33、リディ

『そ、そんなぁ!ぼ、ボクを使ってくれるって言ってたじゃないですか!?』

『お前みたいな足手まとい要らないんだよ。剣使う前衛なんかどこでも余ってる。『ハイパーフィーバー』を抜けてもらうぜぇ』


そういえばこんなんだったか。

冒険者ギルドの建物で受付嬢の説明が終わると1人の駆け出し冒険者がパーティーを追い出されるシーンからはじまる。


──『ハートソウル』のゲームはかなり自由に分岐していく。

それは、ユキとカスミ以外のパーティーメンバーを加入させるか、加入させないかすら選択肢があるのだ。

これがまた、中々尖ったシステムである。

登場する仲間全員を加入させるも良し、カスミだけ仲間にして夫婦めおとの2人旅を楽しむも良し。

やはり仲間は増やした方が良いのは鉄板であるが、デメリットもあるのだ。

それは、仲間の数が増える毎に1人に入る入手経験値が減っていく経験値分散システム。

効率良く進めるには有能なユニットだけを加入させて、使い道がなかったり下位互換のユニットは仲間にしないで切り捨てる。

そんなドライな決断を下せるのもまた『ハートソウル』の楽しみでもある。

女だけ仲間にしてハーレムパーティーなんてのも人気は高い。

逆に男だけ仲間にしたカスミの槍サーなんて猛者も世の中にはいるとかなんとか。


『大体お前、『俺の命令には絶対従う』って頷いてたよな。素直に追い出されろよ』

『俺らが悪いんじゃない。弱い自分を恨むんだな』

『そんな……。無茶苦茶ですよ!』


そして、1人目のユニット加入者。

──リディ。

童顔で線が細くて、声から容姿まで中性的。

栗色の髪色を短髪。

身長も、ガタイも大きくない。

穏やかな見た目通りだが、騎士志望という勇ましい一面のある剣士タイプ。

……なのだが、剣士のとしての才能は正直微妙という美味しさがあまりない人物である。

初心者は最初の仲間だからと特に考えもせずにパーティーに加入させるが、大体インフレに置いていかれる微妙なユニットである。

ここで声を掛けるか、見捨てるかでリディの加入が決まる。


「…………」


今回は安牌策としてリディ加入なしでいこう。

そもそも、プライドという剣士の前衛がいる時点で今の俺らのパーティーにはそんなに必要はなさそうだ。

俺も剣装備しているし、3人共剣・剣・ヒーラー剣はバランスが悪い。


「プライド、行こう……アレ?」


どこ行ったプライド?

辺りをキョロキョロと見渡してプライドをさがしていた時だった。





『おい、そこの木偶の坊。何故、彼が騎士になれないと言い切れる!お前は騎士かっ!?』





気高くて、美しい声がギルド内に響き渡る。

あんなところにいたよとプライドを連れ戻そうと視線を向けたら「え……?」と声を出してしまった。


「あん?なんだお前?おっと、すげぇべっぴんさんな姉ちゃんじゃないか!」

「わたしのことは今どうでも良いだろ。なんで、騎士ですらないお前らが彼の可能性を否定する!?」

「あ、あなたは……?」

「プライドォォォォォ!?なにやってんのさ!?」


「すいません!すいません!引き上げさせますから許してください!」と謝罪しながらリディを追放した冒険者2人に頭を下げてプライドに駆け寄った。


「あん?なんだこのガキ!?次から次へと!?」

「おぉ、ユキ。彼がこいつらから侮辱されたからわたしが叱ってやったのだ。お前からもなんか言ってやれ!」

「イキってんじゃねぇぞモブ風情がっ!強い言葉ばっか使ってんじゃねぇよ!弱く見えるぞ!」

「さっきまで腰低かった癖になんでいきなり強く出るんだよ!?なんだお前!?」

「プライドに煽られたら火が付いちまったよ!」


このままプライドだけ引き連れて逃げるつもりだったが予定変更。

プライドが『お前からもなんか言ってやれ!』と煽られたのでモブ冒険者2人に啖呵を切った。


「お前ら、さっき登録したばっかのF級だよな?見てたぜぇ!俺らE級のレベル7だぞ。なぁ、姉ちゃん。今晩は俺らの相手してくれたら優しい俺は許しちゃうよ。うひひひひひ!」

「いひひひひひ!」

「きゃははははははは!レベル7程度で何をそんなに強く出れるのかしら!」

「なんだと!?面が良いからって許さねぇぞクソアマァァァ!」


リーダーっぽい男がプライド目掛けて拳を構える。

しかし、こんなモブ男にプライドが触られるのも、プライドが触るのも嫌なので俺がプライドの前に出た。


「ガキだろうと容赦しねぇ!」と、凄みながら拳を振り下ろす。

「逃げてください!」というリディの必死な声が届く。

が、負ける気はしなかった。


指をチョキの形にして、突き刺すようにして彼の拳を止めた。

男の拳には俺の指が刺さり、そこからツーッと血が垂れてきた。


「い、いてぇ……!?」

「お、おい!?」


男は仰け反って、拳の形を崩し悲鳴を上げた。

全然ダメだな。

10歳の時のカスミより弱いな……と、相棒の強さを再確認してしまった。


「なんだよ、ユキ。美味しいところだけ持っていきやがって……」

「『プライド愛で隊』のリーダーとして、プライドに傷なんか付けられませんよ」

「いつからお前がリーダーになったんだよ。それにあの程度の暴力ではわたしだって傷1つ付かないわよ」


ゲーム本編ではまだレベル3程度のユキではレベル7の彼らは驚異的だが、1年間死と隣合わせのレベリングをしてきた俺にとってはもはやロック鳥レベルに驚異度が引き下がっていた。

もしかしから、2000ゴールド支払えなかった場合のバッドエンドでユキとカスミに暴行を加える冒険者はこいつらのような気もしてくる。


「ぐぅ……。いでぇ……」

「お、覚えていやがれっ!」


モブ冒険者は捨てセリフを吐きながら冒険者ギルドから逃亡する。


「す、すごい……」とリディの呆然とした声が聞こえてきた時だ。


『すげぇじゃねぇか坊主!』

『あの姉ちゃんも堂々としていて大したもんだぜ!』

『ユキさんもプライドさんも格好良いです!』


辺りからは大盛り上がりな歓声が上がる。

俺たちの応対をしてくれた受付嬢のミナは、さっそく俺たちの名前を覚えてくれたらしい。

プライドからイチャイチャされる恥ずかしさともまた違う羞恥心に襲われて頭を下げると、『ユキ君カッコカワイイ!』と女冒険者から黄色い声が上がる。


「目立ち過ぎだ。わたしの正体が知る者が居合わせたらマズイ。逃げるぞユキ」

「そ、そうだね」


プライドは、フードを頭から被ると俺の手を引き冒険者ギルドを飛び出す。

扉を開けると、ぬるい風の感触が肌を撫でる。

そのままプライドが引っ張ってサラグスの街を駆ける。


「ま、待ってください!ボクも連れて行ってください!」


そして、1人。

俺とプライドを追う姿があったようだった。

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