35、『大量発生』

リディの惨状は悲惨だった。

本当にゴブリン1体しか居なかったのか?と疑問視したくなるくらいに身体がベコベコとへっこんでいる。

血もびしゃびしゃと飛び散っており、なんかもう騎士とか以前の問題である。


「痛いよぉぉぉ!いだい、いだい!死ぬぅぅぅ!」

「多分わたしらがリディを見捨てたら死ぬか、盗賊に身ぐるみ剥がされたりとかされそうだな……」

「死にたくないですぅぅぅ!」

「男なのに情けないぞリディ」

「プライドさんは勘違いをしてますぅー……」


足の骨をゴブリンに折られたようで、身体が起き上がれないくらいに重傷化している。

ゲームではもうちょっとまともに戦えるキャラクターな筈なのに、現実のリディは本当に能力が低い。


「勘違いだと?」

「ぼ、ボク女でーす……」

「…………は?」

「『おい、そこの木偶の坊。何故、彼が騎士になれないと言い切れる!お前は騎士かっ!?』の場面からずっと勘違いしているみたいですけど、女なんですよ……」

「だから、いちいちそこだけかいつまむのやめろ」


リディの性別についてカミングアウトしちゃうんだ……。

中性的な見た目と、女にしては低く男にしては高い声をしていて判断に迷うがリディは女である。


「おい、ユキ……。お前、リディが女と知っていたか?」

「最初から」

「なん……だと……?」

「リディを彼とか男とか呼んでるプライドを見て勘違いしてるなぁと面白くてずっと黙ってた」

「きちんとコミュニケーションを取ろうユキ!」

「俺はコミュニケーションより可愛いプライドが見たい」

「こういう風にわたしを弄ぶのがムカつく……!」


もう冒険なんかやめて、プライドと一緒にスローライフを楽しみたいくらいにはずっとずっと彼女と一緒に居たい気持ちが強い。


「あの……、すいません……。ボクを助けて欲しいです……」

「おっと。忘れていたな。『ヒール』」

「いちち……。あ、ありがとうございますユキさん!それにしても、ゴブリンを一撃なんて凄いですね!」

「そんな低いハードルで凄いのか……」

「ボク、まだレベル4なんです……。それに比べたらユキさんもプライドさんも凄いですよ」


回復魔法で彼女の傷を癒すと、まだレベル4という情報をもらう。

レベル5以下なので、まだ一切チャートを組んでいないのか……。

伸び代しかなくて羨ましい。


「リディ……。これは優しさだ。戦うのはやめなさい……」

「そんなにセンスありませんかぁ!?ボクもパーティーに入れてください!」

「どうするのだユキ?」

「仕方ない。リディをパーティーに入れよう。騎士になれるかはわからないが、冒険者としてリディを一人前に育てるのは出来ると思うが……。それで良いか?」

「あ、ありがとうございます!」


俺からのリディのユニット評価も散々だが、あるガチ勢は絶対に彼女を仲間にするくらいの魅力はあったりする。

ゲームプレイ時の俺には必要がなかったというだけである。

そんなわけで、新しく加入したパーティーに初アドバイスである。


「リディ、まずはその剣は外せ」

「えー!?サラグスの冒険者に大人気装備なのに!?」

「身の丈に合ってない武器なんかに頼りきりだと力に溺れて慢心する。あと、俺と同じで力ないんだから軽い剣にしな。持ってるか?」

「レベル1から2に成長した時に使った縁起の良い『鉄の剣』ならあります」

「ほう……。軽い武器という単語でよく『鉄の剣』と気付いたな」

「ボク、武器大好きなんですよ」


なるほどね……。

リディの伸ばすべき分野がだんだんと見えてくる。

俺はリディ仲間加入なんか絶対しなかったが、彼女のユニットの運用の仕方は大体わかってきた。

徹底的に、リディへ見合った装備に切り替えていく。

彼女もやはりというべきか、強い武器に質の良い防具を装備するという初心者あるあるをしてしまっている。

せめて、ゴブリン相手に剣をすかす愚行はもう2度と起きないように彼女に駆け出し冒険者あるあるを叩き込むことにする。

横から聞いていたプライドは「ユキは人を育てる力が強いかもな」と称されるが、こんなものただゲームの知識を披露しているだけだ。

褒められるようなことでもないが、褒められて嬉しいことは嬉しい。

そんな感じにリディに色々と情報を共有していた時だった。


「──っ!?」

「むっ!?」


俺とプライドは、悪意を持った視線に気付いてしまった。






─────






「おい、見ろよ。さっきのF級冒険者に、雑魚のリディまで一緒だ」

「さっきはよくも俺に恥をかかせたなガキがっ……。鉄は熱い内に打てってな。怒りがピークな今が報復には最高ってなわけよ」


右拳に2つの穴が空き、包帯を巻いた男は3人を恨むようにして自分のステータス画面を開く。


「へへっ。見ろよ、俺はステータスでヘイトにチャートを振るぜ」

「貴重なチャートポイントをヘイトに振ってしまって良いのか?」

「俺はタンク役だぜ?いずれはヘイトに振ることになっていた。それがちょっと先延ばしになっただけだろ」


大事なチャートポイントを怒りによって予定を崩してまで、まだ彼らには必要なかったヘイトのステータスを上げた男。

彼にはもう、自分に恥をかかせたユキと、原因になったリディが腹立って仕方ないのだ。

ここでスムーズにユキとリディを殺害して、残ったプライドを滅茶苦茶に犯す。

これが彼の復讐だったのだ。


「お前らはざまぁ要員なんだよ。ほら、来た!ヘイトの値を上げたことにより『大量発生マス』を覚えたぜ。魔法の使用だ!」


男が『大量発生』を使用した瞬間、ユキとプライドがこちらに気付いたように鋭い目を向けてくる。

しかし、もう魔法は止められなかった。

ヘイトの気が周囲にばら蒔かれ、もの凄い勢いで頭に血が登ったゴブリンたちが群れどころか束になって辺りに走ってきた。

数秒後には10匹のゴブリンが辺りを囲んでいる。


「F級の雑魚3人程度でゴブリンの束なんかどうにでもなるわけねぇ」

「よし、マジックアイテムのバリアウォールを使うぜ。俺たちはバリアの中で高みの見物といこうじゃないか」

「ゴブリンに喰われて死ぬんだよ、バァァァカ!」


2人の悪意が、『プライド愛で隊』の3人に刃が向けられていく……。

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