32、冒険者ギルド
「金を使ってグレードの安い装備一式揃ったな」
「まだ根に持ってるな……」
騎士専用制服も、武器も売るわけにもいかず無限に物が入るリュックに俺が預かっている。
「なんだこれ?」とリュックよりも大きい剣や鞭を収納しても一切はみ出さない現象に、プライドも不思議そうにしていたが、親父のリュックをそのまま借りパクしたことしか言えなかった。
「親父が言うには先祖が使ってた由緒正しいリュックらしい。意味不明だよなー」
「お前の先祖、勇者なんだろ?勇者が使ってたんじゃないか?」
「確かに……。いや、そもそも勇者が生きてたのっていつぐらいだ?」
「100年?300年くらいかも」
「だとしたらボロボロだよ」
「それもそうだな……。とりあえずなんか凄いな!」
お互い考えることをやめた。
ゲームのスタッフすら、無限収納するリュックの原理や出所なんかわかっていないはず。
四次元ポケットのようなものと認識しておいて良いだろう。
面倒なシステム面にあーだこーだと考察をしていたらキリがない。
「じゃあ、冒険者ギルドで冒険者登録だ!」
「くっ……。由緒正しいエリィィィトな騎士だったこのわたしが、無骨なその日暮らしの冒険者に堕ちるとは……。わたしの順調なエリィィィト出世コースがぁぁぁ……。わたし、こないだまで十柱騎士だぞ!」
「はいはい。プライドはプライドが高いですねー」
「そういうダジャレは昔から100回以上言われてきているんだ。不愉快だからもうやめろ」
ゲーム本編中にレインから同じダジャレで弄られるプライドのシーンがあったけな。
ゲーム中での数少ない敵役女幹部のプライドのギャグシーンである。
そんな微笑ましいプライドの記憶を思い返していると、冒険者ギルドの建物にやってきた。
そのまま入ろうとした時だった……。
「…………あ」
そういや、今から仲間加入イベントが始まるんだっけな……。
果たしてそれが再現されるのかどうかとちょっと怖くなる。
俺が冒険者ギルドに入らないと、この中の時間が止まっているんじゃないかという不安すらある。
「おやおや?ウチの未来の旦那様は冒険者ギルドを前に怖じけづいたようだ。しっかりしていてもお子さまだな。プッ!」
「なんだと!?」
普段はこうやってお互いを貶し合いながら、夜になるとお互いを求め合う関係になるのが最高にエロ……じゃなくてエモいなぁ……。
エロ……エモさに心で感動していると、勝手にプライドが冒険者ギルドへの扉を開けてしまった。
「ちょっ……!?早いってプライド!?」
準備をする前に扉を開けたことを問い詰めるが、「時間がもったいないじゃないか。『エメラルドの証』を奪いに騎士らがいつ来るかわからないし……」と、至極まっとうな言い分であった。
そうだったなー……。
ゲームでは既に『エメラルドの証』が奪われたのでプライドを追うのが目的だが、俺たちは騎士から『エメラルドの証』を奪われないようにするという冒険の目的そのものが違うんだった。
「いらっしゃいませ」と受付嬢に挨拶をされて、導かれるようにそのまま彼女の前に足が引っ張られていく。
「わたしと連れの冒険者登録をお願いしたい」
「畏まりました。冒険者登録ですね!私はあなたたちの冒険者登録をさせていただきますミナです。よろしくお願いしますねー」
「よ、よろしく」
俺たちはぶっちゃけ冒険者ギルドに入るメリットは薄い。
別に冒険者から出されるクエストなんか受けなくても、俺とプライドでモンスターを狩り続ければお金には困らないからだ。
そうまでしてでも冒険者ギルドに入会した方が良いメリットの方が強いのだ。
そのメリットとしては、冒険者ライセンスである。
冒険者ライセンスが無ければ街に入るのにもぼったくりのような金がかかるという切実な問題がある。
金さえ出せば入れる街ならまだ救いはある。
しかし、このサラグスのように冒険者ライセンスが無ければ入れない街も多い。
商人ライセンスも取れなくもないが、あれは資格やらなんやらと面倒なのだ。
だからこうして冒険者ライセンスが必要になるのだ。
「では2人ぶんで登録手数料の2000ゴールドいただきます」
「俺が払いますね」
冒険者ライセンスを1000ゴールドで取れるなら安いものである。
ここでカスミとアークの森での狩りでの報酬が生きてくる。
序盤からある程度お金が貯まっているのは楽でストレスフリーだ。
因みにゲームだと所持金3000ゴールドスタートで、ここで2000ゴールドを失うイベントになる。
武器を揃えたりしてお金を使い込んでしまい、ここで2000ゴールド以下の所持金でこのイベントが発生した場合は、冒険者ギルドから追い出されてしまう。
挙げ句には、荒くれ冒険者からユキとカスミは暴行されてしまい、ユキ死亡のカスミは処●喪失のバッドエンドになる初見殺しイベントになる。
薄い本の題材になりやすい。
「はい、ありがとうございます。では登録いたしますのでお名前をお願いします」
「ユキ・エメラルド」
「プライド・アイギス」
「…………?」
え?
『プライド・アイギス』ってなに?
『プライド・サーシャ』じゃないの?とポカーンとして彼女を見てしまうが、「後で説明してやる」と受付嬢には届かないくらいの小声で囁かれた。
受付嬢は気にした様子もなく、「わかりましたー!」と冒険者ライセンスを発行していく。
「新人冒険者ということなので、2人ともF級冒険者からスタートになりますね。ランクが低いと入れる街も制限されてしまいますので注意してください」
「え、F級……。エリィィィトなのに!エリィィィトなのに!」
「わ、わかったから……」
不満そうなプライドを宥める。
F級冒険者からスタートになることをカスミも不満がっていたイベントもあったので、なんだか懐かしい気分になる。
流石にカスミは『エリィィィトなのに!』とは言わないが……。
「ランクが上がるとファミリーも作れるようになりますので頑張ってくださいね!F級でもパーティー登録も出来ますが、なにかパーティー名はありますか?」
「なんでも良い。ユキに任せる」
「お、俺?」
パーティー登録は、冒険者のフレンド同士協力することで、バフや好感度上昇などの恩恵がある。
ゲームでは4人1組パーティーが基本で、5人目以降が仲間になったらステータス画面で設定を変えられたがこの世界ではどうなるのかは知らない。
このパーティー名の設定はオンラインなどで使われる名前であるが、オンラインとかないこの世界では単に名前としての機能しかないだろうし、なんでも良いでしょ。
この場面は、純粋にパーティー名をユキに委ねる=プレイヤーに委ねるところであるので、俺がすっと頭に浮かんだ名前を口にすることにした。
「じゃあ、『プライド
「ブッ!?お、お前何言ってんだ!?」
「はい!『プライド愛で隊』ですね!ひゅー、ひゅー!彼女、愛されてますねーっ!」
「あ、あの……。へっ、へんこ」
「変更は効きませんので。では、ユキ様とプライド様の立ち上げパーティー名は『プライド愛で隊』です。よろしくお願いしますね!」
((((;゜Д゜)))
こんな顔になっているプライドに癒されながら、受付嬢・ミナの長々とした説明を受けていく。
10分くらいの長い講座があったが、特に問題のありそうなのはなかった。
「クエストをこなしながら進級できるように頑張ってくださいね!」と、ミナからの他人事な応援をされてこの場を離れていく。
「『プライド愛で隊』って……。ならばわたしが『ユキ撫で撫でし隊』にパーティー名を言っていればっ!悔しいじゃないか!」
「と、ところでプライド……?冒険者登録をした際に名乗ったアイギスという名字は?」
「あぁ。それについてだが──」
単に偽名なのか。
それとも、『ハートソウル』では語られていない設定があるのか。
どちらかなのかを楽しみにしていた時だった。
『お前みてぇな役立たずが騎士になれるわけねぇだろうがっ!』
そんな荒くれ冒険者たちのバカにした声が響いた。
あ……、これパーティーフレンド加入イベントじゃん。
トラブルが起きた声に俺とプライドが視線を持っていかれた。
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