34、リディVSゴブリン

プライドに手を握られ10分ほど。

とりあえず誰も居ない場所に着き、プライドが顔を隠したフードを取り、息を吐いて安心した。

俺は少し息切れをしているのに、それが一切ないのが負けた気がしてなるべく息切れ姿を晒さないようにする。


「まったく……。お前、ちょっとカッコ付けただろ?」

「い、いやいや……。まさかまさか……」

「あと、息切れしてるだろ。無理しないで酸素を体内に入れろ」

「はぁぁぁぁぁぁ……」

「息切れするユキは子供みたいで愛らしいな。そんな君へ、わたしから一言。……この体力のない、ざーーこっ!ざーーこっ!」

「うっ……!?」


罵倒されているのに、不思議と興奮してしまう。

身体の一部がちょっとだけムクッとしてしまった俺は末期かもしれない。


「ぅぅぅぅぅ……」


情けない。

体力もなければ、罵倒に興奮する。

気付けば嗚咽のようななにかを口にしていた。


「ただ、カッコ付けていたのが鼻に付いたが……、わたしを庇ったように前へ立ったのが格好良かったぞ」

「ぷ、プライド……!」


不意打ちでキュンとデレられる方が、心臓に悪いかもしれない……。


「とりあえずサラグスでのやるべきことは終わったな。騎士が襲来する前にこの街から発つぞユキ」

「そ、そうだね……」


武器を一新、冒険者ライセンスの入手。

とりあえず俺たちがこの街でやるべきことはもうなにもない。

いざ、『サラグスよさらば』という雰囲気で街から出るためにここから動こうと決めた時だった。


「む……?」

「ん……?」


──同時にプライドと違和感を感じたらしく、お互いに顔を合わせた。

長く美しい髪の中心にある顔に見とれそうになるが、「見られているな」と声を掛けられて正気に戻る。


「そうだな……」


俺とプライドをじろじろと見つめている気配。

あまりにも隙だらけで、殺す気のない気配にプライドへの追っ手ではないかと少し警戒心を解く。

「どうする?」と尋ねられて、数秒考えた後に「俺たちを見て何をしている?」と声を上げた。


『うわわわわっ!?バレてたんですか!?すいません!ボクなんかが不快にさせてすいません!』


その返事を出すように、慌てた高い声が聞こえてくると、俺とプライドの前に観念したように飛び出してくる。


「お前……、さっきの騎士志望の男か?」

「え?男……?」

「なにをキョロキョロしている。君だよ、君。あれからわたしたちをつけて来たのか?」

「あ、ボクですか?はい!ユキさんとプライドさんと呼ばれて応援されてましたよね。ボクの名前はリディと申します」


あれ?

庇いはしたけど、リディ加入イベントを進めたつもりは一切なかったのだが向こうから現れたようだった。

フラグ管理、どうなってんだ……?


「リディ、で良いのか?わたしたちになんの用だ?」

「ぼ、ぼ、ぼ、ボクをパーティーに入れてください!プライドさんに庇われて、ユキさんのあいつらを追っ払う姿に感銘を受けました!」

「中々見所がある少年じゃないか」

「追っ払うって……。そんな虫にすることを人相手に俺してたっけ……?」

「充分していたじゃないか」


プライドの冷静な突っ込みを喰らう。

まったく自覚はなかったが、3人中2人からそう思われたのならやっぱり俺は人を追っ払っていたようだった。


「特にプライドさんの『おい、そこの木偶の坊。何故、彼が騎士になれないと言い切れる!お前は騎士かっ!?』って啖呵を切ったシーンにボクの心に雷が撃たれましたよ!まるで憧れの騎士様に言われたようで、嬉しかったです」

「憧れの騎士様というかこの人本当に……」

「ほーほっほっほ!だってわたしエリィィィトですから!」

「ボクと同じF級ランクの冒険者なのに勇気があって凄いです!」

「え、F級ランク……。このエリィィィトなこのわたしが……。落ちこぼれのF級……」


プライドのテンションはジェットコースター並みに上下が激しいのであった。

胸を抑えて発作を起こしていた……。

相変わらず自己顕示欲が服着て歩くようなエリィィィトである。


「ボク、あなたたちのような人について行きたいです!憧れの騎士様に1歩でも近付きたいんです!ユキさん、プライドさん、お願いします!」

「だ、そうだが?」

「数いる冒険者パーティーの中からわたしたちを見出だした眼は褒めてあげるわ!良いでしょう、リディ!付いて来なさいな!」

「本当ですか!?」

「その変わり無能ならすぐに追い出すわよ!」

「ありがとうございます!」


リディに褒められまくり気を良くしたプライド。

本当に大丈夫なのかな……?

プライドが「あなたの腕前、見せてもらうわよ!」と張り切ってサラグスを後にしたので、俺とリディは後ろを付いて行く。

アーク村のある方角とは真逆の門から出て、広いフィールドに出てリディの実力を試そうと自分の剣を握らせた。


「あそこにゴブリンがいるわよ!さぁ、行きなさいリディ!」

「わかりました!うおぉぉぉ、ゴブリンめぇぇぇ!」

「ぎぃっ!?」


こん棒を持ったゴブリンに対してやる気を見せながら襲いかかっていくリディ。

切り付けた剣はヒラリとかわされて、大きな隙が出来る。


「あれ……?」

「ぎぎぎぎぃぃ!」

「あっ!?ちょ、まっ!?」


それに激怒したゴブリンは腹の真ん中目掛けてこん棒で叩くと、リディは「がっ!?」と凄い声を出して胃液を撒き散らした。


「ぎん!ぎん!ぎんっ!」とゴブリンの鳴き声と共にぼこぼこにされていくリディ。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」と謝るも一切ゴブリンに話は通じていないようで、彼のサンドバッグにされていた。

あまりにも見ていられなくなり、俺が安物の『鉄の剣』を取り出してゴブリンの心臓目掛けて切り付けた。

「ぎぃぃ」という断末魔と共に3ゴールドが殴られていたリディの背中に落ちていった。

同じパーティーである俺とプライドにゴブリン1体ぶんの経験値が入った。


「きゅぅ…………」


リディはゴブリンにリンチされて、目をまわして地面に倒れていた。

プライドはその様子を見て「こほん」と咳払いした。


「騎士になるには無理だな」

「ちょっとぉぉぉぉ!?リディを見捨てるの!?『おい、そこの木偶の坊。何故、彼が騎士になれないと言い切れる!お前は騎士かっ!?』って言ってた口はどこに!?」

「お前もリディもそれを一言一句言わないと死ぬ病気なのか……?ハッキリ言ってゴブリンの群れならともかく、ゴブリン単体で死にかける奴ははじめて見た……」


因みにこのゴブリンは、アークの森にわんさか出るガルガルに毛が生えた程度しか実力差がない。

プライドの言いたいことはもっともだった。


「み、見捨てないでくださいぃぃぃ」


死にかけて涙と鼻水まみれになったリディの弱々しい声が虚しく響いた……。

この実力でリディは大器晩成型ですらないのだからそりゃあ仲間入りさせないプレイヤーばかりだよねと改めて痛覚した。

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