31、朝チュンからの武器屋デート

──チュン、チュン、チュン。




「ん……」


朝、スズメの鳴き声が外から聞こえてきたのが目覚まし時計になる。

夜遅くまで、信じられないことをしていた気がするが夢だな、夢。

そもそもさ、12歳の少年がそういういけないことをすることはないと思うのよ。

前世で30歳まで生きて1回も出来なかったことが、その人生の折り返し地点にすらまだ至ってないのにさ。

そんなリアルな夢に冷や汗をかきながら、一緒に寝ているはずの彼女の姿を見ようとベッドの上で寝返りを打つ。

そこには、生まれたままの姿のプライドが無垢に眠っていた。


「…………」


長い黒髪がサラサラでひんやりと冷たくて気持ち良い。

因みに俺もブリーフすら履いていないでベッドに入っていた。


「………………」


大人の階段を登ってた……!

夢だと思っていたが、リアルの記憶の方にびっしりと焼き付いていた。

プライドはシンデレラになっていたのだ……。

しかも相手は俺。

前世の推しとやっていたという光栄さに包まれながら、朝がゆっくりと過ぎていく……。






─────






「ちょっと身体に違和感がある……」

「うん。そうだね……」


ちょっとギクシャクをした朝を越えて、2人で武器屋に向かうことにしていた。

俺的には気恥ずかしさがあるのだが、プライドは『違和感がある』とか『身体がちょっと痛い』などを訴えるだけで、普通に接してくる。


「そうだ。ユキ、お前のヒーラーの能力で痛みを回復してくれ」

「嫌ですよ」

「なんだと!?お前、それでもヒーラーか!?」


閃いたとばかりにプライドは、俺に回復能力を求めてきたが、それは断固拒否した。

その反応は予想外らしく、この時ばかりは口を尖らせてきた。


「そうじゃなくてさ……。俺とやった痛みあかしを俺の手でプライドから取り除きたくなくてさ……」

「うっ……。ろ、ロマンチストめ……!」


この時ばかりはプライドも照れを隠しきれていなかった。

ロマンチストか……。

確かにプライドの前だけでは俺はロマンチストなのかもしれない。

常に彼女にときめいてもらいたいと思うのは男として当然ではないだろうかと心で言い訳をしていた。

そんな初夜の記憶が鮮やかに残っている中、サラグスの武器屋に辿り着いた。


「へいらっしゃい。好きに見ていってくださいませ」


おっさんの武器屋の接客を聞きながら、プライドは黙って店内を見回していた。

飾られた剣を見ながら「ふーむ……」と見つめている。


「どうした?その剣が良いのか?」

「いや……。質が悪すぎる……。なんで金を使ってまで武器のグレードを下げる必要があるのだっ!」

「そもそも駆け出し冒険者になる予定の奴は『ディアナ』とか『多属性ウィップ』とか騎士の武器なんか持ってないのよ……」


冒険者ギルドに行く前にプライドの武器、防具を揃えに来ていたのだ。

プライドが生きているのを隠す必要があるのに彼女専用武器に、騎士の制服と彼女の存在を隠す気がないものは封印することに決めた。

しかし、エリィィィトなプライドは装備にこだわりがあるのかあまり乗り気じゃない。

自分の装備を外すことに理解は出来るが、まだ納得出来ていないのだ。


「エリィィィトで有名な自分が憎いっ……!」

「別に良いじゃん。弱い武器を装備してレベリングの効率を上げて基礎から強くなっていこうよ。自分はたいして強くないのに、強い武器だけで無双するだけとかめっちゃ格好悪いだろ?」

「そもそもわたし、もうすでにレベル40越してるんだからな?」

「でも、それでプライドよりレベル低い俺に負けたんだからさ……。武器頼りじゃなくて基礎から強い方がエリィィィトじゃん」

「確かに!そっちの方がエリィィィトっぽいじゃないか!武器を封印する決意が固まったぞ!」


単純だなー……。

エリィィィトと持ち上げればなんでもしてしまいそうな彼女がちょっと心配になった。


「流石に俺も木刀じゃ簡単にポキッといくだろうし武器を変えなきゃな……。すいません、売却をお願いします」

「安物な木刀だのう……。売却額は10ゴールド」

「……はい、お願いします」


チーン。

転生してから1年以上愛用してきた武器は、ガルガル10匹ぶんという悲しいお金に変わったのだった。

ゲームとまったく同じ売却額に泣いた……。


「ユキ、お前は自分の武器を決めたか?」

「俺は無難に『鉄の剣』にするよ」


いかにもなRPGの序盤アイテムである。

しかし、意外にも『ハートソウル』では攻撃力は低いが、軽いことで評価は高いのだ。

最速RTAでは序盤でこの『鉄の剣』を終盤まで使い続けるルートの走者もいるくらいなのだ。


「やっすいなぁ……。宿屋に寝泊まりする金額と同じじゃないか。『ティラノアックス』とか『イエローソード』とか質の良い武器がいっぱいあるのに……」

「あー、ダメダメ。そもそも俺、力ないから重い武器使えないのよ」


ユキは力がない関係で、強さを重視した重い武器ではまったく役に立たないのだ。

各キャラクターによって設定された隠しステータスの力よりも重い装備を付けると素早さも下がるし、命中率も下がるという説明書にはない悪魔の鬼畜仕様があるのだ。

そもそも装備出来る力の仕様自体、ゲームのステータス画面にも表記されていない。

この仕様を知らないプレイヤーの大半は、質の良い武器を購入してしまい知らない内に縛りプレイをしていたなんてこともよくある。


「そうか。ならわたしも『鉄の剣』にしよう」

「え?でも、プライドなら『イエローソード』とか『鉄砕剣』とか扱えると思うけど……」

「わ、わたしがユキと同じ武器が良いのだ……」

「……え?」

「コホン……。ぺ、ペアルックというやつだ」

「…………」


かっ、かわえええぇぇぇぇ!

ペアルック!

武器が同じことをペアルックとは呼ばない気はするけど、まったく気にならない!

プライドと同じ武器。

同じものを握っていると思っていると力が沸いてくる。


「ユキが持っている剣を握っている。それが力を溢れ出させてくれるじゃないか!」

「…………」


プライドの言葉をなんか変な意味に捉えてしまい、ちょっとだけ興奮してしまったのは触れないでおこう。

こうして、お揃いの武器と、プライドに似合う軽装の武器を俺が見繕ったりして冒険の準備を整えていった。

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