30、ぶっかけとゴムと無知
「ほれほれー。ユキにぶっかけてやる。ぶっかけてやる。きゃははははは!」
プライドが水を出したシャワーをこちらに向けてバカにしたような態度で高笑いをしていた。
閉ざされたのシャワールームの中で、彼女の気高い高笑いが反響していた。
「や、やめろプライド……。しかもこれ、冷水……」
あと、女性が男性にぶっかけるって言わないで欲しい。
頭の上からシャワーから発射された冷たい水を浴びた俺はびしゃびしゃになり視界が歪んでいた。
「なにを言うか。お湯ならば湯気でお前の生まれたばかりの姿が見えないではないか!それに、お前もわたしが生まれた姿が見えないだろ。未来の夫へのわたしが身体を張ったサービスシーンというやつだな」
「水が目に入ってプライドの身体が見えないんですが……」
俺が先にシャワールームに入った途端に、プライドが後ろから胸と壁に挟まれて水をおもいっきりぶっかけられるという虐めをいきなり受けていた。
「それにしても良い身体をしているじゃないか。肉付きもしっかりしている。……が、プッ」
「ねぇ?なにで笑ったの?なにで笑ったの?」
「それはお前……。ユキのユキが……ぷっ。ちっちゃいものが小さく成長して……。くっくくく」
「ほっといてくれ……」
12歳のユキの身体が悪いのだ。
前世の俺ならもっと大きいはずだったのに……。
悔し涙が、シャワーの水と混ざりあい下に垂れていく。
「なぁに。わたしは小さいものが大好きだ。小さい猫、小さい犬、小さい恋人。うん。わたし、小さいものが好きだったんだな」
「いやだよ、そんな自覚のされ方!?」
「きゃはははははは!シャワーでこんなにムラっときて、愉快な時間が流れるのははじめてだ」
30分間、ずっとシャワー室でプライドに笑われながら身体を洗いあった。
確かに夢見たプライドの生まれたままの姿だったが、男として情けない気持ちに落ち込みと恥ずかしさと嬉しさが絶妙に融合されて、よくわからない感情が出来上がった。
─────
「うん。ユキの頭、泡の匂いがして清潔感があるな」
姿勢を低くして、シャワーが終わったばかりの俺の頭に鼻をクンクンとさせるプライド。
お互い下着姿で部屋に戻っていた。
「しかし、ユキはお子さまなおパンツ履いているんだな」
「パンツはどうでも良いでしょ!」
サキ曰く、『髪も白いのだし白いパンツがユキには似合うわよ』というお姉ちゃんチョイスのブリーフを常時履いていたのだ。
因みにプライドは黒いブラに黒いパンツとエロくてセクシーという感想しか浮かばない姿で目の前にいる。
「くすくすくす。子供なお前をバカにしたくなるのに、なんでこんなに愛しさを感じるんだろうな……」
「プライド……」
「女ってこんなに男のことで頭をいっぱいに出来るんだな……。毎日、毎日身体を鍛えることとか、出世のこととかそういう女を捨てたことしか考えたことなかったからな……。不思議だな」
真面目な顔になりながら、彼女が気持ちを告白する。
彼女のブラや下着を見ないように顔に集中するも、やはりチラチラと目が磁石になったように吸い込まれそうになる。
「というか、チラチラ見すぎじゃないかユキ?身体ばっかり見て」
「プライドの身体が……、魅力的過ぎるんだよ……」
「エリィィトの身体をこんなに気に入る男がいるなんてな……」
「むしろ、騎士としてプライドと働いていて、プライドを意識しない奴がバカ」
「ばっ!……お前、そういう照れさせるのが好きだなぁ!このっ!」
「うわっ!?」
プライドが俺の身体を引き寄せるようにして腕を回し、引っ張られる。
頭を叩かれるか殴られるかしそうと本能で感じで腕をひっぺがえそうとジタバタさせた。
「ちょ、暴れるなよ……」と、プライドが少し苦戦していた。
「あ……」
無理矢理押さえ付けられていることと抵抗。
2つの拮抗した力のバランスが崩れて足で地を立てなくなり倒れてしまう。
「うわわわっ!?」とプライドの驚愕した声が聞こえたので、彼女を巻き込んで転倒したと後悔した時だった。
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆ……!?」
「ご、ごめんなさい!」
押し倒すような体勢になっていた。
プライドの顔が3センチもすればぶつかるくらいに近い。
彼女の吐息が唇にあたる。
俺の吐息も彼女の唇か首あたりにあたっているのだろうか。
お互いに赤くなりながら無言になっていた。
「…………ふっ」
その膠着状態から100秒程度経った頃だろうか。
彼女が笑って吹き出した息が顎らへんを掠めた。
「わたしはこれからこんな小さい狼に襲われるのかな?」
「プライド……」
プライドは黒くてシンプルなブラとパンツ。
俺はブリーフ一丁の姿。
そして、すぐ目の前にはプライドの姿。
「…………さっきさ、宿屋のおっちゃんにこの部屋の秘密を教えて教えてもらったんだよ」
「秘密?なんだ?お宝でも隠されているのか?」
「ある意味お宝が隠されているのは間違いないな……」
「は?」
「ちゃらりらりー」
前世の手品などのBGMで使われていたオリーブの首飾りの音楽をセルフで口にしながら、体勢を低くしてベッドの下に手を突っ込む。
そこに小さい箱があり、その箱の紙質で確信した。
そのまま箱を引きずって、ベッドの下からそれを取り出した。
「ん?なんだそれは?」
「ゴムだよ、ゴム」
「ゴム?ゴムとは何に使うのだ?」
「…………え?」
真顔でプライドは衝撃的なことを言ってのけて、嫌でも思考が停止する。
「わ、わからない?」と取り出して見せてもピンときていない。
「なんだ、これは?説明してくれ」
「だ、だからこれはね……。病気対策とか……。子供が出来ないようにね……」
「ふむふむ。なるほど、凄いじゃないか」
プライドが俺の説明にコクコクと頷いている。
頷くために胸が揺れるのが、視線を奪われる。
「…………そ、そんなのを使う行為があったのだな!画期的じゃないか……」
「あー……。うん」
「騎士はみんな生、生と言っていたからな。生がデフォルトだと思ってたぞ」
「やべぇじゃんその騎士団……」
槍サーかなんかなの……?
騎士の名なんか返上してまえよ、と文句を言いたくなる。
「なら、今すぐユキのユキに使ってみようじゃないか」
「…………ええ!?」
「付けさせてくれ」
「うわわわわわっ!?」
ブリーフに手を伸ばされて死守する。
この人、怖いとはじめてプライドに大好き以外の恐怖の感情を抱くことになったのであった。
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