28、割れる意見

「あっ!我が敬愛なる上司に敬礼!」

「敬礼っ!」

「うむ。ご苦労だ」


サラグスの門番をしていた2人がピシッと敬礼をする。

顔パスと言わんばかりに、プライドに道を開けていく。

いやいや……、ガバガバセキュリティが適応され過ぎでしょ……。


前世のセ●ムのセキュリティとか見せたら腰抜かすんじゃねーかってくらいにアーク村と同じでザルな警備に恐ろしい世界だと再認識させられる。

やっぱり人力に取って代わり、機械に変えられてしまうことに頷かされる。


「敬愛なる女上司よ!そちらの子供はどちらで?」

「わたしの子供だ。わたしに似て可愛いだろ?」

「ボク、コドモデース!」

「こんな女の子みたいな顔付きでゴブリンに襲われていそうなショタ顔の子が上司の子供でしたか。失礼いたしました!」

「可愛いだろ?」

「はい!」

「では、仕事に戻れ」


プライドの指示でまた門番に戻る2人。

ツカツカツカと2人で歩幅を合わせて、門番たちが見えなくなる位置まで歩いていく。


「見たかしらユキ!これがエリィィィトのスマァァァトなやり方よ!」

「認識妨害魔法使った力技じゃねーかよ!」


カスミの兄貴の前で使った『ジャミング』を使い、門番らのプライドと俺の認識を歪めて顔パスでサラグスに侵入するという荒業である。

カスミのリアルファイトとはベクトルが違うだけで強行突破をしたことには変わりない。


「あいつらプライドをどんな認識したんだよ!?」

「彼らが言ってたじゃないか。奴らには私が女上司に見えている」

「絶対エロいやつじゃないかぁぁぁぁぁ!ただでさえエロいデフォルトプライドが30倍増しでエロいフィルターを掛けられたあいつらが羨ましいぃぃぃぃ!」

「……たまにお前、おっさんみたいなこと言うよな」


女上司プライドとかいうパワーワードが脳内に強いショックとなって拡散していく。


「自分がミスした仕事を一緒に残業して居残ってくれる女上司なんか存在するかぁぁぁ!帰りに酒をご馳走してくれる女上司なんかいるかぁぁぁ!酔っ払ってお持ち帰り成功出来る女上司なんかいるかぁぁぁ!上司なんて頭固いおっさんしかいないじゃないかぁぁぁぁ!」

「どうしたんだお前……?」

「失礼。プライドが女上司に見えた門番が羨ましくてつい暴走してしまった」

「そ、そうか……。いつかわたしがお前の上司になれるように取り計らおうじゃないか」

「マジで?」


果たして死んだ扱いのプライドと、子供の俺がそんな立場になれるまでどのくらいかかるのかという疑問は残るが、考えないでおこう。

女上司プライドが本当に実現出来る世の中な変えていきたい。


「きゃはははは。それにしても、お前わたしの子供だと思われてたな。くっくくくく」

「プライドの子宮から生まれたと誤認されたのだと思えば光栄さ」

「くっくく…………、くうううう!?」

「くうううう!」

「ま、真似をするな!まったく……、すぐにわたしを恥ずかしめようとする……」


プンスカと頬が赤くなりながらも説教をしてくるプライド。

こんな何気ない会話を彼女としながらの旅は本当に心が安らいでいく。


「行くぞ、ユキ……。宿屋に行こうじゃないか」

「こう……。すぐにキリッとなるのが可愛いなぁ……」

「っっっ……。ほら、ついて来ないと置いていくぞ」

「待って待って!」


プライドが後ろにいる俺を振り返らないでずかずかと宿屋に向かって足を早歩きにする。

前世の記憶があるからか、見覚えのある風景に懐かしさを感じつつも地理が頭に入っていないのでプライドと別れたら再会出来る気がしないので必死にプライドの背中を追いかける。

門から10分ほど歩くと、プライドが「あそこだ!」と指しながら宿屋まで案内した。

慣れた手付きで宿屋の扉を開ける。


「いらっしゃいませ。お2人ですか?」

「あぁ。2人だ。2部屋貸してくれ」

「えー、お金もったいないじゃん。1部屋、ダブルベッド」

「なんだと!?この坊やのことなんか無視して2部屋貸してくれ!」


というか、せっかくプライドと旅しているのに部屋が別々なんて悲しいじゃないか!

ここはダブルベッドだとお互い譲らない。


「絶対に2部屋だ」

「ダブルベッド!ダブルベッド!」

「えっと……。どちらにすれば……」

「ならここは、公平にご主人が決めてくれ」

「あっ!ずりぃ!」


ヒゲを生やした宿屋のおっちゃんは噛み合わない言い分に戸惑っていたのをプライドが彼に選択権を与えた。

プライドがおっちゃんに選択権を委ねた理由はすぐに思い至った。

ダブルベッドの部屋よりも、2部屋借りた方が金額は高いのだ。

つまり、宿屋のおっちゃん的には売上を出すためにもプライドの2部屋の案に乗っかるのが定石だ。

つまり、プライドは公平と言いながら第3者に選択権を与えながらも、その実自分の案が選ばれる確信があるのだ。


(だってわたし、エリィィィトですから!)と、こちらにドヤ顔を向けているし確信犯である。


「わかりました。では、ダブルベッドの部屋を1つご用意します」

「なんだと!?」

「良いんすか!?2部屋の方が売り上げ金額高くなるんすよ!?」

「俺の店の売り上げなんかどうでも良い。坊主、大人になってこいよ」

「おっちゃん……」


ヒゲのおっちゃんは、俺の野望に気付いているらしく、親指をグッと向けてくる。

俺も彼に倣いグッと同じポーズで返す。


「ぐぬぬぬ……。まさか宿屋の主に裏切られるとは……っ!客の要望に従わない悪い店だとレビューを流してやる!」

「そ、それだけはっ!というか、客の要望には従っただろ!?」

「大丈夫です、おっちゃん。俺が阻止しますから。任せといてください!」

「ブラザー!ありがたやー!」

「なんでご主人と仲良くなってんだよ。とりあえずダブルベッドで良いから鍵をくれ」

「あ、金は俺が支払います」


鍵を受け取ったプライドは1人で部屋へとスタスタ歩いて消えていった。

俺は苦笑いをしながら700ゴールドを支払っているとおっちゃんから「へい、ブラザー」と呼び止められる。


「ん?どうしたっすか?」

「ベッドの下に夜に使うゴムがあるかもな……」

「夜に使うゴム……?なにそ……、はっ!?」

「あの姉ちゃんとはきちんと節度を守った付き合いにしなよ坊主。年上女房良いなぁ!」

「そ、そんなぁ!おっちゃん!止めてくださいよぉ!」

「ほらほら、おっさんの俺なんかよりブラザーは女のケツを追っかけな!」

「あ、あざす!」


話のわかるおっちゃんに頭を下げると、俺は急いで宛がわれた番号の部屋まで走っていく。

「ぷ、プライド?開けちゃうぞ……」

なんて、緊張しながらドアノブを捻った。



──ガンッッッ!




「…………なに施錠してんだプライドォォォォ!」


あまりにも無情な彼女からの拒否反応に俺は扉の前にヘナヘナと崩れ落ちた……。

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