー』!」
プライドの『ディアナ』とやりあった木刀の武器強化バフも2人に重ねがけする。
俺にも使ったことにより『ウェポンアッパー』3回ぶんの魔力も減っていく。
「くっ……」
回復や死者蘇生に魔力を回せるか微妙なところだ。
この5回ぶんのバフ魔法を無駄にしないためにもゴブリン軍団を極力回復なしで乗り切るしかない。
「おい、そこのクズ2人」
『ひっ!?』
自分の仕出かしたことに後悔しているE級冒険者2人にプライドは目を向ける。
ぶっちゃけバリアウォール1個程度でゴブリン1000体を守れるほどに壁は強固じゃないのはみんな察していた。
「そんな薄いガラスのような壁、壊れるのは時間の問題だ」
『ひっ!?』
『ひぃぃぃ!?』
プライドは彼らのゴブリン軍団に怯えているところに脅しをかけている。
サディストらしく、虐めて楽しいという……ようするに『わっっっるい顔』だ。
「『
プライドが低級ランクの風魔法を使用して、指先から風の刃を放つ。
すると、簡単にパキッとヒビが入る。
『ば、ば、バカっ!お、お、俺らを殺す気か!?』
「こんな薄氷のようなバリア、あっても無くても高みの見物など到底出来んだろうに……」
『しかも、俺は利き手がガキのせいで使えないんだぞ!?』
「きゃははははは!加害者が被害者ぶるとは恐れいったよ!良いじゃないか、今からわたしたちはあのゴブリンの大軍に一緒に殺されるのだから」
『ひぃぃっ!?く、来るなぁぁ!?』
プライドがサディスティクに笑うと、もうすぐ側はゴブリンが津波のように走ってくる。
強制的に、ゴブリン軍団との戦闘を余儀なくされる。
「うわっ!?ど、どうしましょうユキさん!?」
「もう切りまくるしかねーよ!」
俺もリディも攻撃魔法は一切使えない中、肉体と握った剣だけが頼りだ。
「プライドもリディも生きろっ!怪我したら俺が癒す。だから、何も考えずに剣を振り続けろ!」
『ぎぃぃぃ!』
「どけっ!」
ゴブリンの胸に剣を突き刺すと、身体が消失していく。
しかし、1体が消えていく間に2体目、3体目と同時に攻撃されたのをジャンプしながら避けて、反撃していく。
「い、痛いっ!?被弾しましたぁ、ユキさぁぁん!」
「攻撃を予測するんだリディ!こんな単調な攻撃10回みれば誰でも避けられるからっ!」
「わ、わかりましたぁ……」
泣きそうなリディと、淡々とゴブリンを処理していくプライド。
彼女はリディのお守りを俺に押し付けた変わりに、バッタバタとゴブリンを蹴散らしていく。
ダンスでも踊っているかのように、プライドの動きは洗礼されたものだった。
『ぎぃぃぃ!ぎぃぃっ!』
「こわっ!?壊れたじゃねぇか!?」
「あの女が『鎌鼬』なんか放ったせいで……!」
「お前が変な魔法使ったせいだぞ」
「ふざけんな!お前もノリノリだったじゃ……、ぎゃああああああ!?」
仲間内で言い争っていたヘイトの魔法を使った男が背中からバコンと殴られる。
『ぎぃっ!』と彼を仕留めたゴブリンが口を開き俺が怪我をさせた右腕に噛み付いていく。
「ぎゃああああああ!?だ、だずげっ……!?」
「があああああっ!?」
E級の先輩らは、バリアウォール内で武器も携帯していなかったのが災いしてゴブリンから格好の的にされる。
「おい、慌てずに振り払えっ!」とアドバイスを送るも聞こえていないのか、無抵抗なまま2人共ゴブリンに食い散らかされていく……。
「クソッ……。退けっっ!」
回復魔法が届かない位置にいて回復も出来ない。
死体が残らなければ死者蘇生もできない。
彼らを助けることは、もう無理に近かった……。
「うっ……。惨いな……。ゴブリンに食べられて死ぬのなんかわたしはまっぴらごめんだぞ……」
「ダルさん!?オサムさん!?た、助けにいきっっっ!?ぐあっっ!?」
「リディ!?クソッ、『ヒール』。プライドもなるべく俺から離れるな!常に回復が届く位置にいてくれ!」
「そもそもお前が大好きだからユキから離れないさ!」
「ありがとう!でも今は喜ぶ余裕ないんだよ!」
質量の差に3人だけではどうしようもない。
絶体絶命の危機に瀕してしまっていた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます