29、ユキとプライドの関係

「おーい、開けてくれプライドっ!俺がこの宿屋の金出したんだけどぉっ!」


部屋の扉をドンドンと叩いていく。

プライドが受け取った部屋の鍵の数字とプレートのナンバーは丸っきり一緒。

部屋違いなわけがない。

鍵を閉めて部屋内にいる確信がある。


『プライド?知らない名前ですね?』

「嘘つけぇ!声でプライドだってわかるからなっ!」

『なっ!?嘘だっ、お前!』

「大丈夫だよ。どんな声であってもプライドの声は忘れないから」

『そういうところを照れないですんなり言えるのが本当にユキだな……』


プライド役を務めた声優さんは俺が大好きだったためによく覚えている。

よく悪女とか、事件に巻き込まれて死ぬ女子高生のモブとか、ざまぁされる勇者パーティーの一員とか、ミステリーアニメの被害者とか色々なアニメでエロい演技をして殺される人で有名な声である。

彼女の声を聞くたびに息子が反応するので、忘れるはずも聞き間違えるはずもない。

「開けてー」と懇願しても、『やだ。メリットがない』とツレないプライド。

1人部屋では無くなったことに酷く怒っている様子。


「メリットがないか……」

『そ。世の中ギブアンドテイクよ。エリィィィトな騎士だって収入や誇りとかが無ければ人なんか助けないの。坊やがわたしのメリットになること、なんかある?』

「なら、もし部屋に入れてくれないなら、この廊下で俺がプライドの大好きなところを1つずつ大声で言っていくからな。いいな?」

『……は?』


メリットで開けられないなら、開けることによるメリットをプライドに提示した方が手っ取り早い。


「俺がプライドの好きなところ1つ!いつも堂々としていてマジもんのエリィィィトなところ!」

『なっ……!?』

「2つ!俺の言うことを毎回毎回大真面目に聞いてくれるところ!」

『ちょ、バカ!やめろっ!』

「3つ!目元の黒子が妖艶で美しいところ!」

『わかった!開ける!開ける!開けるからやめてくれっ!』

「4つ!すぐに照れてギャップ萌えを披露してくれるところ!」

「ほら、開けた!すぐ入れっ!」

「5つ!ムカつくところ含めて全部好きっ!自慢の女だって世界中に広めたいっ!プライドが好きですっ!」

「もう開いてるんだから早く入れバカタレ!」

「言葉のチョイスが『バカタレ』って良いなぁ」

「無敵かよこいつ……」


プライドのメリットに触れたのか、むしろ「早く入れ」と煽ってくるのだった。

彼女の命令に従い、なんとか部屋の中に入れてもらった。


「ふぅ……。焦ったぁ。一晩中プライドの好きなところを叫び続けながら廊下で眠らなければいけなかった……」

「そんなことを暴露されたわたしが1番焦るわ。冗談に決まっているだろうに。イタズラを愛情で返すな」

「イテッ」


プライドの軽い手刀が頭の真ん中に飛んでくる。

彼女から受けた痛みも心地が良い。


「と、ところでさプライド……?」

「どうした?」

「俺とプライドの関係は恋人と呼んで良いのかな……?」

「い、いきなりプラトニックなことを言うじゃないか……」

「お、俺が一方的にプライドが好きなだけなんじゃないかって不安になる……。だから、いくらでも君に好意をぶつけたい……」

「お前というやつは……」


言葉で俺が一方的にぶつけるだけならいつでもブレーキは踏めた。

しかし、キスをされて、男女2人でアーク村を出て旅をする。

そんな仲なのに、『もし、プライドからはなんとも思われていない』というのが怖い。

だから、ハッキリ言葉で欲しかった。


「ぷふっ……。そういうイエスかノーかを聞かないと確信出来ない辺り子供だなお前……」

「だ、だって……」

「言葉なんかいくらでも偽れるだろ」

「え……?」

「だからわたしは、2人っきりの態度で示してやる」

「プライド……」

「んっ……」


プライドから俺の唇を奪われる。

しかも、ただのキスじゃない。


「プラっ!」

「んんんっ」

「ふら……いと……」


彼女の舌が無理矢理押し込まれてくる。

なにこの、現実じゃありえないシチュエーション……?

行為の名前はわかっても、その行為がどんな意味なのか?

わからない……。


「ぷはっ……」


唇を離したプライドが舌を出している。


「大人のキスだ。子供のお前にその意味がわかるかユキ?」

「え……?」

「こんなこと、他の男にすると思うか?」

「そ、それは……」


意味を理解してしまい、プライドを直視出来ない。

彼女の顔から目線を外そうとすると、それを予想したようにプライド両手で俺の両耳をガッと掴み首の動きをロックされた。

「目を逸らすな」と一言釘を刺された。

真面目な迫力に圧倒され、「っ!?」と息が漏れた。

回復しまくりでプライドの決闘でインチキしまくった俺だが、真面目に戦ったら俺に勝ち目がないくらいにはまだまだ実力差がかなり開いていることを実感させられる。


『そういう意味だ。口に出さないとわからないか?』


顔が近付いてきて、右耳のすぐ側に唇を近付けて小声で宣言する。

彼女の漏れる吐息が右耳に接触し、イケナイ気持ちにさせられる。


「く、口に出して欲しいです……」

『恋人だ。婚約者だ。未来のお前の妻だ。な?今日も言ったじゃないか。『未来の旦那様』と』

「…………」

『わたしのすべてはお前のもの。お前のすべてはわたしのものだ』

「プライド……!」


全部を耳元で、小声で囁かれる。

もう無理、もう無理、もう無理……。

耳が恥ずかしさで爆発しそう……。


「まったく……。初日くらいお前と距離を置いて冷静に考えたかったから2部屋用意しようとしたのに……。いきなりダブルベッドじゃないか」

「え?」

「徐々にお前との関係を築きたかったがやめだ。お前を果てさせてやる」

「ぷ、プライドさん!?」


「にぃぃ」と悪役女幹部なのを思い出させる悪い笑みを浮かべてくる。


「今日は疲れたな……。やはり歩きっぱなしでは脚が痛くなる」


ポイっと目の前でストッキングを脱ぐと俺に投げ渡してくる。

ぬるい体温が残っていて、彼女のぬくもりが伝わってくる。

心の底からあたためる熱がストッキングに貯まっている。


「なにをストッキングでうっとりしているんだユキ。シャワーを浴びるぞ」

「は、はい。お待ちしています」

「バカかお前?女がシャワーするのを男に確認してストッキングを脱いだんだぞ。子供にもわかりやすく教えてやる。一緒に入るぞ」

「是非、お供させていただきます姫様!」

「騎士はわたしなはずなんだが……」


あたたかいストッキングを握りながら、一緒に更衣室へと向かっていった……。

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